「スリー・ベルズ」を見る
PARCO PRODUCE「スリー・ベルズ」~聖夜に起こった3つのふしぎな事件~
作・演出・出演 後藤ひろひと
出演 音尾琢真(TEAM NACS)/団時朗/岡田浩暉
石丸謙二郎/ウーイェイよしたか/ちすん
佐戸井けん太/明星真由美/真寿美/水野直浩
観劇日 2010年8月21日(土曜日)午後2時開演
劇場 パルコ劇場 D列8番
上演時間 2時間10分
料金 7500円
ロビーでは、パンフレット(1200円)や、一見アロハシャツに見えるTシャツ(値段はチェックしそびれた)などが販売されていて、何故だか、グッズを購入した人限定で福引き大会まで行われていた。
福引きの1等賞品は、出演者の写真(サイン入り)だったようだ。
ネタバレありの感想は以下に。
開演前から、客席にはサンタの帽子を被り、黒地にちょっと派手な感じのアップリケがたくさんついたスーツを着た出演者がいて、何やらちょっかいを出していた。
こういう仕掛けは楽しい。
真寿美と水野直浩演じるこのコンビは一切しゃべらずにパントマイムと楽器の演奏とで色々と表現していて、「開演中の注意」もマイムで分かりやすく見せてくれた。
さらに念を入れて、客席から1人舞台に上げ、開演中の注意事項を読み上げさせたのは、「THE LEFT STAFF」で味を占めたのだろうか。
そしてまた、舞台を見に来た観客という人種はこういう趣向によく乗るのだ。今回舞台に上がった女性も、かなり洒落っ気のある方とお見受けした。
超ネクタイ姿の大王が出てきて彼女を客席に返し、そして「私は作家である」と名乗って、そのまま舞台の狂言回しに突入する。
大王が作・演出の舞台では、割とよく見る趣向のように思う。なくてもいいのでは? という気もするし、これが楽しいんだよね、とも思う。
いずれにしても、大王は「どうして真夏にクリスマスの話をするのかって? それはクリスマスの時期は劇場がちょっとだけ高くなるのです。」などと笑いを取っていたけれど、実際のところ、8月にこのお芝居を持ってきた理由は他にあるんじゃないかという感じがする。
「スリーベルズ」というタイトルのとおり、舞台は、その3つの鐘を屋上に持つスーパー・カネミツから始まる。
もう、何十年もなったことのない鐘である。
そしてまた、「スリーベルズ」というタイトルのとおり、このお芝居は3つのお話から成り立っている。しかし、オムニバスというのではなく、最後の場面では全員が同じ時間の同じ場所に顔を揃えるのだけれど、それ以前の3つのお話は時系列も少しずつズレていて、登場人物は少しずつ被っていて、こっちのお話を語っていたと思うとあっちのお話を語る。
ただ、3つのお話の関係を割と早いうちに明かしてくれたので、安心して見ることができた。
3つのお話にはサブタイトルが付いていて、大王が教えてくれたけれど、カタカナのタイトルだったので覚えられなかった。どう考えてもサブタイトルにも意味があったと思うので惜しいことをした。
・・・と思っていたら、パルコ劇場のWebサイトに載っていた。
団時朗演じるマフィアのボスとその息子(ダブルキャストになっていて、どちらの少年が演じていたのか判らなかった)と佐戸井けん太演じる用心棒と音尾琢真演じる詐欺師のお話である「God Father Christmas」。
ちすん演じる地味なOLと明星真由美演じるその親友と15年前に亡くなったOLの恋人(高校時代の話である)のお話である「Teardrop Vender」。
ウーイェイよしたか演じる15年間眠り続けていた男と、岡田浩暉演じる暗〜い心で暗〜い唄を歌い続けているストリートミュージシャンのお話である「Welcome to the Future」。
ところで、大王が支配人の役に早変わりしたその舞台は、スーパー・カネミツである。
店員は、石丸謙次郎演じる男一人、潰れそうなスーパーだ。
この店員も、3つのストーリーのどれにメインで関わっているということではなく、いわば、3つのお話をつなぐ支点兼狂言回しといったところだ。
ちなみに大王は「このご時勢なので細かな役はプロデューサーが全部私にやれと言うんですよ」と言いつつ、様々な役を少しずつ演じている。
その大王が演じる医者も、スーパーの店員ともども、この3つのお話を繋ぐ支点になっている。
マフィアのボスと詐欺師は、ボスが入院している病院の医師に化けた詐欺師が200万円を騙し取ったものの、掃除係に化けていた用心棒にバレて捕まり、ボスの息子にサンタクロースの存在を信じさせることができたら命ばかりは助けてやろう、というお話である。
当然のことながら、この10歳の少年がかなりこましゃくれてイヤな感じの「ガキ」なのだけれど、何故か詐欺師が甘やかし放題のボスがいけないのだとボスに説教し、息子には素直にならなければ嘘ばかり吐いているつまらないオトナになると説教し、2人とも詐欺師の言うとおりに改心して中の良い親子になりました、めでたしめでたし、という物語である。
ここまで仕組んだ詐欺師に用心棒が「あなたの真剣な態度が2人を変えたのであって、詐欺師としては何もしていない!」と詰め寄るのに対し、「いや、嘘は吐いている」とボスに話した身の上話がぜーんぶ嘘だったことを告白するこの詐欺師の表情がいい。
というか、音尾琢真って本当に声のいい役者さんだと思った。説得力ありすぎである。
マフィアのボスが入院していた同じ病院に、暗い歌を歌っては酔っ払いに殴られて入院してくるストリートミュージシャンの主治医を、嘘っこ医師の詐欺師がやっていたりするのが可笑しい。
そして、何度入院してきても隣のベッドにいる青年のことを尋ねると、彼は15年間眠ったままなのだという。
その話を聞いた直後、青年は目覚め、混乱したまま「未来の世界だ!」と外に飛び出してしまう。飛び出した青年を追いかけるストリートミュージシャンは、見かけほど、見せかけているほど、悪いイヤな奴ではないのだろう。
大王演じる医師から、その青年の余命は数日か数時間かしかない、家族も誰もいない、正しいと思うことをやれと言われたストリートミュージシャンは、青年に「未来の世界」を見せることを決める。
そして、「スリーベルズ」をならすことができると青年は言い、ストリートミュージシャンが彼の言葉に触発されて必死で歌を作っている最中に、青年は亡くなってしまう。
その青年が15年間眠り続けることになった交通事故で、彼の兄は亡くなっている。
その兄の恋人だったOLに、ある日、大王演じる謎の男が近寄って、キャンディマシンを売りつける。
こうやって書いてみると、結構、地味に活躍している大王である。要するに、不思議な何かをちょっと演出している、というキャラなのだろう。
それはともかく、そのキャンディマシンにイヤなことを叫ぶとすっかりその記憶がなくなり、気分もスッキリする。一時は、このキャンディマシンの効果で明るくなったOLだったけれど、そのうち、高校時代の恋人のことまで叫んでしまい、「大切な何か」を失って、すっかり別人のようになってしまう。
親友からそれを心配された彼女は、やっとそのことに気づき、叫ぶたびに作り出されてため込んでいたキャンディをなめ、記憶を取り戻そうとする。
3つの話が平行して進むので、場面転換では、パントマイムの2人が活躍したり、「プロデューサーに言われて転換を手伝うと1200円もらえることになった」大王が活躍したりする。
その、完全な暗転にせず、舞台前方で人を動かして視線を集め、でも転換自体もちょっとした見せ場にしてしまう手腕が格好いい。
そうして、クリスマスの夜、2歳の息子にママが欲しいと言われて「奇跡の鐘」がなるのを待っていた記憶と共にボス親子が現れ、「あの鐘はならすことができるんだ」と亡くなった青年に言われたストリートミュージシャンも現れ、クリスマスに絶対にならしてやると約束してくれた恋人のことを思い出したOLも、スーパー・ミツカネの3つの鐘が見えるところにやってくる。
毎年恒例のクリスマスサービスである「豚汁」を作る鍋をオーナーに売り払われてしまった店長が、ならない鐘を鍋代わりにすることを思いつく。
そして、みんなが「外すな!」と叫ぶ中、見事なアクロバティックな早業で壁を駆け上った店長が(この店長は、台車を回したり、りんごを投げたり、かなり無意味に格好良く芸達者なのである)鐘を外そうとしたとき、その「奇跡の鐘」が鳴り響く。
鐘が鳴ったらマフィアを辞めると息子に約束した父親だけれど、マフィアのボスを辞めるのは決して簡単なことではないだろうし、詐欺師はどこまで行っても詐欺師だし、用心棒もどこまで行っても用心棒である。
OLにしても、高校時代の恋人が約束を守ってくれたことは判ったし、鐘を鳴らしてくれたらお嫁さんになってあげるという約束も思い出したけれど、でもその彼が亡くなったことは変わらない。でも、彼女は親友のところに戻ることができた。
15年間眠っていた青年は亡くなってしまい、青年のおかげで「暗くない」「希望」を歌う歌を作ったストリート・ミュージシャンの歌で幕は下りる。
よく考えると、この舞台はそれほどハッピーエンディングではないのではなかろうかと思ったりもしたのだけれど、やっぱりこの舞台はハッピーエンドなんだと再確認した。
大王は「いいお話」を描かせたら、やっぱり天下一品である。
| 固定リンク
「*芝居」カテゴリの記事
- 「無駄な抵抗」を見る(2023.11.26)
- 「ねじまき鳥クロニクル」を見る(2023.11.19)
- 「ガラスの動物園」「消えなさいローラ」を見る(2023.11.12)
- 「パートタイマー秋子」のチケットを予約する(2023.10.29)
「*感想」カテゴリの記事
- 「無駄な抵抗」を見る(2023.11.26)
- 「ねじまき鳥クロニクル」を見る(2023.11.19)
- 「ガラスの動物園」「消えなさいローラ」を見る(2023.11.12)
- 「終わりよければすべてよし」を見る(2023.10.28)
- 「尺には尺を」を見る(2023.10.22)
コメント