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2011.02.11

「く・ち・づ・け」を見る

武藤晃子プロデュース「むーとぴあ」vol.3「く・ち・づ・け」
脚本・演出 わかぎゑふ
出演 浅野雅博(文学座)/荒木健太朗(Studio Life)/近江谷太朗
    種子/仲坪由紀子/藤井びん/藤尾姦太郎(犬と串)/武藤晃子
観劇日 2011年2月10日(木曜日)午後7時30分開演(千秋楽)
劇場 下北沢駅前劇場 F列11番
上演時間 1時間45分
料金 4500円

 もしかして、私は駅前劇場でお芝居を観るのは初めてなのかも知れない。
 客席の感じはシアタートップスを(シアタートップスよりは横に長いけど)、お手洗いの感じはベニサンピットを思い出させて、懐かしい感じのする劇場だった。

 ロビーでは、パンフレット(1000円)と、出演者全員の写真&サイン入り色紙(500円)が販売されていた。カーテンコールの挨拶によると、300枚作った色紙は昨日までで売り切れてしまい、今日になって30枚追加したのだそうだ。

 千秋楽だったので、役者紹介があった。
 トリプルコールで(だったと思う)、わかぎゑふが登場し「呼ぶなって言っただろ!」と言いつつ、武藤晃子のドジ話(最初の顔合わせの際、「五十音順でご紹介します」と前振りしといて、「藤井びんさん!」から始めたそうだ・・・。)でしっかりと笑いを取っていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 むーとぴあの公式Webサイトはこちら。

 長野の割とひなびた感じの村の、昭和5年から始まる物語である。この辺りは、わかぎゑふの庭といった感じの設定だと思う。
 そこの、いわゆる「本家」と言われるような大きなおうちに、武藤晃子演じる18才の繭子という跡取り娘がいる。これがまた、絵に描いたような箱入り娘の純情娘である。その「カワイイ」18才を演じて違和感のない武藤晃子ってもしかして凄くないか? と思う。18才って(失礼ながら)ご本人の年齢の半分くらいではなかろうか。

 繭子サンは、藤井びん演じる父親に男手一つで育てられたお嬢さんで、このお父さんはなかなか重々しいし、人物な感じなのだけれど、何故だかというかやはりというか、繭子さんを育てた種子演じる乳母のトメには滅法弱い。
 「獣医」と聞こえるのだけれど寝込んだ繭子さんを診たり薬を届けたりしていた浅野雅博演じる後輩の大橋先生を呼び寄せちゃうし、隣に住んでいる弟一家とも仲良くやっているらしい。「本家」と「分家」というのはどうも相当に格が違うらしいのだけれど、それでも、仲坪由紀子演じる姪の華江は繭子と仲がいいようだし、近江谷太朗演じる繭子の許嫁である健太郎も、その弟である荒木健太朗演じる健治郎も挨拶にやってくる。
 ナレーションで「戦争の影の薄い」とあったけれど、穏やかで健やかな一家、という感じがする。

 職業軍人になった健太郎と、音楽大学でフルートをやっている健治郎が相次いで里帰りしたところからお話は始まる。
 折り目正しく挨拶しにきた健太郎と、華江が、藤尾姦太郎演じる酒屋の太一に車を出してもらって迎えに行こうとしていたのにふらっと帰って来てあっさりと「太一さんは姉ちゃんのことが好きなんだろ」とあっさり暴露するチャラい感じの健治郎との対比が可笑しい。

 健太郎が挨拶に来たときの支那の下ネタ話にすらアワアワしていた繭子が、見合いの日の朝にトメから聞かされた「奥様の心得=口吸い」も話を平穏に聞ける筈もなく、父親とトメがさっさと姿を消した見合いの席でわざわざ近江谷太朗がタコ口を連発するものだから、とうとう卒倒してしまう。
 昭和5年の18才って本当にこんなものなのか? それとも、昭和5年においてもここまで極端なコは天然記念物級だったのか?
 しかし、まあ、この騒ぎ方がやけに自然なのである。
 逆に、母親代わりを務めてきて、ここでも母親に変わって「心得」を教えるトメのやけに冷静な口調と、これまた実演のつもりで連発するタコ口がやっぱり可笑しい。

 健太郎の奥さんになるのはいいし、「口吸い」も覚悟を決めたけど、でも一番最初が健太郎だというのはイヤだと華江に打ち明ける繭子はこれまた可愛らしい。
 可愛らしいが、結構、言っていることは凄い、ような気がする。でも、それで寝込んでしまうのだから、やっぱり可愛らしいのだろう。
 で、「接吻なら知っている」と言った華江も、自分でしたことはないわけで(彼女は24才の設定である。そういうのも昭和5年ならありなんだろうか)、その前に健治郎が吹いたフルートに口をつけたい、という繭子の願いを聞いて「女はみんな孤独な乙女だ!」と叫んで、協力を約束する。

 しかし、繭子は覚悟を決めたし、華江も協力を約束したのだけれど、健太郎は全く違うことを考えたらしい。繭子の父が分家に呼ばれ、健太郎から「シナに連れて行くのも未亡人にしてしまうのも可愛そうだから、この話は白紙に戻して欲しい」と言われてしまったらしい。
 それを聞かされたトメが「嬢ちゃまは立派なお嫁様になりますっ!」とご主人を叱り飛ばすところは、見どころの一つだろう。格好いいったらない。

 寝込んだ繭子も、気分転換に健治郎と神社だかお寺だかに行って来いなどと言われればそれは突然に回復するに決まっている。
 そのスキに健治郎のフルートを手にやってきた華江が、ちょうどそこにいた太一と危うく接近遭遇しそうになってフルートを忘れて逃げ出し、そのフルートは太一に吹かれ、薬を届けにやってきた大橋先生になめられ、その大橋先生に「トメさんの名前におをつければ乙女だ」などと言われてちょっとだけ舞い上がったトメも口をつけたことなど知るよしもない。
 (しかし、この後の大橋先生とトメの「オトナの誘惑」の一幕は必見である。やけに冷静な大橋先生のコメントも可笑しすぎる。)

 健治郎と帰ってきた繭子は、華江の「繭ちゃんはフルートを吹いてみたかったんだって」という台詞に助けられて、そのフルートを吹いて「願い」を達成する。
 いやあ、良かったねー、と言いたくなる。
 その繭子の頭にぽんぽんと手をやった健治郎は、この芝居の中で一番格好よかった。

 こうして「やっぱり大したことなかった」などとお気楽なナレーションを入れていた繭子だけれど、健太郎はやはり結婚話を白紙に戻して出征して行く。
 その健太郎が残した手紙が、繭子が戦時中を暮らすよすがとなる。
 その手紙を軍服姿で、暗い中でスポットを浴びて読む近江谷太朗が格好いい。正直に言うと、こんな年の離れた従兄弟と無理矢理結婚させられる繭子ってば可哀想じゃん、と思っていたのだけれど、いや、健太郎っていい人だったのかも、この結婚ってそんなに悪くなかったのかも、とここで初めて思ったのだった。
 私もしみじみと人を見る眼がない。昭和5年18才に負けているとは我ながら情けない話である。

 そして、話は15年後に飛ぶ。
 昭和21年である。華江と太一は結婚したようで、華江のお腹には3人目の赤ちゃんがいる。
 繭子はすっかり山口家の女主人然としているが、まだ結婚はしていないようだ。
 そこへ、泡を食った様子の太一が飛び込んできて、華江を連れ出し、畑に出ているという繭子のお父さんを捜しに行く。
 何が起こったのかしら、という様子の繭子の前に、軍服姿の健太郎が姿を現す。どうやら、行方不明になっていた、らしい。
 繭子は泣き顔になって迎え、その繭子に笑っていてくれ、繭子の笑顔が見たくて死なずに帰って来たと言った健太郎は、繭子に口づける。

 そして、繭子の「くちづけ」が15年ぶりにやっと実現し、そんなこともあった時代なのです、という繭子のナレーションが入って終わる。
 90分たっぷり、という感じだ。
 多分、千秋楽だからということで、アドリブが入ったシーンもあったのではないかと思う。

 乙女で可愛らしい、その乙女っぷりをがっぷりと正面切って味わうお芝居だった。
 しかし、それにしても健治郎と大橋先生のその後が気になる。

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