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2010.12.27

「抜け穴の会議室 room no.002」を見る

PARCO PRESENTS Team申「抜け穴の会議室」
作・演出 前川知大
出演 大杉漣/佐々木蔵之介
観劇日 2010年12月25日(土曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場 E列28番
上演時間 1時間45分
料金 7500円

 ロビーでは、パンフレットの他、佐々木蔵之介デザインによる手ぬぐいやトートバッグなどが販売されていた。

 私の2010年最後の観劇になった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 パルコ劇場の公式Webサイト内、「抜け穴の会議室」のページはこちら。

 Team申の第2回公演であった「抜け穴の会議室」の初演は見ていて、仲村トオルから大杉漣にキャストが変わるということで、どんな変化が出てくるのだろうと楽しみだった。
 ここに感想も書いていて、今さっき読んだのだけれど、我ながら随分と記憶があやふやである。
 初演はかなり重苦しいドラマだった、仲村トオルと佐々木蔵之介は兄弟を演じていた、という記憶しかなくて、大杉漣と佐々木蔵之介が父子を演じていたせいか「随分と今回は脚本を書き換えたのね」と思っていたのだけれど、自分で書いた感想を読むとそういうことではなかったらしい。
 どちらかというと、全体の筋書きは初演とほとんど変わっていない。
 変わっているのは、兄弟関係が父子関係に置き換えられているということだけ、というのに近い。

 廃墟っぽい、石造りの部屋のセット、たくさんの日記帳にも見える本の山、という始まりも恐らくは同じである。
 大杉漣演じる先住者の男は、その名刺交換が板に付いた様子から「部長」と呼ばれることになり、後からやってきたいかにも病院のベッドに寝ていた感じの佐々木蔵之介演じる老人は「先生」と呼ばれることになる。話しているうちに、前世が医者だったことを思い出したからだ。
 「先生」は来たばかりだから客席にいる私たち以上に混乱しているけれど、そこを柔らかく先住者の「部長」が少しずつ説明する。
 どうもここは死者のための場所であり、到着した当初は全く記憶がないのだけれど、日記帳を読んだり、日記帳を2人以上の関係者で同時に触ることで記憶をフラッシュバックさせ、そこで自らの人生を復習する場所だ、ということが判るような仕組みである。
 その場所は部屋が蜂の巣状に集まっていて、近くの部屋にいる人は関係性も近いことなど、設定も破綻なく上手い。

 前世での「先生」と「部長」の出会いは靴屋である。看護学部生だった「先生」がリクルート用の靴を買いに来て、「部長」を店員と勘違いして色々とアドバイスを求める。ところが「部長」は店員にサイズの合う靴を出してもらっている途中のただの客で、肝心の店員は店の奥で倒れており、「先生」が応急処置をして、「部長」がその店員に付き添って病院に行く。それが最初の出会いだ。

 二度目の出会いは、何年後かの中尊寺である。
 前日にどこやらで「先生」を見かけていた「部長」は、「先生」を追いかけておしゃべりで格好いい豪快なお婆ちゃんが運転するクラシックカーをヒッチハイクし、「先生」には会えなかったけれど中尊寺を勧められる。
 そして、次の日に中尊寺でばったり出会う、というかなり劇的な展開である。

 この辺りまでは平和的に「死後の世界」と「生前の世界」を楽しんだり慣れたりしていたのだけれど、もう一つ前の前世に行ってみると、そこでは二人は父子で、しかもあまり関係が上手く行っていないことが判る。
 ここまでの展開は実は初演とほぼ同じであったのに、ここが父子関係に変わっただけで「全体を書き直したのね。だから、room noを付けたのね」などと思った私は相当にマヌケである。

 それはそれとして、今いる「死後の世界」と、医者と旅館経営者であった「前世の世界」、父子だった「前世の前の世界」とでは、当然のことながらキャラクターが違う。
 そして、フラッシュバックから戻ってくると、ついついその「前世」に引っ張られて、「死後の世界」でも前世での関係性が少し尾を引いたり、さらに激したりといったことになる。
 そうしたかなり複雑な設定を2人の演技と若干の小道具だけで表現し、破綻せず、かつ判りやすい。
 今回のお二方も相当な手練れである。

 前々世で、大学生になっていた「先生」は、色々と口やかましくかつ「最終的に決めるのはお前だ」と言いつつ自分の意思を常に踏みにじって思い通りにしようとしているような「部長」(であるところの父親)に反発し、父親に教わったロッククライミングでの勝負を申し出る。
 自分が勝ったら、好きな様に生きる。自分が負けたら、父親の言うとおりに生きる。
 天候が不順なままその勝負を始めた父子は、父が滑落しかけ、何とか支えていたロープをついに支えきれなくなって、あるいは、もう自由になりたいと思って、息子は離してしまう。
 ここまではまだ良かったのだけれど、頭と背中を打って崖下で動けない父親に「俺の勝ちだ」と言い、「お前など認めない」と答えた父親が救急車を呼ぶように言っても動こうとしなかった、という展開は重い。
 「相剋」という言葉が浮かぶ。

 父親であったところの「部長」は、息子が自分に正面切って勝負を申し込んで来ただけで嬉しかった、勝負の結果はどうあれ勝負がついたら自由に生きろと言うつもりだった、と、息子だったところの「先生」をなじる。
 一方の「先生」は、反省したり、でもそういう育て方をしたのはお前だ、と逆になじったり、前世を生きて死んでもまだ整理がついていない様子である。そりゃあ、そうだ。
 ただ、父親から「母さんを置いてどうして自殺したんだ」と言われたときだけは、素直に堪えているように見える。
 夫婦というのは判らないものである。

 こうして、どんどん険悪になって行くしかなさそうな2人だったけれど、「先生」が、実は、前世では再生不良性貧血だった「部長」の娘のドナーとなっていたことが判り、思い出し、少しだけわだかまりがほどける。
 「復讐」の貸し借りでなく「感謝」の貸し借りをしていこう、という前向きな気持ちが出てくる。
 そして、前世で2人を中尊寺で偶然に出会わせた「格好いいお婆ちゃん」が、実は前々世の「部長」の妻であり「先生」の母親であったことが判る。
 「先生」が生きていた頃は、運転免許も持っていないのにただガレージに置いておいた車を、その女性は30年以上たっても動ける状態に維持し、自分で運転していたらしい。

 自分の妻が元気に立ち直って格好いいお婆ちゃんになっていたこを知った「部長」は、次の人生を生きるつもりになる。
 そして、「先生」の部屋から去って行く。
 行きかけて戻り、「次に会っても、絶対に声をかけるな」と捨て台詞を吐く。
 いや、「部長」も格好いいもんだ。

 そして、恐らく来世だろう場所で、2人はすれ違う。
 ステッキを使う老人の「部長」はゆっくりと歩き去り、すれ違った宅急便か何かの配達をしているように見える「先生」は、少し何かが引っかかった風情ながらも走って去ってゆく。
 どちらも、振り返ることはない。
 そこで幕である。

 芝居を見ていたときは、ラストシーンだけは初演の記憶が残っていたのか「ここで、振り返らすことをしないで終わるか! そっちを取ったか!」と思っただけだった。
 初演について相当に「重い」という記憶が残っていたようで、「今回は随分と明るめにしたんだな」とも思っていた。

 今は、どうしてラストシーンを変えたのだろう、と思っている。
 room no.002では、父と子の相剋は、前世を通り過ぎ、何かに昇華した、ということなんだろうか。
 

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コメント

 なおみ様、新年あけましておめでとうございます。

 大晦日の千秋楽にいらしたのですね。ちょっと羨ましい。
 私は大人しくテレビで紅白歌合戦を見ておりまして、大杉漣さんが登場したときには「確か、パルコで芝居をしていたはずなのに!」とビックリしました。

 ラストシーン、振り返っていらっしゃいましたか。
 そう言われてしまうと、ホントは振り返っていたんじゃないかと・・・、自信がなくなってきました。困った。
 というくらいな確信で書いてしまっておりますが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: 姫林檎 | 2011.01.01 14:23

 あるーいのん様、新年あけましておめでとうございます。
 よい年をお迎えになっていらっしゃいますでしょうか。
 私は初詣に出かけてお札を納め、新しいお守りをいただいて帰って来たところです。
 本年もどうぞよろしくお願いいたします!

投稿: 姫林檎 | 2011.01.01 14:19

あけましておめでとうございます。

私は大晦日にこのお芝居を観て来ました。トークショー付きです。
前回の仲村トオルさんも観たので、どんな感じに変わるのか楽しみにしていました。今回は親子だった前々世が、仲村トオルさんの時の設定を忘れていたので、姫林檎さんのブログを観て思い出せてよかったです(笑)。
私が大晦日に観た時は最後振り返っていましたよ。日々ダメ出しがあるようなので、日々変化しているのでしょうね。

投稿: なおみ | 2011.01.01 12:47

姫林檎さま

今年はこちらのブログに出会えて
本当に良かったです.

なんだか、どこかですれ違っていそうな感じも。

来年も、ちょくちょく遊びにこさせていただきます。
良いお年をお迎えくださいませ。

あるーいのん

投稿: あるーいのん | 2010.12.31 20:42

 あるーいのん様、コメントありがとうございます。

 クリスマスにお芝居を観るのは確かに粋かも知れませんが、私の場合は、単に「他の予定がない」というだけなので(笑)。

 あるーいのんさんは、お仕事でラッパ屋がご覧になれなかったのですね。
 残念。
 「YMO」もなかなか楽しかったです。同僚の方に、それこそ粋なプレゼントですね。

 さて、私もあるーいのんさんと同じで、2010年は「抜け穴の会議室」で締めて、2011年は「ろくでなし啄木」で明ける予定です。
 ふふふ。これもご縁ですね。
 来年もどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: 姫林檎 | 2010.12.30 19:18

姫林檎さま

29日に待ちに待った感じでいって参りました.
姫林檎さんはクリスマスになんて、粋ですね。
わたしはその日,知り合いが団員さんなので、
松山のくるみ割り人形を観ていました。

ところで、初演の抜け穴を観ていないので
重さ、については、今回もけっこう重く感じました。
あれ?こんなに笑った後に、この展開?みたいな繰り返しに
お芝居、というより生き様の指標....を観せられているような。

でも、佐々木蔵之介さん、お上手でしたね、大杉さんも、もちろん。
白衣姿が医龍と重なり,低い声を勝手に期待してしまったり。
あ〜、けっこうミーハーかも,わたし...とちょっと落ち込みました。

わたしはこれが今年のしめでした。
来年の芝居初めは ろくでなし啄木 です。
姫林檎さまはどうでしょう?

またどこかの劇場で、すれ違っていることを楽しみに...
良いお年をお迎えくださいませ。

追伸:YMO,同じ日に観劇予定でした。
   なのに、なのに仕事でトラブルが.....
かわりに同僚に楽しんでもらいました.....はあ。

投稿: あるーいのん | 2010.12.30 16:33

 まさこ様、コメントありがとうございます。

 過分のお言葉をいただき、お役に立っていることはとても嬉しいのですが、でも、私の感想は本当に「感想」なので、指標になどなさらない方がよろしいかと・・・。

 縁といえば、開演前のアナウンスを、これまで「TEAM 申」のお芝居に出演したことのある市川亀治郎さんや仲村トオルさんがされていたのも楽しかったですね。
 思わず微笑んでしまいました(笑)。

 こちらこそ、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

投稿: 姫林檎 | 2010.12.29 23:22

姫林檎さま、こんばんは。

わたしは22日に観てきました。
「人の縁」についていろいろ考えさせられるいいお芝居でしたね。

姫林檎さんの感想を、いつも(勝手に)指標にさせていただいております。
来年もよろしくお願いいたします。

投稿: まさこ | 2010.12.29 22:44

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