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2010.12.05

「ア・ラ・カルト2 〜役者と音楽家のいるレストラン」を見る

「ア・ラ・カルト2 〜役者と音楽家のいるレストラン」
台本 高泉淳子
演出 吉澤耕一
音楽監督・出演 中西俊博(violin)
出演  高泉淳子/山本光洋/本多愛也/中山祐一郎(レギュラーゲスト)
    クリス・シルバースタイン(bass)/竹中俊二(guitar)/林正樹(piano)
日替わりゲスト 今井清孝/川平慈英/今拓哉/近藤良平
    篠井英介/巻上公一/山寺宏一/ROLLY
観劇日 2010年12月4日(土曜日)午後6時30分開演(初日)
劇場 青山円形劇場 Eブロック列47番
上演時間 2時間50分(10分の休憩あり)
料金 6300円

 昨年の「リニューアルオープン 準備中」から、再びタイトルを「ア・ラ・カルト 〜役者と音楽家のいるレストラン」に戻してのリニューアルオープンである。

 ロビーでは、出演者陣の著作やCDが販売されていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 遊機械オフィスの公式Webサイトはこちら。

 「リニューアルオープン」と銘打った今年の「ア・ラ・カルト2 〜役者と音楽家のいるレストラン」は、「準備中」であった昨年とレギュラー陣は同じ、日替わりゲストを招く形も同じ、とその構成は「準備中」を引き継いでいる。
 昨年は「こんな形でどうでしょう」というお伺い、今年は「今後はこの形で行きます!」という宣言という風に受け取った。
 ふと気がついたら「ア・ラ・カルト」の後ろにさりげなく「2」が付いている。チラシに書いてあったのに気がつかなかった粗忽な私である。

 ミュージシャンは、リニューアルオープン前から固定されていて、安心感があるのもいい。
 変わったのは彼らの配置で、昨年までは舞台奥(というのも円形劇場だということを考えると妙だけれど、やっぱり円形劇場にも正面はあるのだ)に4人が固まっていたのだけれど、今年はピアノとバイオリンが舞台下の両脇に位置し、奥にはギターとベースのお二方が陣取った。
 私の席はちょうどギターとベースのすぐ隣で、席に着いた瞬間「裏か!」と思ったけれど、意外なくらい気にならなかったのは、演出と出演者陣の全方位への目配りが効いていたからだと思う。この辺りは、経験の賜だろう。

 オープニングの挨拶は、ギャルソン姿の高泉淳子である。
 そして、高泉淳子演じる女性の一人客がクリスマスのレストランにやってくる。
 アペリティフの「マラスキーノ・チェリー 〜マティーニ3杯の幸せ〜」の幕開けである。白井晃が演じていた「人はいいけど、うっかり口を滑らかすことが多すぎない?」なギャルソンの役割は、山本光洋が引き継ぐ。その如才ない感じもいい。

 ここで毎年のように語られるカクテルの蘊蓄も実は楽しみである。
 マティーニのジンをブランデーに変えると「キャロル」という名のカクテルになる、クリスマスに頼む人が多いから、あえてマティーニを頼んだんだ、という彼女の台詞に滲み出るあれこれは毎年のお馴染みであり、彼女には申し訳ないけれど安心する。
 もう一つの主役は「マラスキーノ・チェリー」で、その真っ赤な色は、最初に運ばれたカクテルに忘れられていたこともあって、幸せの象徴のように光っていた。

 そして、「クリスマスのレストランで彼女を攻略する方法 〜あなたに今夜はワインを振りかけてプロポーズ−」で、いつものタカハシが登場する。
 確か昨年のタカハシは一人で登場だったと思うのだけれど、今年のタカハシは、中山祐一郎演じる後輩のナカタくんを連れている。
 クリスマスにフレンチレストランで彼女にプロポーズしようというナカタくんが、家にワインセラーがあるとついうっかり吹聴してしまったタカハシを間違って尊敬し、「正しいフレンチレストランのマナーとプロポーズ」を教えていただこうとやってきた、という趣向である。

 やっぱりノリコさんがいない寂しさは漂うのだけれど、ちょっと見栄を張ってみちゃったタカハシと、「僕はダメダメなんです」と言いつつも実はセンスがいいんじゃない? というナカタくんとのやりとりは楽しい。
 圧巻(?)は、指輪を出してナカタくんがタカハシを相手にプロポーズの台詞の練習を始め、その「練習したいんで」というところを聞き逃してやってきたギャルソン2人が「そういうカップルか?!」というおののきつつも興味津々な雰囲気を醸し出す場面だろう。
 その気になって指輪まで嵌めちゃったタカハシが「指輪が外れなくなった」と言い、超高級オリーブオイルで指輪を外そうとして流しに流してしまう、というのは、まあ、いつもながらのご愛敬だ。
 こうして、2人が走って去って行く、といういつもの形に持って行く。

 「おしゃべりなレストラン 〜ワインは喋っているうちにおいしくなるらしい〜」では、再び懐かしい人物が登場する。着物姿のマダム・ジュジュである。
 リニューアルオープンに当たって、お客様をお連れしましたのよ、と、本日のスペシャルゲストである川平慈英を紹介する。
 ここに、半袖のアロハシャツに半ズボン、運動靴で現れるところが、やはり川平慈英である。
 そして、ここで協賛の「メルシャン」と「富士通」が叫ばれるのもお約束だ。ここまでエンタメに徹して頂ければコマーシャルも「芸」だと思う。

 子どもの頃の話を始めた彼が何度も「しゃべっていていいんですか?」と尋ねるのは、マダム・ジュジュ曰く「昨年はゲストが7人いらっしゃったんですけれどね、彼が一番話が長かったんですのよ」だということだ。
 9歳の年から1年間、アメリカの伯父の農場に兄と2人だけで武者修行に出かけた、という話はとにかく可笑しい。あまりにネタバレなので(いや、でも、毎公演違う話をするんだろうか。)書かないことにするけれど、その話術なのか、経験なのか、サービス精神なのか、流石だった。

 メニューがやってきて「巻きが入りましたか?」と開いた川平慈英が絶句したのは、演技なのか素なのか。昨年も川平慈英がゲストの回を見ている私には、今ひとつ判断が付かない。
 メニューには台詞が書かれていて、さあ、これからぶっつけ本番で友人以上恋人未満の2人の恋の始まりを演じていただきましょう、ということのようだ。
 「フランス料理恋のレシピ小辞典 〜恋と料理は見る目を変えたら味わい深くなる〜」の始まりである。

 多分、ここまでは(つまり、ぶっつけ本番で恋の始まりを演じていただきます、ということは)スペシャルゲストも知っているのだと思う。少なくとも、昨年もゲストで来ている川平慈英がそれを予測していない筈がない。
 で、この後が判らない。
 台詞は多分初めて見ている筈だ。メニューに書いてあって、途中で切れてしまって困っていると、ワインリストが渡されて、目に見えてほっとしたりしている。その展開も「素」なんだろうか。だとすると、ゲストは1日目と2日目で反応が全く変わる筈だけれど、それで成立するんだろうか。

 もっとも、見ているときはそんなことは考えない。
 役名からシチュエーションから知らない川平慈英と、全て知っている高泉淳子の、丁々発止というよりは、高泉淳子が「さーて、どういじって差し上げましょう」と手ぐすね引いて待っていて、「ここからはご自由に素敵な恋の始まりを演じてください」というメモが示された後は、「さあ、ついていらっしゃい!」とエンジン全開で恋も芝居もリードしていく。
 いや、格好いい!

 ここで10分間の休憩である。
 有料のワインサービス、無料のソフトドリンクサービスがあるのも例年通りだ。

 休憩後はショータイムである。
 ギャルソンたちによる歌と踊りは楽しいし、山本光洋のあやつり人形も2回目にして定番化している勢いだ。高泉淳子はドレス姿も披露する。
 でも、今回のスターはやはり川平慈英なのである。
 浴衣なのか着流しなのか、とにかく足もとが草履で披露するタップダンスも、タキシード(だったかな?)でブレイクダンス(って今は言わないのか?)で盛り上げ、THE エンターテナー、という感じだ。

 でも、実は、川平慈英らの活躍をにこにこ楽しそうに見ているピアノの林正樹がめちゃくちゃ印象に残った。
 ちょうど私の席が一番「出入り」の多い通路の真横で、お皿を持ったギャルソンたちが何度も行き交う様子を正面から見ることができた。
 お皿を持って階段を歩いているせいか、すでに「舞台に背を向けている」という意識なのか、その段階で役者さんたちは怖いくらいの表情をしていて、決してにこやかではないのだ。「えーと、私、何かあなたの気に障ることをしましたか?」と聞きたくなるくらいの表情をしている。
 多分、「演じている」顔ではなく「役者」の顔だったんだろう。
 でも、その表情を見るたびに緊張を覚えていたことも事実で、そんな中、とにかく楽しそうに興味津々な感じで舞台上の動きを(そこはもちろんタイミングを合わせるためという要素もあったとは思うけれど)追っているピアニストにかなりほっとしたのだった。

 楽しい時間はたつのが早い,という感じで、もう次はデザートの「シュー・ア・ラ・クレーム 〜恋人達の予感〜」である。
 老夫婦二人のダンスから、「これから恋を始めましょう」という、恐らくは長く連れ添った相手を失った同士の恋の駆け引きがなかなか楽しい。
 でも、恋の駆け引きよりも「一人で食べるごはんは美味しくない」「(あなたと)一緒に食べたごはんは美味しかった」という言葉にジンと来る2人がとても嬉しい。

 そして、再び冒頭にマティニを3杯飲んだ女性が戻ってくる。
 「シルク・ストッキングス 〜クリスマスの番の予期せぬ出来事から」である。
 いつもの彼女なら、一人で食事を終え、ギャルソンたちと乾杯してクリスマスを祝うのだけれど、今年の彼女は少し違う。
 見知らぬ男、川平慈英が現れ、「クリスマスにいいことをしなさいって言われたんだ」と微妙に上から目線の台詞をしゃべって、彼女に「シルク・ストッキングス」というカクテルをご馳走する。

 そして、幕である。
 ちなみに、ベルでのアンコールはない。

 「一人で来たらいけなかったかも」なくらい、恋の物語で攻められたけれど、でも、それが全く嫌な感じではない。幸せのお裾分けをいただいた心持ちになる。
 あー、他のゲストの回も見たい! 見ちゃおうか! と思っている。

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コメント

 しょう様、コメントありがとうございます。

 やっぱり?
 見ちゃうべきでしょうか(笑)。

投稿: 姫林檎 | 2010.12.07 22:30

見ちゃいましょ−!

投稿: しょう | 2010.12.07 03:33

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