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「トップ・ガールズ」
作 キャリル・チャーチル
翻訳 徐賀世子
演出 鈴木裕美
出演 寺島しのぶ/小泉今日子/渡辺えり/鈴木杏
池谷のぶえ/神野三鈴/麻実れい
観劇日 2011年4月7日(木曜日)午後7時開演
劇場 シアターコクーン H列5番
上演時間 2時間30分(10分の休憩あり)
料金 9000円
ロビーではパンフレット等が販売されていたけれど、そういえばチェックするのを忘れてしまった。
また、義援金の募集も行われていて、ロビーに箱が置かれていた。
ネタバレありの感想は以下に。
額縁のような、それにしてはシンプルすぎるような四角い枠が舞台中央の前面に置かれ、その奥はパーティ会場のようにセッティングされている。
赤いシンプルなワンピースを着た寺島しのぶ演じるマーリーンがこの場の主役であるようだ。
麻実れい演じるイザベラと呼ばれるちょっと時代がかったドレスの女が出たくらいまではそれほどの違和感はなかったのだけれど、小泉今日子がどう見ても平安朝の女の格好をして現れたときには、客席から笑いが起きた。
何というか、ここは尋常な世界ではない。
神野三鈴演じる教皇ヨハンナが、私の中ではこの中の最有名人だ。少し前に見た「ジョアンナ」というお芝居でも関わりのあった(と思われる)女性教皇である。
旅行家だったというイザベラや、帝の女官だったらしい二条、渡辺えり演じるブリューゲルの絵の中の女兵士たちは、見事に相手の話など全く聞かずに、ひたすら自分の話を語り続ける。
主役のはずのマーリーンが語るスキなどどこにもない。
ある意味、非常にありがちな「デキる女」たちの女子会の姿、なのかも知れない。「史上最強のガールズトーク」という売り文句もむべなるかな、という感じである。
そんな中であくまで無言を貫き、でも呆れ果てた、という風情を見せる、池谷のぶえ演じる給仕の姿がなかなか効いている。
でも、このマーリーン曰く「何でこんなに不幸なの」という、いわゆる女性としての幸せとは縁のなかった女たちは、あくまでも均質で、疲れるときは一緒に疲れ、盛り上がるときは一緒に盛り上がる。どこかで「判る」とお互いに思っている。
そこに、鈴木杏演じるグリゼルダといういかにも可愛らしい女が現れた辺りで、この空間は壊れ始める。
彼女は、農夫の娘だったのだけれど、領主である侯爵に見初められ、結婚したのはいいものの、産んだ子供たちを次々と取り上げられ、ついには離縁されてしまう。
それも、「身分違いだと領民がおまえを恨んでいる」という訳の判らない、たぶん大嘘の理由をつけられてである。
ここで彼女が怒っていれば、マーリーンたちの女子会は保たれたのだろうけれど、彼女は「侯爵に従うのが当然」「侯爵は苦しんだのだ」と理解を示し続ける。
その彼女の話を聞くうちに、二条やイザベラたちも、自らの「女性としての苦悩」を語りはじめ、ヨハンナに至っては「女性と判ったために殺された」話をする。
それぞれが、たぶん、見ないことにしていた部分を語らざるを得なくなるのだ。
最後に、渡辺えり演じる兵士が、たぶん彼女が描かれた絵を語りつつ重要なことを語っていたと思うのだけれど、私の耳はなぜかその台詞を聞き取ることを拒否していた。
特段の説明はないけれど、このパーティは、マーリーンの頭の中の妄想だったらしい。史上最強のガールズトークは終了して舞台は暗転し、舞台は現在のマーリーンの姿に変わる。
額縁を転がして動かし、真っ暗な背景に窓やドアをライティングで切り取る。パンツスーツ姿の女性と役者さんたちとでセットの転換をするというのも、何だかこの芝居にふさわしくて恰好いい。
マーリーンは、人材派遣なのか、人材紹介なのか、そういった業種の会社で働いているようだ。妄想のパーティもパーティを開いた理由は妄想ではなかったようで、専務に昇進することが決まったらしい。
彼女が転職志望の女性と面接している様子は、いかにもなキャリア・ウーマンぶりである。
場面は変わって、10代らしい女の子が2人、家のすぐ外に作った基地に閉じこもっている風情である。時々、探しにくる母親に見つからないよう、秘密基地に閉じこもっている。
渡辺えり演じるアンジーと、池谷のぶえ演じるキティは、麻実れい演じるアンジーの母親から逃げ回っているらしく、ついでに、アンジーは家を出たいと思っているらしい。
妄想のパーティの次の日、小泉今日子と鈴木杏演じるマーリーンの部下たちが、上司の噂話をしつつ本日の仕事スケジュールを確認しているようだ。
不倫をしていたり、転職を考えていたり、彼女たちも忙しい。
そして、ヘッドハンティングを経て就職しているらしい有能さと、どことなく「歪んでいる」風情を醸し出している。この歪みは、見ているこちらが作り上げてしまっているものなのかも知れないとは思うけれど、やっぱりちょっと歪んでいると思ってしまうのだ。
小泉今日子演じる女が面接した転職志望の女は「自分がいなくなって初めて、周りの人間は自分の存在を惜しむだろう。そうすることで、自分の存在を思い知らせてやりたい」というのが21年勤めた会社を辞めたい理由だし、鈴木杏演じる女が面接した女は21歳のくせに29歳で営業経験ありだと大嘘をついているし、「トップガールズ」というタイトルのくせに、ここに出てくる女は大抵が歪んでいる。
そして、麻実れい演じる、マーリーンに出世争いで破れた男の奥方はその最たる例で、遠回しなんだかストレートなんだか、よく判らない言い方でマーリーンに自分の夫にポストを譲れと迫ってくる。これまた、いかにもエリートサラリーマンの奥さんで、たぶん自分で働いたことはないんだろうなと思わせる感じで、彼女が退場したときにはあまりのステレオタイプぶりに客席から拍手が起きたくらいだった。
そして、アンジーがマーリーンの会社に突然やってくる。
どうやら家で同然に出てきて、必死でマーリーンの会社を探したらしい。暖かく迎えているマーリーンが意外だ。黙って出てきたならすぐ帰れと言いそうなキャラなのに、そんなことは言わない。自分の家に泊めるつもりになっているし、社内で待っているというアンジーに割とあっさりとOKを出す。
アンジーがこの会社で働きたいと言っていたという話を聞き、机で寝入ってしまったアンジーの頬を撫でて、この子はたぶんこのままだ、というような台詞を言うマーリーンに部下の女2人が驚いて顔を見合わせたくらいである。
私も、てっきり怒って追い返すんじゃないかと思っていたので、このマーリーンの寛容さはかなり意外だった。
そして、アンジーがマーリーンの会社にやってくる少し前、マーリーンが故郷の家に帰ったときに話は戻る。
マーリーンは6年ぶりに自分が生まれた家に帰ったらしい。あまり歓迎されない様子にやりとりするうちに、アンジーが「ママに頼まれた」と嘘をついて、マーリーンを電話で呼び出されたのだということが判る。
マーリーンと、麻実れい演じる彼女の姉は、あまり仲のいい姉妹ではないらしい。最初のうちは押さえ気味だったと思うけれど、どんどん2人の言い合いはエスカレートしていく。アンジーの気の使いようが気の毒になってくるくらいである。
そして、アンジーが寝てしまうと、2人の言い合いはさらに壮絶になって行く。
マーリーンは両親も姉も置いて家を出たこと、姉は家に残って今も母親を毎週訪ねていること、アンジーはここ2年は学校の補習クラスに通っていること、姉の夫は出て行ってしまったこと等々が、相手の言葉を聞いていない2人の応酬によって判ってくる。
この「誰に頼まれたわけではないけれど、何となく義務だと思い込み、心からやりたいと思っているわけではないのにやってしまう」感じが長女っぽくて切ない。
そして、アンジーが、マーリーンが17歳のときに産んだ娘であることがとうとう明かされる。子供が欲しかったけれど産めなかった姉と、何回か中絶を繰り返したらしいマーリーン。
ここに帰ってくるのか、どうしても、と思う。
やる気があって能力があるなら、仕事なんていくらでも紹介する、やる気も能力もなければどうしようもない、と言うマーリーンに、姉が静かに「それならアンジーは?」と尋ねるシーンが痛い。
ここはマーリーンにもっと痛い顔をしてもらいたかったくらいだ。
でも、このやりとりがあったから、会社でのマーリーンの台詞につながるんだろうなとも思う。その場で負けを認めるようでは、恐らく、出世はおぼつかないのだ。
やっぱり姉との言い合いで終わった里帰りで、夜中にアンジーが「ママ、怖いよ」と泣いてやってくる。
怖い夢でも見たようだ。
そのアンジーを毛布で包んで抱きかかえたマーリーンが舞台中央に立ち、これまで舞台上に現れた「トップガールズ」たちが、他の描かれたトップガールズたちとともに、その背景となる。
そして、幕である。
何だか強烈なパワーが押し寄せて来るようなお芝居だった。
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コメント
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
このゴールデンウィークは、旅行計画もなく、お芝居のチケットも1本しか取っておらず、掃除とか洗濯とか衣替えとか、地味めな日々を過ごしております(笑)。
逆巻く風さんは安曇野の方だったのですね。
安曇野というと、「白線流し」というドラマを思い出します。って、ご存知なかったりしますでしょうか・・・。
「おひさま」はお休みの日にちょっとだけ見るくらいですが、久々の正統派の連続テレビ小説ですよね。
方言はあまり上手ではないのですか? 私は長野の言葉はよく判らないので、どちらかというと「戦前の話なのに随分と言葉使いやしゃべり方が現代っ子ぽいなぁ」という感じを受けました。
渡辺えりの出演シーンも見ました。ハンカチを揉み絞っているのがいい感じでしたね(笑)。
逆巻く風さん、どうぞよい旅を!
投稿: 姫林檎 | 2011.05.03 22:54
こんにちは。GWいかがお過ごしでしょうか?
きっと旅行好きの姫林檎さんのことですので、どこかにお出かけかも。私も明日はちょっとした小旅行に出かけます。
どこに書こうかと思いましたが、渡辺えり繋がりでここにします。
彼女も出演している某局の朝ドラ「おひさま」見てますか?あれはド地元です~ (^^)
地元の風景見てもなー・・・・とあまり関心がなかったんですが、縁もあってまとめたのを見たり、今日の特集を見たら、何だかいいんじゃない、と思えてきました。うるうるする場面も多いですし。
機会がありましたら見てやってください。<別に関係者ではないんですが。
それにしても汚いなー、あの方言。(苦笑)
投稿: 逆巻く風 | 2011.05.03 14:11