「赤羽末吉展」に行く
昨日(2010年6月12日)、2010年5月12日から7月11日まで、練馬のちひろ美術館で開催されている「生誕100年 赤羽末吉展〜絵本は舞台だ!」に行ってきた。
併せて、ちひろ美術館では2〜3ヶ月ごとに常設展の絵も掛け替えているそうで、今現在開催されている「ちひろの雨」も見てきた。
入館料は大人800円で、サイトのアンケートに答えるとその最後の画面がそのまま100円割引券になっていた。
実は、「ちひろ美術館」に行ったのも初めてである。
中野から移動したので、荻窪駅から石神井公園域のバスに乗り、上井草駅入り口まで15分ほど、そこからのんびり歩いて7〜8分という場所にあった。
バス停から美術館までは電柱に案内がずっと出ているので迷わずに行けた。
ちひろ美術館は、いわさきちひろの自宅を元にしているのだそうで、だから練馬の住宅地の真ん中に周りの住宅に溶け込んだように建っているのだと納得した。
展示室は4室あって、うち2室で「ちひろの雨」が、もう2室で「赤羽末吉展」が開催されていた。
赤羽末吉といわれてもピンと来なかったりするのだけれど、「スーホの白い馬」や「かさじぞう」おおきなおおきなおいも」といった絵本のタイトルを聞けばピンと来る。
とは言いつつも、私はこの「赤羽末吉展」に行くまで「スーホの白い馬」を描いたのが赤羽末吉という人だとは知らなかったし、「おおきなおおきなおいもの絵本は子供の頃に持っていたと思うのだけれど、「スーホの白い馬」の絵を描いた人と同じ人が描いたものだとは知らなかった。
ちひろ美術館は、1998年に赤羽末吉の全遺作約6900点の寄贈を受け、作品の調査・研究を進めてきたのだそうで、今回は、「かさじぞう」や「つるにょうぼう」といった日本の民話を「再話」した絵本はもちろん、「ほしになったりゅうのきば」といった中国の民話というのか伝承というのか、そういったお話に取材した絵本の原画が展示され、そのそばには「絵本」そのものも置かれて自由に見ることができる、という趣向になっていた。
併せて、アトリエの様子も再現してあったのが面白い。
絵本と原画を並べて見ていて思ったのは、絵本というのは開いた状態で構想されているのだな、ということだった。
私はどちらかというと「開いた絵本の右側、左側」という感じで真ん中で分割して見ることが多かったので(絵本の中には、左側が文字で右側が絵、というように完全に分割しているものもあるような気がする)、横長に1枚の絵として考えられていることが判って、少し驚いた。
赤羽末吉は、絵本を描き始めてしばらくするまでアメリカ大使館文化交換曲の職につき、また、舞台美術の仕事もしていたということで、絵本の設計図などを見ていると漫画のコマ割りを想像させる。
この展覧会のサブタイトルが「絵本は舞台だ!」になっているのも、そういう発想で構想された絵本が多いからということの表れなんだろう。
「スーホの白い馬」の絵本の「絵」が、赤羽末吉が満州にいたときに旅行したりした場所の記憶やスケッチなどが元になっているというのも意外だった。
赤羽末吉自身が「モンゴルの景色はまっすぐに続く地平線だ」というような趣旨のことを書いていると読んで納得もした。
確かに、それなら絵本の横長の画面を一つの絵として考えた方が地平線が強調されるよ、というのと、もうちょっとモンゴルは乾燥していないと思うなと呟きつつもやはりそこにある空気が本物であるからこそ、この絵本が今でもたくさんの人に愛されているのだなと思う。
一方の「ちひろの雨」も、原画と元になった絵本とが両方展示されていて面白い。
もちろん「絵本」の形にはなっていない絵も多数展示されていたのだけれど、私にとっては「原画」と「絵本」の関係を見られたのが面白かった。
「ひさの星」という絵本は今でも持っている絵本の一冊なので(もちろん、「スーホの白い馬」も)、その絵本と原画とに同時に出会えるというのは嬉しかった。
いわさきちひろの絵は、水彩で、その「水」のにじみやぼかしがポイントだと思う。
印刷された絵本になってしまうとどうしてもその辺りがのっぺりとしてしまうので、紙に描かれたふくらんだ感じの絵が見られるのは嬉しい。
また、その「紙」にも色々と気を使っていることが判った。
絵本がたくさん置かれていた図書室などもかなり気になったのだけれど、カフェでお茶をし、ミュージアムショップで少しお買い物をしたら、あっという間に閉館の5時になってしまった。
ちひろ美術館は、規模はそれほど大きくないのだけれど、説明もしっかりしているし、照明がかなり落とされていて保存にも気を使っていることが判る。
ちひろのアトリエを再現した部屋なども、細部に気を使っていることが判って、その「誠実に」という感じが(少し、前面に出すぎている感じもするけれど)快い。
なかなか居心地の良い場所で、面白い美術展だった。
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