「YMO〜やっとモテたオヤジ〜」を見る
ラッパ屋「YMO〜やっとモテたオヤジ〜」
作・演出 鈴木聡
出演 おかやまはじめ/三鴨絵里子/俵木藤汰/岩橋道子
福本伸一/木村靖司/大草理乙子/宇納佑
熊川隆一/岩本淳/武藤直樹/中野順一朗
観劇日 2010年12月22日(水曜日)午後7時開演
劇場 紀伊國屋ホール C列3番
上演時間 2時間
料金 4800円
ラッパ屋の公演はずっとトップスで見ていたような気がして、紀伊國屋ホールで見るラッパ屋には、完全にこちら側の事情なのだけれど、一抹の寂しさを感じる。
ロビーでは過去公演の上演台本が1部1000円(だったと思う)で販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
昼間見た演劇集団キャラメルボックスの「サンタクロースが歌ってくれた」のチラシというか無料のパンフレットで、成井豊が鈴木聡を評して「天才」と書いていた。早稲田大学の劇研の先輩と後輩に当たるらしい。
その2人が作・演出する舞台を1日に続けて見るというのも何かの縁だな、と思った。
しかも、「サンタクロースが歌ってくれた」の次に「YMO〜やっとモテたオヤジ〜」を見るという順番も、図らずもなのだけれど、我ながら秀逸である。
しかし、それにしても演劇集団キャラメルボックスとラッパ屋では、その上演するお芝居のテイストがかなり違う。真逆と言ってもいいくらいではなかろうか。
「サンタクロースが歌ってくれた」は20年近く前に初演された、ファンタジー色の強い作品で、「YMO〜やっとモテたオヤジ〜」は新作のめちゃくちゃに身近でリアルな物語である。というか、あまりにもその辺りにありそうなお話で、逆にこれもファンタジーなんじゃないかと思うくらいだ。
俵木藤汰演じる56歳のどこかの会社の営業部長(だと思われる)の加藤が、三鴨絵里子演じる会社で働く派遣社員41歳の女性と恋をする。
そういう物語である。
作者の鈴木聡は「地味すぎやしないかと思ったのでラブストーリーにした」と書いている。
いや、地味かも知れないけれど、もしや50代、60代のおじさま達にしてみれば、これぞファンタジー、という設定なのではなかろうか。この派遣社員が30代ではなく、ましてや20代でもなく、40歳を過ぎているというところも、己の可能性に置き換えるともうツボを押さえまくっているとしか思えない。
逆にいうと、これは本当に「やっとモテたオヤジ」の話であって、そのオヤジと恋をした41歳派遣社員の物語では決してない。
あくまでも、どこまでも、とことんまでも、これはオヤジの物語である。
いっそ潔くて心地よく、そして、ラストが悲しい。
派遣社員で働いていた理恵子は、大学時代に付き合っていた福本伸一演じる倉田と取引先で再会し、何回か食事をし、子ども手当をもらっているという倉田から付き合ってくれと言われる。そこでモメているところに、大学時代の後輩である岩橋道子演じる友子と中野順一朗演じるその彼氏である三田村から助け船を出され、ついでに「不倫よりバツイチのおじさんに走れ!」と叱咤激励される(というよりも、唆される)。
ところで、ラッパ屋の他の役者さん達は「いつも通り」な感じがしたのだけれど、この中野順一朗だけは、あら感じが変わったわね、と思った。役柄のせいだとしたら、もの凄い変身能力である。
一方の加藤は、理恵子を立ち飲み屋に誘ったものの、何やらキナ臭い感じの重役達の副社長レースに巻き込まれつつある気配である。
宇納佑演じる中川常務に「バッターなんてのは来た球を打っているだけだ。ピッチャーになって試合を作るところから人生が始まる」なんていう説教をされたおかやまはじめ演じる同期の西島は泣いた挙げ句に寝入ってしまい、唆されても真っ直ぐ立ち飲み屋に来ることができずにさらに酒を飲んでから理恵子が現れ、2人を送ることになる。
西島を送るのはいつものこととして、理恵子を送ろうという加藤はドキドキものである。
真面目そうな風情とそのドギマギしている感じは買うけれど、でも、結局、自分の家に連れて帰っちゃうんだもんなぁ、まあ、理恵子だって半ばそれを期待していたんだろうけどさ、でも、あっという間にそういう関係になっちゃうんだもんなぁ、と思う私は相当にオバサンである。
ここから先が流石のラッパ屋で、理恵子が泊まった加藤の家に、まず大草理乙子演じる別れた妻が、武藤直樹演じる再婚相手の真田を連れてやってくる。
朝の5時であるところが可笑しい。
そして、その妻から連絡を受けた娘が、父親と共同戦線を張って母の再婚を阻止しようと彼氏と、一緒に飲んでいた知り合ったばかりの男を連れてやってくる。
お風呂に逃げ込んだ理恵子だけれど、緊張しやすい真田がトイレに駆け込み理恵子が倒れているのを発見する。その理恵子を助けようと三田村が駆り出され、微妙な顔で戻ってくるのが可笑しい。
つまるところ、理恵子の大学の後輩である友子の父親が加藤だったのだ。
やられた!
加藤が「オヤジなんかから大学時代の元カノを奪い取れ」などと真顔で倉田を叱咤激励していたのもこうなってくると可笑しいし、「やっぱり奪い取らないでくれ」と腰を45度に折って礼するのも可笑しい。
その騒ぎのうちに、母親の再婚話も何やら「承認」という雰囲気になって、倉田もキッパリと「波が合わなかった」と訳が判らない割に反論が許されない言い方で理恵子に振られ、めでたしめでたしである。
めでたしめでたしの筈なのに、「波が合ったってどういうことだ?」と加藤に聞かれた理恵子が「先がないところが。だから作って行ける」と答えたシーンは、前向きな内容なのにシンとした感じがしていた。
「守るべきものができたんだ」と、木村靖司演じる北村と中川という2人の常務の副社長レースにほとほと嫌気が差し、ついでにそれに巻き込まれて同期の西島を新潟に追いやろうと画策しなければならなくなったり、それに失敗して新潟転勤を言い渡された加藤がついに爆発し、「会社を辞めて、立ち飲み屋のオヤジになる!」と啖呵を切るところは、とにかく格好いい。
でも、「ここで安定したサラリーマンじゃなくなったら理恵子は離れていってしまうんじゃないか」と一瞬考えた私はやっぱり相当に計算高い(泣)。
実際のところはそういうことにはならず、立ち飲み屋のオヤジと売買交渉にすぐにも入ろうという加藤に理恵子は躊躇を見せずに付いて行く。
彼女も格好いい。
しかし、ここで加藤が倒れる。
そのまま即入院となる。
癌が発見される。
「YMO〜やっとモテたオヤジ〜」が、モテた途端に病気になるというストーリーはちょっと悲しい。まるで「最後の一花」のようではないか。
でも、結局、副社長レースで勝った中川常務に付いた西島が常務になって見舞いに来て、同じく同期の熊川隆一演じる江島を新潟に飛ばした話を得々とするのを聞いて、「お前、変わったな」と言う加藤に共感する人が多いのは絶対だと思うのだけれど、でも、実際の行動としては西島のようになる人の方が多いんだろうな、というのも悲しい。
その、西島が見舞いに持ってきたやらたと豪華な花束を床に叩きつけられない加藤もよく判る。
結局、敬語でしゃべっていた中川と北村よりも、しゃべることがなくなってしまった加藤と西島の方が遠いのかもしれない。
その距離は、加藤の葬儀に西島が遅れてきたことからもよく判る。
中川も北村も江島もいたにも関わらず、である。
でも、加藤がやりたがった「立ち飲み屋」は、そのまま加藤の家族と倉田までも巻き込んで続くことになる。
加藤が立ち飲み屋のオヤジになって終わっても良かったのに−、と思いつつ、でも、この「ハッピーエンドではないけれどちょっと上向き」がラッパ屋の真骨頂だよな、とも思ったのだった。
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