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2010.08.08

「さらば八月のうた」を見る

劇団M.O.P.最終公演「さらば八月のうた」
作・演出・出演 マキノノゾミ
出演 キムラ緑子/三上市朗/小市慢太郎/林英世
    酒井高陽/木下政治/奥田達士/勝平ともこ
    白木三保/岡村宏懇/友久航/塩湯真弓
    永滝元太郎/美輝明希/塩釜明子/神農直隆
ゲスト 関戸博一
観劇日 2010年8月7日(土曜日)午後7時開演
劇場 紀伊國屋ホール S列3番
上演時間 3時間5分(10分の休憩あり)
料金 5500円

 ついに最終公演である。
 ロビーでは、過去公演の台本やDVD、Tシャツ、パンフレット(500円)などが売られ、また、この公演の写真集とDVDの予約がそれぞれ受け付けられていた。 

 劇団M.O.P.の公式Webサイトはこちら。

 ものすごーくネタバレなので、未見の方は絶対に読まないでください。

 もの凄くネタバレしているので、一応、念のため、改行します。









 昨日のことなのにすでにどこで読んだか忘れていたのだけれど、マキノノゾミがどこかで「最後に、あぁ、そうだったのか! と手を打てるお芝居が面白いお芝居と言われるんだ」みたいなことを書いていて、まさにそれを地で行くお芝居だった。
 パンフレットなどにも「リボルバーで終わっておけば良かったのに」などとマキノノゾミ自身が書いているけれど、私は間違いなくこの公演を見られて良かったと思う。「リボルバー」で終わらせなくてありがとうございます、と思う。

 劇団M.O.P.の公演としては珍しいと思うのだけれど、芝居は2009年というほぼ「現在」の時間からスタートする。
 何故2009年だと判るのかというと、そこがラジオの深夜放送のスタジオで、2人の男女が生放送のマイクに向かって「今回の衆議院選挙はどうなるんでしょうね」「政権交代があるんでしょうか」「政権交代したとしたら次の首相は誰でしょう」「それは鳩山さんでしょう」等々と話していたから、ではなくて、舞台後方にデジタルで数字が表示されたからである。

 そして、このメールで「老人ホームで働いている。最近、83歳のおばあちゃんの元気がない。お元気だった頃に口ずさんでいた唄のレコードを聴かせてあげられたら元気になってもらえるんじゃないか、でもタイトルも歌手も判らず、おばあちゃんが歌っていた歌詞は判るけれどネットで調べても探せなかった」として、何とかこの歌が判らないか、というお願いがある。
 キムラ緑子演じるカオルは「この歌知ってる。」と言って歌い出す。「絶対、有名な曲だよ」と言う。しかし、小市慢太郎演じる放送作家の方は「ごめんなさい、知りません」と言う。
 あえて一言で言ってしまうと、この歌の正体を解き明かされていくお芝居である。

 そして、このお芝居の舞台は、基本的に、このラジオ局のブースか、あるいは「寒川丸」と名前を変えられた氷川丸の船上である。
 氷川丸は(今回初めて知ったのだけれど)、戦前に最新鋭の大型客船としてバンクーバー/シアトル路線に就航し、その後、第二次世界大戦中は病院船として軍に接収され、引き揚げ船としても使われ、戦後は再び客船として就航するも老朽化により引退、その後は山下公園に係留され、いわば観光スポットとして人気を博してきた、ということだ。

 その氷川丸の船上でキムラ緑子演じるそら子がアメリカでの演奏旅行帰りに三上市朗演じる矢代にフラれて手切れ金代わりに曲をもらったり、フラれたそら子が船上から身投げしようとして後にそら子と夫婦漫才で人気を博すようになる奥田達士演じる幾太郎という船員に止められたり、実はこのときそら子は矢代の子どもを身ごもっていたり、この夫婦漫才の2人らが慰問団としてシンガポールに行ったのもこの船で、矢代と再会したそら子は幾太郎と離婚して矢代と再婚しようと心に決めた途端に矢代の妻が懐妊したという知らせが届いて再婚話はチャラになったりする。

 一方で、三上市郎演じる男と勝平ともこ演じるユキ子が知り合ったのはこの船が山下公園に係留された年だったり、小市慢太郎演じる放送作家は高校の頃に修学旅行で氷川丸に来てちょっと気になる女の子にちょっかいを出そうとして失敗したり、キムラ緑子演じるラジオ深夜放送のDJはここで故郷の広島時代の友人とケンカ別れしたり、そのとき氷川丸の船上では「八月会」の面々がちょうど「わかれのうた」を歌っているところだったり、カオルが相棒の放送作家からラジオ番組の終了を告げられたのも氷川丸の船上で、しかもこの放送作家は自分も自分の子どももこの氷川丸の船上で結婚式を挙げていて、カオルにプロポーズしたのもそのときだったりする。「八月会」の面々がたった3人で「わかれのうた」を歌うまでのシーンも何回かに分けて登場する。

 一応、覚えている限りのシーンを年代順に並べて見たけれど、これらのシーンが順不同で(もちろん意味はあるに違いないのだけれど、とりあえず古い順ではないという趣旨である)、次々と浮かんで来ては流れて行く。
 次といえばいいのか、過去といえばいいのか、とにかく続きが気になって前のめりになって見るしかない。
 本当に幸せな時間である。

 氷川丸の船上で「番組はあと1ヶ月」と言われたカオルは、放送終了までに、何とか前年に老人ホームで働いている女性から探して欲しいと言われた曲を探そうと決意する。
 ちゃらんぽらんな感じででも芸には厳しいそら子を演じているときのキムラ緑子も、強気で女王様キャラのカオルを演じているときのキムラ緑子も、どちらも格好良すぎるから困る。
 本当に、「イチゴアップリケ」のハンドルネームで毎週彼女のラジオ番組にはがきを出していた高校時代の同級生の気持ちがよく判る。

 そして、「わかれのうた」は、氷川丸が病院船として使われていた当時、国際法のルールに違反して病院船に戦闘機のための燃料を積んで日本に向けて航海していたとき、潜水艦に追尾され、臨検があった場合に国際法のルールに違反していたとバレないためには自ら沈むしかない、しかし救命ボートの数が足りない、自爆する船に残る者を募る、とされたときの様子が語られる。
 「八月会」の面々は実はこのときに病院船に乗り合わせた人々であり、「自爆するかも知れない」という状況の中で、乗り合わせたそら子と幾太郎に人々は夫婦漫才をするように望み、そら子は「わかれのうた」を歌い終わったところで倒れる。

 矢代は、夫婦漫才の弟子だった木下政治演じるダイ吉を連れて、幾太郎に「わかれのうた」をレコードとして売り出す許可を得ようとやってくるが、幾太郎に「好きなようにしてください。しかし、あの歌をレコーディングできるのはそら子しかいないと自分は思う。」と言われる。
 「わかれのうた」は、矢代が手切れ金代わりにそら子に与え、そら子の生んだキイチロウが矢代の子どもであると知りつつ育てていた幾太郎が詞を書いた唄だったからだ。そのことは、矢代も知っていたし、ダイ吉も知っていた。

 ここまでの経過を放送作家が語ったのは、カオルの番組の最終回だった。
 そして、どうしてこの男がここまで「わかれのうた」の経過を詳しく知ることができたのは、彼の亡くなった妻の両親が、そら子らの弟子で夫婦漫才をしていたダイ吉夫婦だったからだという。
 そして、カオルは「レコードはかけられないけれないけれど」と「わかれのうた」を自ら歌う。
 最終回に「わかれのうた」の素性が判ったのは、やはりラジオの神様がいるからなのだ。

 ラジオの神様はあちこちにいる。
 放送作家は、高校時代の修学旅行で「迷惑をかけてしまった」相手の女子高生へのメッセージをラジオ番組に送る。
 女子高生はたまたまその番組を聞いており、その女子高生が5年前に亡くなった彼の奥さんなのだという。
 それで氷川丸の船上で式を挙げたのか。

 最終回のうちでカオルが泣くかどうかでスタッフ一同賭けていたらしい。カオルが泣かない方に賭けたのはカオルだけだ。
 そして、賭けに負けた方は勝った方に三つ星フレンチを奢るということになっていたらしい。

 結局、この勝負はカオルの勝ちだった。

 放送終了後、プロデューサーが「放送作家の彼が仕組んだサプライズだ」と言って、ゲストの関戸博一演じる花束を持った若い男の子と現れた。
 何とかれは、カオルが番組の中で「イチゴロウ(友人のハンドルネームがイチゴのアップリケだったことから洒落でつけたらしい)」と名付け親になり、その後氷川丸の船上でケンカ別れしてしまった友人の息子である、「イチゴロウ」だったのだ。
 「さわやかだわぁ」とイチゴロウを見たときのリアクションだけ素っぽかったのが可笑しい。

 そして、イチゴロウに母親がぎっくり腰で入院していると聞いて笑い、母親はずっと欠かさずにカオルのラジオ番組を聴いて随分と励まされていたようだと聞いて、とうとうカオルは泣いてしまう。
 涙を流しているカオルを見て、放送作家とプロデューサーが片手を高く打ち合わせたのが可笑しい。

 実は、放送作家とカオルは、三つ星フレンチだけでなく、もう一つ賭をしていたらしい。
 「番組終了後の涙はノーカンね」とカオルが言い、でも、カオルは「お受けします」と答えていて、何だかほっとしてしまう。

 そして舞台は暗くなり、ナレーションが流れ始める。
 幾太郎の名字は「神崎」だったこと。
 氷川丸のカフェでこれから大阪に赴任すると語っていた男が「神崎キイチロウ」であったこと。
 カオルの両親は室戸台風で亡くなっていること。
 広島から見舞いに来た幼少の頃のカオルに、幾太郎おじいちゃんが「わかれのうた」を教えていたこと・・・。

 そうだったのか!
 あの、突然浮いたように挟まっていた、三上市朗演じる男と勝平ともこ演じる女の出会いのシーンが全ての話を一本に結ぶポイントだったのか!
 もう、本当に最後の最後までやられた気分である。ノックアウトされた。

 だから矢代とキイチロウを両方とも三上市朗が演じていたのね、とか。
 キイチロウが大阪人を嫌っていたのはそら子のことを思い出させるからであり、大阪の女性と結婚したのもそら子のことを思い出せるからなのね、とか。
 カオルが「絶対に有名な曲だ」と言い張り聞き覚えがあったのは、おじいちゃんから教わった歌だったからなのね、とか。
 キイチロウ夫婦は大阪に赴任して室戸台風で亡くなり、娘のカオルは広島に預けられたのね、とか。
 配役表に「神崎」という名字がカオルには書かれていて、幾太郎には書かれておらず、キイチロウはただ「若い男」とだけ書かれていたのはそういう理由なのね、とか。

 暗い中ナレーションを聞きながらそういうあれこれがガチャンガチャンと組み合わされていく音を確かに聞いた気がする。

 もう、本当にこれでM.O.Pが見納めだなんて悲しい。
 でも、「これで最後」と決めたので、平日公演のチケットはまだあるということだったけれど、買わないで帰ってきた。

 心残りは、マキノノゾミがどこで出演したのか判らなかったことと(ラジオ番組に出ていた高齢の矢代良一がそうなんじゃないかと疑っているのだけれど、確信がない)、関戸博一だったら「25歳のイチゴロウ」でオッケーだけれど、他のゲストのときもみなさん25歳を演じるのだろうかという疑問が解かれることがないこと、その2つだけだ。

 とにかく、楽しかった!
 同窓会公演、待ってます!

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コメント

 しょう様、コメントありがとうございます。

 しょうさんは、とうとう3回ご覧になることに決めたのですね!
 素晴らしい。
 どうぞ3回目だからこその楽しみ方をなさってきてくださいませ。

 そして、きっと、しょうさんは山内圭哉さんがお好きなのですよね。
 25歳、簡単に行けそうな、行けなさそうな、微妙なところのようにも思いますが、どうぞそこのところも楽しんで来てくださいませ。

 3回目の感想もお待ちしています!

投稿: 姫林檎 | 2010.08.10 23:53

姫林檎さん、こんにちは!
そうです、そうです、川下大洋さんです!!恥

皆さん25歳の役でやっていました。
初日なんか、誰だか名乗る前なのにカオルは、
笑ってしまって、『こんなイチゴロウ?!』と、
名前を口走ってしまっていたし、泣くと言うより、
笑い通しでしたね。
そう言えば、病院船船長だった時のマキノさん、
『船長の、粟根マコトである!』と名乗って、
笑いを誘っていました。
それは、初日だけだったようですが。

因みに昨日の日替わりゲストは、岡田達也さんでした。
カテコで、マキノノゾミさんが、
『お陰で満員御礼ですよ!』と、言っていましたが、
物販で岡田さんが立たれていたパンフの所は
長蛇の列になっていましたw

本当に良いお芝居で、昨日見に行った時も、
そう言うことだったのか!と言う感動は薄れましたが、
その分確認しながら見ることが出来たし、
やっぱり良い物は良いんだなぁと、再確認して来ました。
そして、12日のチケット買っちゃいました(^_^;
e+で当日券が4300円でまだあったので。
同じお芝居を3回というのは、ちょっと行き過ぎな気がしますけども。

投稿: しょう | 2010.08.10 11:30

 しょう様、コメントありがとうございます。

 「さらば八月のうた」よかったですよねー。
 これぞカタルシス! という感じでした。

 ゲストの方はやっぱりみなさん20代半ばの若者を演じるのですね・・・。
 川下大洋さん(ですよね?)の20代も謎ですが、岡森諦さんの20代だって拝見していない私からすれば十分に謎です(笑)。

 マキノノゾミ氏は、高校生と、病院船の船長さんだったんですね!
 気がつかなかった自分が悲しい・・・。
 高校生のときも船長さんのときも、挨拶をなさるときの声と全然違うような気がして、気がつかなかったです。
 その点、高齢になった矢代さんは、変わったしゃべり方をしていたので、作り声をするとあんな風になるのかなー、と思ってしまったのでした。

 教えていただいてありがとうございます。

 ぜひ、2回目の観劇(3回目も行かれますか?)を楽しんで来てくださいませ。

投稿: 姫林檎 | 2010.08.09 23:30

姫林檎さん、こんにちは。
凄くいい話でしたよねぇ。
最後の最後に、ジグソーパズルの最後のピースが
ピタッとはまったような、スッキリした気分が味わえ、
ストーリーでは、暖かい気分にさせられました。
私が見た初日の日替わりゲストは、扉座の岡森諦さんでした。
大阪公演では、山下大洋さんの日もあったようで、
どうやって26歳を演じたのか見てみたかった気もします。笑
12日は、山内圭哉さんのようです。

あと、マキノノゾミ氏は構成作家の修学旅行のシーンで彼の級友と、
病院船だった時の氷川丸の船長だったです。
高齢になった八代良一は、三上市朗さんだったです。
(少なくとも、初日は。)

投稿: しょう | 2010.08.09 00:37

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