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「W〜ダブル」
作 ロベール・トマ
演出・上演台本 G2
出演 橋本さとし/中越典子/堀内敬子/コング桑田
山西惇/冨森ジャスティン/冨森アンドリュー
観劇日 2010年8月27日(金曜日)午後7時開演
劇場 ル・テアトル銀座 4列20番
上演時間 2時間45分(15分の休憩あり)
料金 7000円
ロビーではパンフレット(1500円、だったと思う)等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
(未見の方はぜーったいにこの下を読まないでください。)
この「W〜ダブル」というお芝居は、とにかくチラシが格好良かった。
橋本さとしを挟んで中越典子と堀内敬子が睨み合っていて(実際に視線を合わせているわけではないのだけれど、決して仲良くは見えない)、3人とも黒のシャープな印象の服を着ている。
橋本さとし、堀内敬子、コング桑田と揃っていたので最初は「ミュージカルか?」とも思ったのだけれど、真っ向勝負のストレートプレイだった。
大きなお屋敷の一室が舞台で、堀内敬子演じる家政婦のルイーズが中越典子演じる「奥様」のフランソワーズを朝食に呼ぶところから始まる。
結婚半年なのにギャンブルと酒に溺れている、橋本さとし演じるリシャールの帰りを待っているのか待っていないのか、微妙な空気が漂う。
ルイーズがリシャールを恐れ、フランソワーズが何だかんだ言いつつも自分の財産からリシャールの借金を払ってやっているという構図が見えてくる。
そこに、ルイーズ宛の封書が刑務所にいるミシェルという男から届く。
ミシェルはルイーズの恋人で、実はリシャールとうり二つの弟であり、リシャールの身替わりにさせられて宝石泥棒の罪を着て刑務所に入っていたのだという。
フランソワーズの脳裏にある「作戦」が閃く。
一方のルイーズは「旦那様にはこのことは言わないでください」とフランソワーズをかき口説いたわりに、その封筒を忘れて行ってしまい、フランソワーズはソファにその封筒を隠す。
これがなかなか発見されなくて、いつリシャールに見つかるのかと(見つかるのだろうということは容易に予測がつくわけだけれど)かなりハラハラドキドキしてしまった。
どこかのカジノから帰ってきたリシャールは、山西惇演じる弁護士のサルトーニと一緒で、このサルトーニは弁護士なんだか借金の取り立て屋なんだかよく判らない風情である。
そして、リシャールは、やはりフランソワーズに多額の小切手を切るよう脅しをかけ、フランソワーズは命の危険まで感じて小切手を切りそうになるけれど、寸前で思いとどまり、意外なことにリシャールは「自分の株券を売る」と言い出してマルセイユに出発する。
マルセイユに行くリシャールに結構な金額の小切手を切ったフランソワーズには彼女の思惑があり、橋本さとしが二役で演じるリシャールにうり二つな弟のミシェルを身替わりに協議離婚をしようと思い立つ。
それを伏せてルイーズにミシェルを連れて来るよう言いつけたフランソワーズは、リシャールから離れてミシェルと2人遠く離れた国に行きたいと言ってお金に目がくらんだルイーズとともに、ミシェルを説得し、訓練する。ずる賢いリシャールと気弱なミシェルでは性格が違いすぎるくらい違うし、リシャールの服を着せるとミシェルには大きすぎるみたいだし、リシャールは先ほど怒り狂ってガラスのグラスで左手を怪我しているし、さまざまに危険がありつつもちょうど現れたサルトーニはごまかしたおし、彼が弁護士であることを知るとこいつも巻き込んでやれとばかりに協議離婚の証明を頼む。
それにしても、堀内敬子が可笑しい。
有能そうな家政婦、何だかやたらと動きがギクシャクして可笑しいと思っていると、そのコミカルな動きのまま「金にがめつい」女に変わり、ミシェルをコントロールして悪事にひっぱいこも卯としている悪女にも見えてくる。でもやっぱり動きはコミカルだから、「単なるちゃっかり」な女にも見える。
ところがそうそう話は上手く転ばない。たっぷりお金を渡してマルセイユで遊んでくるよう送り出したリシャールが早々に帰ってくると電話を寄越す。
ビビリまくるミシェルとルイーズに、フランソワーズは、帰ってきたリシャールに睡眠薬入りの酒を渡して眠り込ませ、彼が眠り込んでいる間にミシェルを身替わりにして協議離婚をしてしまえばいいのだと説得する。
しかし、どこまでも勘が鋭く悪賢くずる賢いリシャールは、フランソワーズとルイーズの態度から何か変だと気づき、フランソワーズが飲まそうとして睡眠薬入りのウィスキーやワインをまんまとフランソワーズに飲ませ、ここに来てソファに隠されたミシェルからの封筒を発見し、ミシェルが入っていた刑務所の近くにあるバーに連絡してミシェルが出所したことを知ってしまう。そうして、リシャールは、彼らがやろうとしていたことに気付くのだ。
本当に憎まれっ子世にはばかるの典型である。
そして、おもむろにピストルを取り出してまずは庭に隠れているミシェルを殺すと出て行こうとしたところでフランソワーズともみ合いになり、銃が暴発してリシャールを撃ってしまう。
フランソワーズは睡眠薬と人を殺したショックで倒れてしまう。
ここまでで一幕でだ。
橋本さとし演じるリシャールがほんっとうにイヤな奴で、伯父の資産を相続して超絶お金持ちになっているらしいフランソワーズを金づるとしか思っておらず、その旨を本人に向かって公言する。ミシェルのことも、その恋人のルイーズも含めて、怒声と暴力とで押さえつける。
いきなり現金になったルイーズにはあまり共感できなかったけれど、そういえば悪事を働こうとしているフランソワーズに味方する気持ちになっていて、フランソワーズの仕掛けた罠を悉く外して行くリシャールが小憎らしいったらない。どんどん、見ている自分の方がイヤ〜な気持ちになったくらいである。
二幕の開始は、睡眠薬を飲んで倒れ込んでしまったフランソワーズが目を覚ましたところからである。
ルイーズが側に平気な顔で立っていて、リシャールはミシェルと2人で運んで井戸の底に落としてしまったことを告げ、このまま最初の筋書きを実行してリシャールが死んでしまったことを隠そうとフランソワーズを説得する。
睡眠薬にまだやられているのか、「とんでもないことになりそうな気がする」と言いつつルイーズの提案をフランソワーズは受け入れる。
ここから先は怒濤の展開である。
ミシェルの手のひらに怪我がないことからサルトーニが「リシャールがミシェルを演じていた」ということに気付いてしまう。
サルトーニは、詐欺の共犯であるルイーズとミシェルを見逃そうとするが、「リシャールがいなくなってタガが外れた」見せるが口を滑らせ、リシャールが死んでしまっていることにサルトーニが気付く。
弁護士として殺人は見逃せないというサルトーニをルイーズが殺してしまう。
ルイーズは、「奥様を操ってミシェルも操ってお金を手に入れようとしたんだ」と告白し、ミシェルにサルトーニの死体も井戸に放り込むよう命じ、フランソワーズにこの「お芝居」の代金として小切手を握りしめて逃げ出す。
ルイーズに殺されると思い込んだフランソワーズは警察に電話し、コング桑田演じる警察署長と冨森ジャスティンの冨森アンドリュー2人が演じる警察官がやってくるが、警察署長は、ミシェルが刑務所に収監されたという記録はなく、ルイーズという家政婦はこの家におらず、サルトーニという弁護士はパリにはおらず、リシャールにミシェルという名の弟はおらず、何より庭の井戸にはリシャールの死体もサルトーニの死体もないことをフランソワーズに告げる。
フランソワーズは大混乱だ。
その大混乱ぶりから所長が彼女の正気を疑い始めたところに、フランソワーズともみ合って銃の暴発で死んだ筈のリシャールが「帰って来る」。
リシャールは、フランソワーズはときどきおかしいのだと所長に説明し、ルイーズという家政婦は2ヶ月前に辞めており、自分はカジノに行くこともなくサルトーニという男も知らないと、いかにもいい人そうに説明する。
そこに、「最近雇い入れた」というルイーズそっくりの看護師と、「最近往診をお願いしている」というサルトーニそっくりの精神科医がやってくる。
ルイーズにクロロホルムをかがされてフランソワーズが寝込んだスキに、リシャールは所長を懐柔し、フランソワーズの財産の管理権を自分に変更するための書類作成を依頼する。
所長と警官2人が帰った後、彼ら3人の種明かしが始まる。
ミシェルはリシャールの一人二役であったこと、リシャールの怪我は全くの「作り物」で、怪我の有無でフランソワーズにミシェルの存在を強く印象づけたこと、同じ服をサイズ違いで2着作ってリシャールとミシェルの体格の違いを印象づけたこと、マルセイユからの電話は交換を通していたがそれもテープによる作り物であったこと、この部屋には盗聴器が仕掛けててあったこと、これまで3人で同じような4人の金持ちの女を騙し、精神錯乱に見せかけて財産の管理権を奪い、そして殺して来たこと等々を得々と語る。
一体何重の嘘と芝居だったんだよ、と思う。
フランソワーズは、自分の企みの相談の全てが盗聴器で筒抜けだったと聞いて、さらに倒れそうになっている。
サルトーニが「風呂場で手首を切って死ぬというのはどうですか」とカミソリを持ってフランソワーズに迫ったそのとき、フランソワーズがすっくと立ち上がり「私の話も聞いて」と言い出す。
私はフランソワーズじゃない、大金持ちの伯父もいなかったし、スイス出身でもない。
一体何を言い出したんだ、本当に錯乱状態になったのかと思う間もなく、「どうぞ入ってください!」と毅然と言い放つ彼女の声に応えて、帰った筈の所長と警官が再び姿を現す。
そして、彼女はインターポールの刑事であると名乗り、5人目の犠牲者を出さないためにこうしてここにいたのだと3人に告げる。
もちろん逮捕された3人が連行される直前、リシャールが彼女に「よく俺のような男に半年間も辛抱したな」と言い捨てようとすると、彼女は不適な笑いを見せて「それほどイヤでもなかったわ」と逆に切り捨てる。
いやあ、格好いい。
ここで幕である。
一幕のイヤ〜な感じのゆっくりめな展開から一転、二幕目はどんでん返しの嵐で、あっという間に過ぎ去ってしまったという感じだ。
伏線として気がついたのは、「そういえば、ルイーズがサルトーニを撃ったとき、銃声のタイミングとサルトーニが倒れるタイミングが合っていなかった」というところだけだったのが、我ながら情けない。
ずる賢く悪賢く豪快な男と、小心者で小動物のような男というのは、どちらも橋本さとしの持ち役のようなもので、そこを逆手に取られたな、というのが何とも悔しい。
一幕目があったからこそ二幕目が引き立つというのはとてもよく判り、休憩時に抱いたのとは全く逆の感想を持って、劇場を後にした。
惜しむらくは、最後の「女刑事」の台詞を言ったときの中越典子は、もうちょっと色気を見せてもよかったんじゃないかという気がする。
面白かった!
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コメント
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
一幕目だけで退席されたお芝居というのは、こちらだったのですね。
それは惜しいことをしましたね。
このお芝居は一幕目をじらして引っ張って、二幕目で一気に押す、というタイプだったですから。
まあ、リシャールがミシェルを演じているとも思わず、家政婦が怪しいとも思わず、普通にストレートなお芝居だと信じ込んで見ていた私だから、二幕目の驚きも大きかっただけ、のような気もしますが(笑)。
私、面白かった、って書くこと少ないですか?
言われてみれば「よかった」とか「いい」とか書くことの方が多いかも知れないですね。
投稿: 姫林檎 | 2010.08.29 09:46
なるほど、そういう展開だったんですね。詳しい説明ありがとうございました。
僕も1幕目だけ見て、橋本は2役、だから家政婦も怪しい、とは思いましたが、中越が警察関係だったとは・・・。同じ作者の「罠」を見た人は同じような内容で結末が分かったという人もいました。
姫林檎さんのを読んで、うん、ちょっと見たかったかな、と思いました。それにしても”面白かった!”は初めて見たような (笑)
投稿: 逆巻く風 | 2010.08.29 09:10