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二兎社「シングルマザーズ」
作・演出 永井愛
出演 沢口靖子/根岸季衣/枝元萌/玄覺悠子/吉田栄作
観劇日 2011年3月26日(土曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場小ホール1 H列10番
上演時間 2時間10分(10分の休憩あり)
料金 5000円
ロビーではパンフレット(500円)等が販売されていた。
12日の公演チケットを持っていて、もっと早く振り替えたかったのだけれど、結局この日になってしまった。昼に中ホールでお芝居を観る予定だったので、そちらに行く前に受付で夜公演への振り替えをお願いした。
本来は、事前に電話でお願いした方がよかったらしい。
昼公演の開演前の忙しい時間に、受付に押しかけて申し訳なかったけれど、とてもいい席を用意してもらった。感謝である。
開演前には、作・演出の永井愛氏から上演に当たっての決意表明(でいいと思う)と、避難に関してのお知らせがあった。
また、カーテンコールで沢口靖子、吉田栄作から短い挨拶とロビーに募金箱を設置したことの案内があり、終演後、携帯を構えた人が集まっている一角があると思ったら沢口靖子本人が募金箱を持ってロビーに立っていた。
ネタバレありの感想は以下に。
正直に言って、ほっとした。
25日に見たお芝居は「人々がいきなり全員ゾンビになってしまった」という設定で何となく胸の辺りがもやもやしたし、26日昼に見たお芝居では火山が噴火していて「何を言われているのか」を考えなくては、という焦りが出た。
でも、この「シングルマザーズ」というお芝居は、現代の話で、シングルマザー達が立ち上げたNPOが児童扶養手当削減の法改正を何とかひっくり返そうと運動をするお話で、ストレートなお芝居をストレートに受け止めればいいんだ、という安心感があった。
それは芝居が始まる最初からのことで、少しくガタが来ている感じの木造アパートに事務机を詰め込み、段ボール箱が積まれ、といたセットを見たときから判っていたような気がする。
話は2002年から始まる。
ひとりママ・ネットというシングルマザーの支援団体の事務所にしている、かなりオンボロな感じの木造アパートに、根岸季衣演じる代表の燈子がやってくる。沢口靖子演じる事務局長の上村直がいるのだとばかり思ってお手洗いに向かってしゃべっていたら、そこにいたのは実は玄覺悠子演じるシングルマザー(というよりは、ヤンキーのお姉ちゃん、という感じである)の水枝で、彼女は直に簿記を習いに来たのだという。
シングルマザーが正社員になるのは相当に難しく、直自身が派遣社員だし、水枝も昼の仕事で正社員になるため、簿記の資格を取ろうとしているのだ。
そこに相談の電話がかかってきて、電話の相手に対する説明の中で、この上さらに児童扶養手当を減額しようという動きがあることが判る。
水枝の息子が熱を出したと預けている無認可の保育園から電話が入り、「どうしていつも上手く行かないんだ」と彼女は泣きながら出て行き、燈子が一緒に行こうと追いかける。
そこに、「オダサチコという女性から電話が入りませんでしたか」という問い合わせ電話を掛けてきた吉田栄作演じる男が直接やってきて、妻が子ども2人を連れて出て行ってしまった、出て行く前日にここに電話をかけている、どこへ行ったのかとねじ込む。怯えつつも机上に応対していた直だけれど、最後には叫び声を上げてうずくまってしまう。
直の過去には何かがあるらしい。
その2年後、夏の盛りに燈子が枝元萌演じるとある女性(初音)の相談を受けている。亭主(小花模様のワンピースを着ているのだけれど、でもその表現が似合いそうな感じの女性なのだ)が浮気して離婚したが、一流企業に勤めているくせに養育費が滞り、家に行ってみたら再婚していてもうじき子どもも産まれるらしい、と泣き崩れる。
そこに水枝がやってきて、アンケート結果の入力作業を始める。今や彼女も半分スタッフのようなものらしい。
さらに、市役所に「(児童扶養手当減額に代わる措置としての)就労支援」について意見を求められて出かけていた直がスーパーのビニル袋を2つも抱えて「これ全部で1000円しなかった!」と言って帰って来る。そのことだけで、シングルマザーの置かれた状況を見せてしまうところが憎い。
生活保護の受給を考えてみないかという燈子の提案に激しく拒否反応を示した初音に、直は「養育費をちゃんと払わせましょう」と語りかけ、燈子は甘い物でも食べに行こうと初音と水枝を送り出す。
直もどうやら養育費を受け取ってはいないようだ。
燈子も出かけた後、2年前にやってきた小田という男が再び現れ、直に「今、自分は離婚調停の裁判中である。2年前のことで自分に不利なことは言わないで欲しい」と頼む。しかし、直は具体的な質問をいくつも重ねることで、小田がDVの加害者であることを確認し、小田自身にも確認させて行く。
この緊迫感溢れるやりとりが、テレビでよく見る役者さん達によって、目の前で演じられているって、何だか凄いことのような、普通のことのような、よく判らない感じになってくる。
ここで休憩が入る。
さらに2年後のクリスマス前の時期、クリスマスツリーをセッティングしていた水枝に、こちらもスタッフになったらしい初音、事務局長もすっかり板についてきた直が、会報発送の準備をしている。シングルマザーの会員は子どもの病気などなどでドタキャンがどうしても多くなるという彼女たちの会話にみじんも責める気配がないのが嬉しい。
そして、発送作業を始めようとしたところに、燈子が何と小田を連れて現れる。クリスマス会のボランティアに応募してくれていたところ、急遽頼んだらこの発送作業も手伝ってくれるという、と燈子はご機嫌だけれど、直は慌てふためく。燈子に何も話していなかったらしい。慌てて燈子に事情説明をしようとしたところ、小田は自分からDVの加害者であったこと、直と話して自分のDVを認め妻とも離婚したこと、今はDV加害者のためのプログラムに通っていることなどを語る。非常におどおどした態度なのだけれど、直は追い打ちをかけるように様々に「DV加害者がそう簡単に改心する訳がない」ということを言い立てる。
それでも、手早く仕事を片付ける様子や、燈子たちの活動をよく知っていること、シングルマザーを取り巻く社会状況についてもよく勉強していることが伝わるに連れて、直の態度も少しずつ和らいで行く。
この2人、そう簡単に恋に落ちたりしないよね??? と念を押したくなるくらいである。
そして、2007年。初音が何故か上機嫌で鼻歌など歌っている。最初に出てきたときの小花模様のワンピース、その次はトレーナーにGパン、そしてこのときは黒いパンツにオーバーブラウス、黒いジャケットとモノトーンでまとめて、「強くなったんだね」という感じが服装からも伝わってくる。そして、水枝に何かいいことがあったのか聞かれて、「元旦那が養育費を払わない。会社も辞めて家も出て行方をくらましたから、強制執行してもこれでは意味がない」と笑い飛ばす。
この日は会議をする予定らしい。
しばらく顔を見せていない小田が現れたところで、下手な気の利かせ方をして初音と水枝が下の階のおばあちゃんの家に行ってしまう。そこで、小田は、元妻が再婚を決めたこと、それを聞いて怒りが抑えられないと言い、「でも、大丈夫だ」と言う直の目の前で足を踏みならし、暴力の一歩手前まで行って、「これではここにいる資格がない。」と言って去って行く。
沈み込む直に、さらに今は養育費を請求する裁判を起こしている元夫から電話がかかってくる。切ろうとする初音だけれど直は電話に出、怒鳴り散らす相手の圧力に何とか踏みとどまって、養育費を払って子どもの父親としての責任を果たせ、子どもを会わせないのは子ども自身が会いたがらないからだと伝える。そして、その場にへたり込みながら「これだけのことを伝えるのにこんなに時間がかかったなんて」と笑う。
そこへ、小田が引き返してきて喜色満面で「与党の委員会が児童扶養手当削減の凍結を決めました!」と叫ぶ。直たちのロビー活動が功を奏したのだ。直の息子からもお祝いの電話がかかってきて、直は誇らしげに「ママたちは頑張りました」と言い、彼女たちは祝賀パーティの準備を始める。
こちらまで元気になれるお芝居だった。私が決める2011年の5本に入りそうな勢いである。
見に行って良かった。
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