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2010.12.22

「サンタクロースが歌ってくれた」を見る

演劇集団キャラメルボックス クリスマスツアー「サンタクロースが歌ってくれた」
脚本・演出 成井豊
出演  西川浩幸/上川隆也/近江谷太朗/大森美紀子
    坂口理恵/岡田さつき/前田綾/温井摩耶
    三浦剛/筒井俊作/實川貴美子/渡邊安理
観劇日 2010年12月22日(水曜日)午後2時開演
劇場 サンシャイン劇場 1階14列5番
上演時間 2時間15分
料金 7500円

 ものすごく久しぶりにキャラメルボックスの芝居を見に行ったような気がする。
 「容疑者Xの献身」以来なのだけれど、やはり、原作があるものとオリジナルとでは雰囲気が違うように思う。

 相変わらずロビーのグッズ売場は充実していて、サポーターズクラブの特典引き替えスペースとともに大混雑していた。
 25周年だからか、配役&役者紹介が全員に配られるのは相変わらずなのだけれど、その他にパンフレットも販売されていて、しかも見本が10部以上あちこちに置かれている。相変わらず、顧客(観客)心理を掴んでいるよなーと思う。
 かなり迷ったけれど、2000円という価格に購入を見送った。

 制作総指揮の加藤氏による前説がなくなり、映像に変わっていたのが少し寂しい。

 ネタバレありの感想は以下に。

 演劇集団キャラメルボックスの公式Webサイトはこちら。

 退団した上川隆也が25周年に当たって、西川浩幸、近江谷太朗(退団している)の3人が揃って、「サンタクロースが歌ってくれた」をやろう、と言い出して実現した公演なのだそうだ。
 芥川龍之介25歳を西川浩幸が、後の江戸川乱歩23歳を上川隆也が演じるという、贅沢といえば贅沢、無理があるといえばそれは無理があるに違いない布陣がこうして実現した。
 近江谷太朗演じる「警部殿」は自然に年を取らせればいいから便利だけれど、恐らく彼の場合は初演の20代のときに相当無理して「老け役」をやっていたのだろう。

 この芝居は初期キャラメルボックスの代表作と言われるだけあって、今回が四演目である。何演目かは覚えていないけれど、前に一度見たことがある。三演目であっても13年前だそうだから、いずれにしてもかなり昔の話である。
 そのときに、明治時代にいる映画の人物たちを現代に案内する役割(それは、もちろん映画の登場人物が現実世界に出てくるという非現実的な設定を観客に伝える役割でもある)を務めるゆきみとすずこを演じていたのは、坂口理恵と岡田さつきだった、と思う。

 その2人の役を温井摩耶と前田綾に振り、坂口・岡田コンビには映画の登場人物のうちメイド2人を演じさせているところが、キャラメルボックスの「次代に繋ぐ」という意思表示なんだろうと思わせる。同時に、ずっと見続けてきた役者さんの年齢を感じさせることも事実だ。少し寂しい。
 けれど、今回、岡田さつきが演じたミツは、元々がこの芝居の影の主役のような役どころなのだけれど、相棒のハナを演じた坂口理恵ともども、舞台の上で圧倒的ともいえるような存在感を放っていて、嬉しいのと同時に、若手の劇団員にとっては高い壁なんだろうなとも思う。

 ストーリーは、何となく覚えていたというよりも、見ているうちに思い出してきた。
 映画の中で、犯人「黒蜥蜴」として最後に自殺し続けることが嫌になったミツが映画の外に逃げ出すというところから舞台は動き始める。
 映画の登場人物が、映画の外の世界に飛び出して観客と話したりタクシー代を支払わせたりする、映画の登場人物たちを演じている役者の名前は実名を使う、その頃の流行りというか傾向と、温めていたアイデアをすべてぶち込んだ、という感じがする。
 タイトルの「サンタクロースが歌ってくれた」も、フミが子どもの頃のエピソードで、一人で留守番しているときに叔父を訪ねてきた芥川が、フミの我が儘に応えてかなーり音痴ながらクリスマス・キャロルを彼女のためだけに歌ってくれた、というエピソードから取っている。これまた、ちょっと気取った(褒めているので、念のため)タイトルの付け方だと思う。

 そして、恐らくは、かなり当て書きに近い書き方をしたのではないだろうかと思わせる。
 天才の芥川龍之介、天才に嫉妬する江戸川乱歩、その2人から離れた独自の舞台に立つ菊池警部、という関係性は、そのまま初演の頃の成井豊の目に見えた西川浩幸と上川隆也と近江谷太朗の立ち位置を投映させたのではなかろうか。
 ストーリーをほとんど忘れていたくせに、物語にずぶずぶと入り込むのではなく、こういう「親戚のおばさん」風の見方をしてしまう自分が少し悲しい。
 「もう若くない」というのはこういうことなんだろうな、クリスマスイブを一人で過ごすより二人で映画を見ようというゆきみとすずこにも、実川喜美子演じる芥川と純愛中のフミにも、渡邊安理演じるそのフミの友達で傍若無人なお嬢様のサヨにも、私が入れ込むことはもうないんだな、と思う。それは多分、登場人物や役者さんの年齢ではなく、物語と私との年齢の差のような気がする。

 ミツが映画から逃げ出して映画の約束に遅れてきたすずこと出会い、そのミツを追って芥川たち3人がスクリーンを抜け出して映画を見ていたゆきみを案内役に巻き込む。さらに、芥川を心配するフミまでもが映画の世界を抜け出す。
 映画の登場人物で映画に残ったのは、大森美紀子演じる「奥様」と三浦剛演じる「巡査」のコンビだけで、しかもこの2人は映画を独占して恋愛映画を満喫し始めるのだから、放っておいてよい。

 最初は「本物の黒蜥蜴は誰か」を言おうとしなかったミツも、そのうち、「太郎さん(江戸川乱歩)に頼まれたんだ」と告白し、乱歩がなぜ、犯人として自殺する自分を見殺しにし続けたのか、間抜けな推理を繰り広げる芥川をこっそり笑いたかっただけで、芥川と勝負したいとも芥川に勝ちたいとも思っていなかったんじゃないか、その「本当」を知りたいんだ」と言う。
 この辺りのミツの気持ちが今ひとつもふたつも判らない私は、何がダメなんだろう。

 乱歩は、デビューと同時に文壇の寵児となった芥川を羨み、嫉妬し、「探偵としては自分が上だ」ということを明らかにしたかったんだと言う。
 それで「男の友情」がテーマの映画だというのだから、この乱歩は相当に屈折している。ここまで屈折していれば、探偵としての能力は自分の方が上だと自分で思いこめればよくて、それを芥川に突きつける根性はなかっただろう、という気がする。
 何というか、ミツが疑問というか質したいと思ったことは、私にとっては「そりゃ、こいつだったらそう思うよ」と聞かずとも納得のゆきやすいことで、それを確かめたいというミツの気持ちの方が判りにくい。
 我ながら屈折している。

 それはともかくとして、そうした「屈折した男」を演じさせると上川隆也はやっぱりハマる。正義感たっぷりのヒーローを演じる西川浩幸に多少の無理感(というか、正義のヒーローを演じることに照れがあるような印象を受ける)があるのに比べると、「うんうん、キミはそういう人なんだよね」と本人と役を混同したくなるようなハマリっぷりである。
 これは、軽やかに笑いを取って自由に飛んでいるように見える近江谷太朗のハマリっぷりとは、また種類の違うハマリっぷりなのだ。
 西川浩幸のシャイさが出てしまっているヒーローも含めて、年齢に無理があろうとも、やはりこの3つの役はこの3人に似合っている。
 役者が全員変わって演出は同じというバージョンが11月に上演されているのだけれど、そちらを見ておけばよかったと思った。

 (役名の)上川隆也が、映画の登場人物たちに迫られて、もし自分が当時の江戸川乱歩だったら芥川と友人にはなれない、だからこの映画で乱歩を演じるに当たって、ミツを演じる女優さんに頼んで、本当は2人は恋仲だという裏設定を作って、その設定を元に、でも全く台本通りに役を演じたのだと説明する。
 その、役者・上川隆也を演じる上川隆也には、なぜだか「ハマっている」という印象がない。格好いい俳優を演じることにやっぱり照れているんじゃないか、その照れを隠そうとして無理しているんじゃないか、という風に思えてくるのが不思議である。

 「正義の人」芥川はもちろん乱歩を許し、「あなたの力になりたかった」というフミに「映画はみんなの力で作るものだと判った」と語り、何とか、途中で電車を乗り間違えて姿を消していた菊池警部も含めて、全員が映画の上映時間内に映画の中に戻って、ハッピーエンドである。
 芥川のまっすぐな「おまえを許す」という言葉に、乱歩が答えようとせず、でも降り始めた雪に気がついて「本物の雪ですよ、芥川さん」と話しかける。
 そのやりとりで2人が和解できたことが判る。
 この空気はなかなか独特で、そして、いい感じである。

 ところで、自動改札を通れなかった菊池警部と乱歩のやりとりは、アドリブだったんだろうか。
 とことん遊び倒そうという近江谷太朗に秒速でツッコミを入れながら、素で吹き出しそうになりつつも、でも何とか本筋の物語に戻そうという上川隆也がおかしい。
 ある意味、というか、間違いなくファンサービスである。
 そして、そのファンサービスが楽しい。
 それは、芥川と乱歩と警部が少しずつ時間差で現れて、登場のたびに拍手を浴びていたのと同じノリだろう。

 時々、なぜか「舞台の広さ」を感じさせるところがあったけれど、やっぱり25周年、西川、上川、近江谷の揃い踏みという「お祭り」の場に立ち会うことができて、やっぱり嬉しかった。

 カーテンコールが3回だったか。
 岡田さつきが、「ゲストのようなゲストじゃないような、でもやっぱりゲストの」というややこしい前置きで、「お帰りなさい!」と上川隆也と近江谷太朗を紹介していて、「あ、そうだった」と思ったくらいそこはやはり自然に溶け込んでいた。

 しばらく見ていなかったけれど、キャラメルボックス健在、である。

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