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西荻の会「ロング・ロスト・フレンド」
作・演出 G2
出演 伊東四朗/角野卓造/佐藤B作/松金よね子
市川勇/あめくみちこ/窪塚俊介/岩佐真悠子
観劇日 2011年3月5日(土曜日)午後1時開演
劇場 本多劇場 K列24番
上演時間 2時間10分
料金 7000円
開演時間を勘違いしていて、開演から10分くらいたったところから見始めることになった。
大失敗である。
通路から一番奥の席だったので、並びの方々にも大迷惑をおかけしてしまった。申し訳ない。
帰りがけにちらっと見たところでは、パンフレット、湯吞み、出演者の方々の過去公演のDVDなどが販売されているようだった。
ネタバレありの感想は以下に。
幕開けを見逃したことが本当に悔やまれる。私が劇場に入ったときには、客席は一体感たっぷりで笑いに包まれていた。その空気に自分が溶け込むまで、少し時間がかかったように思う。
しかし、あの笑いは一体どうして起こっていたのだろう。私が見逃した10分間に一体何が起こっていたのだろう。気になる。
私が最初に見たシーンは、伊藤四朗演じるところの極道を引退して介護施設を開所した松山会長が、紋付き袴姿で、あめくみちこ演じる介護スタッフのチーフ(黒いドレスでこちらも正装である)藍子をどうも口説いていたらしく、そこを見とがめた松金よね子演じる極道の妻が意味ありげに笑いながらドアの向こうに去って行く、というものだった。
絶対この3人の間に何かがあったに違いない!
この会長は、元極道というだけでなく、元極道の親分らしい。
入所者もほとんどが元極道の人々で、一人だけ、角野卓造演じるところの元組長と因縁浅からぬ警察官OBの佐々木の旦那が入所している。よーく考えるとヘンだけれど、よーく考える間もなく舞台はテンポ良く進んで行く。完全に騙されているし、呑まれている。
それはそれとして、スタッフもやっぱりどこかがヘンで、チーフはともかくとして、岩佐真悠子演じる若い女性スタッフはかなり強気の女の子だけれど、「入所者のみなさんが生き生きするように賭場を開きましょう」なんて言い出しているし、人手不足のために組から手伝いに来ているらしい窪塚俊介演じる「若いモン」もやたらと真面目に勤めている。
舞台セットは基本的に変わらず、舞台上の出来事は全てこの介護施設のスタッフルームで起きるのだけれど、その応接コーナーが時々回想シーンのために組事務所に切り替わる。もっとも、切り替わると言っても、応接コーナーだけにスポットが当たり、上から「任侠」と書いた額が下りてくるだけだ。
佐々木の旦那が佐藤B作演じる黒崎という男を入所させてくれと会長に頼むところから物語は動き始める。
どうやら元組長と黒崎の間には何やら浅からぬ因縁があって、元組長は明らかに気の進まない風情である。
それでも、佐々木の旦那(「俺とお前の仲じゃないか」というのが決めぜりふで、どうやらこの台詞が出ると元組長は相手のいいなりになってしまうらしい)に押し切られて「会うだけなら会う」ということになり、脳卒中で確かに記憶を一部失い人柄も180度変わってしまった黒崎がやってくると、今度は極道の妻に何故か押し切られ、「嫌な予感がする」と言いつつ黒崎の入所を許すことになる。
この「黒崎との浅からぬ因縁」が語られるために回想シーンが随時差し込まれ、元組長が実は黒崎が連れてきた替え玉であること、組同士の大きな構想で身替わりになるはずだったのだけれど本物の組長に「自分が死んだ後の替え玉になれ」と頼まれて35年間ずっと回りの人を騙し続けて来たこと、黒崎は当然のことながら「あれは替え玉だ」と騒いだのだけれど、市川勇演じる組の兄貴分からも「生き残った方が本物だ。それくらいの道理は分かれ」と言い放たれて結局組から出ざるを得なかったことなどが判ってくる。
全編が笑いに包まれていて、特に松金よね子の凛とした極道の妻と、にへら〜と笑って夫の浮気を「知っているのよ〜」と顔中で語るところが可笑しかったのだけれど、一番傑作だと思ったのは、この本物の組長と替え玉の組長とのやりとりである。
「顔がそっくりだ」ということから、経営していた小さな町工場を倒産させて首を吊ろうとしていたところを救われた替え玉、なので、当然のことながら2人共を伊東四朗演じることになる。
舞台全体が薄暗くなり、2人の立ち位置にスポットが落ちる。本物の組長は肘掛け椅子に座り、その真正面に替え玉の気の弱い男が立つ、という感じだ。
このまま、本物の組長が語り続けて2人の会話を再現するのかと思ったところで、おもむろに伊東四朗が立ち上がり、テケテケという感じで替え玉の男がいる筈のスポットに入ったところで笑い、本物の組長が語っているときに流れていた荘重なBGMがそのタイミングでストップして笑い、そして、替え玉の男が一言「え?」と言っただけでまたスポットから外れたときには大笑いだった。
可笑しい。可笑しすぎる。
このシーン、本物の組長は自分は差し違える覚悟で明日の出入りに臨む、自分が死んだらお前が組長になって後を続けろ、ととんでもないことを言っているわけで、重要なシーンだしシビアなやりとりが行われているシーンである。
なのに、とにかく可笑しい。
それなのに、本物の組長の大人物ぶりまで伝わってくるのだから、格好いいことこの上ない。
警察官が入所しているような施設に金は出せないと「関東任侠会(と言っていたと思う)」に言われた辺りから雲行きは怪しくなり、その佐々木の旦那からこの辺を仕切っている組からこの介護施設が狙われていると告げられ、すっかり丸く腰が低くなった黒崎に気分が軽くなっていた元組長は、この施設を黒崎名義にして難を逃れようとする。
そうこうしている間に、黒崎の記憶が戻り、性格まで戻ってしまったモノだからさあ大変、というところで物語がさらに加速する。
その黒崎が素に戻ったところに、元組長が「スタッフチーフとの恋路」の話なぞしてしまったものだから、さらに大変である。
おまけに、元組長は、「黒崎を形式上の名義人にして抗争を回避する」という思いつきを実行してしまうのだ。
まあ、大人物だったらしい本物の組長が、替え玉を連れてきた黒崎に自分の計画を伝えるなり伝わるように差配していさえすれば、ほとんどの問題は回避できたような気がしなくもないけれど、それは仕方がないとしよう。
黒崎は、とりあえず施設スタッフの信頼を得た状態で銀行との交渉を引き受け、この施設を売り払う算段を付けてしまう。
黒崎は、黒崎が敵対する組に入り直して出世しやっと元組長と大きな取引ができるところまで持ってきたところで、その取引に警察を呼び入れ、ついでに黒崎が持っていた大金をかすめ取られた、そのせいで自分は出世も出来ず冷や飯食いに甘んじることになった、全てを失う気持ちをお前にも味わわせてやるんだという。
そうして「替え玉で、35年も組の人間と奥さんを騙し続けていたことをバラしてやる」と脅して、やりたい放題の超嫌な男を貫いていた(黒崎が言うには「いたぶってやっていた」)ところ、そういえば何が直接のきっかけだったか忘れてしまったけれど、ついにその場にいるメンバーに「自分は替え玉だった」と告白し、奥さんに頭を下げたのだった。
そして黒崎もカサにかかって、元組長の本名から状況から全てをバラし、奥さんに土下座して謝れと迫る。
その後の、「極道の妻」がとにかく格好良かった。
「思う存分なじってくれ」と言う元組長に、「思う存分、感謝させてもらいますよ」と言う。みなが驚愕する中、出入りの前の日に本物の組長から言われていたこと、帰って来たときから偽物だと知っていたこと、最後の頼みだったからその後も「組長」として偽物を立てて来たことなどを淡々と語って、「もうちょっと一緒にいたかったけど」と淋しそうに笑う。
これまた、格好良すぎる「極道の妻」なのだ。
これまで散々笑いを取ってきた彼女だから、その格好良さがことさらに際立つ。
さらに、佐々木の旦那が、取引の存在を掴んで乗り込み、賭け麻雀の負けが込んでいたものだから黒崎が持っていた大金をネコババしたのだと告白する。
黒崎にしてみれば、「俺のこの積年の恨みをどうしてくれる!」と叫んでも仕方がないところだろう。気の毒すぎる。
ラストシーンは、本物の組長のお葬式を出すということになって、全員が喪服姿で登場する。
葬儀社に電話して遺影を用意しろと言われ、「判りました、これから撮ります。本物がいますから。」と答えているのも可笑しい。
結局、「極道の妻」の実家がもの凄い財産家で彼女が山を売り払ってお金を作り、介護施設は存続できることになる。代表は黒崎だ。
元組長は「堅気」の生活を満喫すると言う。
大団円だ。
でも、彼が口説いていたスタッフチーフは、「会長のお気持ちには答えられません」と言う。警察官の旦那が「そう言わずに考えてやってくれよ」と言うのだけれど、「できないんです」と繰り返すその訳は、自分はあの人の娘なんだ、というから驚く。
ご都合主義と言えばご都合主義だけれど、「前の妻に似ている」という惹かれた理由にこれ以上の説明はないし、大団円のうちだろう。
ついでに、警察官の旦那と本物の組長の間に何らかの因縁があったわけではなく、入れ替わったばかりの組長に「俺とお前の仲じゃないか」と言ってみたらやたらと効き目があったので、使わせてもらった、と告白する。
もう気が抜けて頭を抱えた替え玉組長と、にへら〜っとしてやったりの笑いを客席に向ける佐々木の旦那のツーショット、スポットライト付きで幕である。
西荻の会というのは「飲んだくれの会」だそうだけれど、お芝居やってくれてよかったな、見られて良かったな、チケットを取ろうかどうか迷ったけれど取ってよかったなと思った。
カーテンコールは出演者全員が喪服姿で整列である。「全員が喪服で終わる芝居なんて初めてだ」とは伊東四朗の弁である。
恒例の「前日のアンケート」が読み上げられ、客席にほのぼのとした雰囲気が漂う。
「ドタマかち割ってやる」という台詞はあめくさんが考えたんだよね、この顔でよく言うよね、と伊東四朗が振ると、佐藤B作が「可愛いでしょう」と受け、あめくみちこが佐藤B作の背中はバンバン叩く。
なかなかいい、カーテンコールだった。
そういえば、警察官の旦那が、介護施設を手伝っていた組の若い者に「あなたがいるから、関東任侠会からの出資が途絶えたのだ」と言われたときに、「そろそろ潮時か」と言っていたのだけれど、何故かそこだけオチがつかなかった、ように思う。
とても、気になっている。
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コメント
しょう様、コメントありがとうございます。
えーと、松金よね子さんが「極道の妻」として喪服姿で舞台にいらしたことは、あったようななかったような・・・。
すでに記憶が定かではありません。
とにかく、格好よい松金さんを見られたのでよしとする、ということでいかがでしょうか・・・。
投稿: 姫林檎 | 2011.03.08 23:03
姫林檎さん、こんばんは。
格好良かったですよね、最後の松金よね子さんの台詞。
最後にあぁやって、ホッとさせてくれる舞台がやっぱり好きです。
そう言えば、喪服姿の松金よね子さんて舞台上で出てきましたっけ???
お話の中では出てこないのにカーテンコールでだけ、
喪服で衣装を用意するなんて、
なんだか贅沢だなぁと思ったのでした。
投稿: しょう | 2011.03.08 01:35
しょう様、コメントありがとうございます。
あら、一昨日もしょうさんとニアミスしていたのですね。ふふふ。
何だかちょっと楽しい気分です。
そして、最初の10分の展開を教えてくださってありがとうございます!
あぁ、やっぱり強力なつかみが展開されていたのですね。
私が目にしたのは、多分、極道の妻の松金よね子さんがもう一度ドアから顔を出した、まさにその場面でした。
ホント、いいお芝居でしたね。
内緒ですが(笑)、ラスト近くの松金よね子さんの台詞に涙がぽろぽろ止まらなくなっていた私なのでした。
今年もまたどこかでニアミスいたしましょう!
投稿: 姫林檎 | 2011.03.07 22:39
姫林檎さん、こんにちは。
またしてもニアミスでしたね。
私は17時の方を見に行きました。
最初の10分間位は、一人パーティを抜け出して酔いを覚ましている会長。
そこに様子を見に来たスタッフチーフ。
その会長と彼女とのやりとりが続いていて、一生懸命会長が口説くものの、
スタッフチーフの天然な惚けたやりとりが続いておりました。
そこに、会長の妻が現れて、口では理解を示しているものの、
全身に嫉妬を表して、最後は笑いながら出て行き、と思った所で、もう一度顔を出す。
と言うような、まさに掴みの部分でしたよ。
G2と、伊東四朗、佐藤B作と、どんな風になるのかと思いましたが、
何時もながらの軽演劇風味の良いお芝居でしたねぇ。
6月には、伊東四朗一座・熱海五郎一座の共同公演がありますし、
伊東四朗さんは本当に精力的に舞台に立たれていますね。
投稿: しょう | 2011.03.06 21:23