「今の私をカバンにつめて」を見る
ミュージカル「今の私をカバンにつめて」
脚本・作詞 グレッチェン・クライヤー
音楽 ナンシ-・フォード
翻訳・上演台本 三谷幸喜
演出 G2
出演 戸田恵子/入絵加奈子/麻生かほ里/植木豪(Pani Crew)/石黒賢
演奏 千葉一樹(ベース)/江草啓太(ピアノ)
松宮幹彦(ギター)/野呂尚史(ドラム)
観劇日 2010年10月9日(土曜日)午後7時開演
劇場 青山円形劇場 Fブロック35番
上演時間 1時間50分
料金 7500円
すでに記憶があやふやなのだけれど、ロビーではパンフレット(1500円、だったような気がする)が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
戸田恵子がずっと演じたかったミュージカル、だったようだ。
翻訳と上演台本は三谷幸喜である。そちらの印象ばかり強く、三谷幸喜って本当にミュージカルで出演者が歌うということについて「理由」が欲しいのね、と思いながら見ていた。
戸田恵子演じるヘザーは、実力はあるけれど売れない歌手のようだ。
石黒賢演じるマネージャーのジョージがどこかへ行ってしまっていた間に、自分のバンドメンバーを集め、今までの飾っていた自分を捨てて「素」の自分を見せるディナーショーの準備を着々と進めている。
そこへ、ジョージがどこからか帰ってきて、彼女たちのリハーサルをチェックし始める。
この舞台は、そのリハーサルの最初から最後までを追っている。
そして、ヘザーが「自分を知ってもらいたい」と曲を書き、歌っていることで、そのリハーサルはそのままヘザーの人生を語るものとなっている。判りやすく「人生」と「感情」を歌う理由があるという珍しいミュージカルだ。
だけれど、ミュージカルの造りとしてこれはどうなんだろうという気がしなくもない。ミュージカルというのはこういう「理由」を必要としているんだろうか。
それはともかくとして、ヘザーがやろうとしている舞台は、今までの彼女のステージとは大分違うもののようだ。
一々、ジョージから待ったがかかり、変更要求が入る。「お客さんが望んでいるものとは違う」「そんな歌を聴いたらお客さんは不愉快になる」等々と言い募るけれど、段々、それはジョージが妻と上手く行っていないが故に、ヘザーが歌う「本音」を受け入れられないのだという事情が明らかになってくる。
ここでもまた、「構造が"12人の優しい日本人"と似てるわ」と思っていたのだけれど、これは三谷幸喜のオリジナルではなく、原作というか、アメリカで上演された舞台の翻訳版なのだから、私の感想も勝手なものである。
音楽が入ったときのG2の演出というのはまさに神がかり的である。
動きと音楽とをバッチリ見事に合わせてくる。それは、演出の力であるのと同時に戸田恵子を始めとする出演者陣のテクニックの高さの賜物だろうと思う。
超パワフルに歌う踊る動く走る演じる。ハーモニーまで綺麗に聴かせたりもするし、逆に一切歌わずほとんど動かない石黒賢との呼吸も見事に合っている。これだけ派手に動いて歌えて演じられるメンバーに伍して、あまり動かず歌わずというのは相当に辛い筈のではなかろうか。
でも、植木豪演じるバンドメンバーのジェイクが判りやすくヘザーに気があるので、ジェイクとの対比も上手く働いて、存在感をしっかりと示している。
それはそれとして、ずーっと気になっていたのは舞台と客席の位置関係である。
私の席が一番舞台寄りの端だったせいもあるのだけれど、彼らがリハーサルとして歌っているシーンではほとんどずっとボーカリストたちを後ろから見るような感じになる。
バンドメンバーがすぐ隣にいるような場所に座っているのだから、後ろから見ているシーンが多くなるに決まっている。
おかげで、気分としては「リハーサルをさらに舞台袖からのぞき見している」という感じだった。それはそれで面白かったけれど、それにしても、出演者の背中を見ている時間の方がずっと長いというのはどうなんだろう。出演者や演出家はこの席で舞台がどう見えるか確認したのかな、という疑問が浮かんだのも事実だった。
面白かったといえば、ラストシーンで、「今までどおりの構成にしてもらいたい」と求めたジョージに、「それはできない」と答えて彼に去られたヘザーが、バンドのメンバーに「君は一人ではない」と力づけられ、「今の私をカバンにつめて」と歌う。
その最後のフィナーレだけは、ステージが3mくらい前方にせり出していく。その舞台転換(と言っていいのかどうかはよく判らないけれど)が完全に人力だったのには驚いた。せり出していくときは4人がかりで押し出して行き、元の位置に戻るときも4人がかりで今度は太いロープを肩に回して引っ張って戻す。
まさに、舞台裏を覗き見することになった。
目が合ったスタッフの方に睨まれたような気がしなくもないけれど、ばっちり見える場所に席を設定するのが悪いんだよ、見えたら見ちゃうよ、と思ったのだった。
ヘザーは多分これまでジョージの言うままにちょっと大人っぽい艶やかなステージを見せていたのだと思うのだけれど、2人だけになってお互いが愛なのか恋なのかの告白をする寸前、場を外していたバンドメンバーがヘザーのバースデーケーキを掲げて戻ってくる。
上手い。
彼らは、きっと、ヘザーに元の従順な歌手に戻って欲しくはなかったし、変わろう(というか、素に帰ろう)としているヘザーのことが好きだったんだろう。
そして、有能なマネージャーであり、恐らくはお互いに好意を持っていたのだろうジョージに去られても、ヘザーは「歌があれば」と歌い、歌い続けて行く決心を歌う。
ヘザーの人生をめぐる歌は、ジョージではなくても「痛い」部分がたくさんあったし、「楽しい」と言うのは違うような気がする。
でも、このミュージカルを見て聴いてよかったと思う。
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