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作・演出 飯島早苗
出演 瀧川英次(七里ガ浜オールスターズ)/星野園美
和田ひろこ(oneor8)/松坂早苗/平塚真介
観劇日 2011年3月21日(月曜日)午後2時開演
劇場 赤坂RED/THEATER C列4番
上演時間 1時間35分
料金 3800円
ロビーで物販は行われていなかったと思うけれど、ちゃんと確認はしていない。
開演前、非常口の案内があった。そこでトチった案内の方が「私が慌ててどうする」と自分にツッコんでいたのがちょっと可笑しかった。
ところで、終演後に「ぜひ呟いてください」という挨拶が入るのは最近の定番なのだろうか。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台は、ライトノベル作家の自宅兼職場である。
瀧川英次演じるライトノベル作家の代田要(ペンネームがあって、「うみ はるか」と聞こえたような気もするけれどあまり自信はない)が、締切を過ぎて原稿が書けないまま、携帯電話を冷凍庫に隠して、七転八倒の苦しみの中、ゲームに熱中している。
スノウホワイトキャッスルとやらを攻略してオーバーザレインボウを見るのだそうだ。
ゲームを全くやらない私にも、「要するにラスボスを倒して最終ハッピーエンドに辿り着く直前なのね」ということは判る。ついでに、そこに辿り着くまでにどれほどの時間をかけているかということも判る。
そうして引きこもり生活を続けていたところへ、突然、星野園美演じる「ファンです!」と名乗る女性が押しかけてくる。
押しかけてきて、ナントカ(思い出せない自分が悲しい)という彼が書いてきた「女子高生が片思いに悩みつつ、でも自分よりも人の恋愛を弱っちいくせに異次元空間で魔獣を倒すことで成就させる」というライトノベルの完結編を読みたいんです! と叫ぶ。
非常識極まりないという要の対応は至極当然なのだけれど、設定として「何故か突然日本中で人が死に、そしてゾンビになってしまった」ということを知っている観客には、この噛み合わない会話がとりあえずもどかしい。そして、まだるっこしい。
そこの共通認識が得られないまま、松坂早苗演じる虚弱体質の女もやってきて、やはり「完結編が読みたいんです!」と叫ぶ。
彼女らがいくら叫ぼうが、完結編は一文字も書けていない、書けていないから読ませることもできない、そして、彼女らがゾンビで日本中にゾンビが溢れているということもどうも信じられないし、信じる気もない。
そこへ、今度は和田ひろこ演じるなかなか格好良い女性がマンションの4階まで壁をつたい登ってきて、やっぱり「娘のために完結編をコピーさせてください」と言う。
美人の彼女がそう言ったことで、やっと要も「外はゾンビだらけ」という状況を信じる気になったようだけれど、書けないものは書けないんだ、というのは終始一貫変わらない彼の主張である。
曰く、「スランプだ」「遊んでいるように見えても死にものぐるいで考えているんだ」「調子がいいときでも思いついたアイデアの3割しか使えない、調子が悪いと1割以下、さらに調子が悪いと捨てるアイデアすら浮かばない」「締切が過ぎて書けないものが、突然、書けるようになる筈がない」「自分は自分の書いている物語を楽しいと思えなくなった、そうしたらキャラが死んでしまって動かなくなってしまった」と「書けない」理由は尽きない。
そこへ、後からやってきた平塚真介演じる「乙女な心を持つ」警官も一緒になって、自分たちは理性が残っている間に完結編が読みたい、作者のくせにどうして書けないんだ、書いてもらいます、と横暴極まりない要求を突きつける。
要が絞り出す言い訳の数々はかなりみっともないと思うのだけれど、でも何故だか私はどちらかというと要の言い分の方に共感した。
そうだよね、できないときってあるよね、そこを強制されてもどうしようもないよね、みたいな感じがふつふつと湧いてくる。
要はどう見てもチャラい奴で、彼の書けない理由は悉く「言い訳だ」という感じがするのに、でもその要の言い分の方に私が共感するのは、私がダメダメな人間だからだろうか。
でも、「あなた方の言うとおりに書きます」と言った要に対して、警官の彼が絞り出す「思い描いていたラストシーン」があまりにもステレオタイプだったりするので、この芝居も実は要に親近感を持っているんじゃないかと思うのだ。
そうしてファン4人(というか4ゾンビ)が寄ってたかって、まだ人間である要を脅し宥めすかし、完結編を書かせて読もうとするのだけれど、これがなかなか上手く行かない。
「こんなののどこがいいんだ!」と叫んで投げつけたこれまでのシリーズの生原稿を見ていた彼女たちは、何故か一文字も書けていない筈の完結編を発見する。けれど、その完結編は血みどろでしわくちゃでとても読める状態ではない。
この作家もゾンビだったのか???
どこかでどんでん返しがあるんじゃないかと待ち構えていた私は、ここで最高級に待ち構えたのだけれど、どこまでもこの舞台はストレートだった。
要は、この完結編はこれまでで初めて面白いと思えるできだった、だから彼女に見せに行ったのに彼女はゾンビになってしまっていて、その彼女を自分は殺してしまった。
その「できあがっていた」完結編を読めるようにしろと詰め寄る4人に対して要はそう告白すると、傘で次々と4人を殴り殺して行く。
夢オチか、それとも、これは彼の書いた物語だったのか、暗転したときにはそう期待した。
でも、明るくなった舞台上、要はやっぱりゲームに興じていて、部屋は明るくて、彼らの姿はないのだけれど、ベランダに通じるサッシの窓には血の手形がべったりと残っている。
さっきまでここで起きていたことは現実だ。夢ではないし幻想でもない。
「オチはないのかー!」と心の中で叫ぶ私をよそに、要はベランダに出て、完結編の原稿を下に投げ落とす。
投げ落とした後、鳥の鳴き声が一際大きくなったようだ。
それは、ゾンビから鳥になったファンの彼女らが、原稿を取り合っているのではないかと私には思えた。とうとう読ませることのなかった原稿を、要は彼女らに最後に示したのではないかという感じがした。
本当に最後までとことんストレートだった。
でも、街中にゾンビが溢れているという設定をチラシで読んだときには実はあまり思わなかったのだけれど、舞台の上でファンの女性から要が説明されているのを聞いて、「この時期にこの設定か!」と思った。
見ていて胸のあたりがもやもやしたり、我ながら執拗に「どんでん返し」を待ち構えてしまったのは、多分、そのせいだったのではないかという気がする。
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