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2011.04.24

「紅姉妹」を見る

3軒茶屋婦人会 第4回公演「紅姉妹」
作 わかぎゑふ
演出 G2&3軒茶屋婦人会
出演 篠井英介/深沢敦/大谷亮介
観劇日 2011年4月23日(土曜日)午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール R列1番
上演時間 2時間
料金 5800円

 ロビーではパンフレットが販売され、またDVDの予約も受け付けられていたけれど、混雑していたので値段はチェックしそびれてしまった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 G2プロデュースのの公式Webサイト内、「紅姉妹」のページはこちら。

 3人の女性の半生記を逆順で巻き戻すようにして見せていくお芝居だ、舞台はニューヨーク、でも着物芝居、という知識だけは公式サイトを覗いて知っていた。
 わかぎゑふが書く、こうした長い時間を描くお芝居、着物芝居、戦争を背景とした人間を描くお芝居にはもう、絶対の安心感というか、絶対に間違いないという信頼感がある。
 今回のお芝居も、楽しくて、切ないお芝居だった。

 3人の女性の半生記を描くのに、しかし、役者さんは男性3人というところがまずミソである。
 しかし、篠井英介と深沢敦と大谷亮介の3人なのだから、そこはもちろん「定評」以上の安心感があるに決まっている。舞台がニューヨークであることや、お話が80代かあるいは100才に近いのかもしれない、最晩年の篠井英介演じるミミの独白から始まるところも、違和感なく入り込めたポイントだと思う。
 ミミが、ジョーという息子(だと思われる)に電話をかけ、ジュンが亡くなってしまったこと、昨年にベニィが亡くなったときはアメリカ式で送ったけれど、ジュンはどうしたらいいのか迷っていること、葬儀を手伝ってもらいたいことを伝える。そして、大切に飲んで来たバーボンの最後の一本を開ける。
 これで、このお芝居の主要登場人物が勢揃いだ。

 ここで、話は2001年に戻る。21世紀の最初の日をお祝いして街に繰り出したジュンとベニィだけれど、ベニィが「花火の音が爆弾を思い出させる」と言って帰って来たところらしい。
 話の感じからすると3人とも80代というところだろう。
 そこに、79才で再婚したミミが、医者である旦那が実は大金持ちではなく株に手を出して大損していたことから、3人で暮らしていたBAR 紅やに戻ってくる。
 このお芝居は時を逆に辿るだけではなく、場面は常にこのBAR 紅やの中である。この裏寂れた感じのBARがまた格好いい。ニューヨークにあるのだと言われると、それだけで納得したくなる。

 同じ話を何回も繰り返したり、乾杯をしようとして何回も「何に乾杯するのか」を忘れてしまったり、可笑しいのだけれど、でもやっぱり、「帰って来るところはここしかない」という感じがちょっと寂しかったりする。
 ましてや、ミミがこのBARが人手に渡りそうになったときに出したお金が、実は、当時別居していた亭主を(言葉悪く言えば)見殺しにして手に入れた保険金だった、と告白するのだから、ショックを受けたジュンとベニィを見ても笑うに笑えず、ミミのちょっとすっきりした顔が何だか恨めしいくらいである。
 着物を着ているのはミミだけで、ジュンとベニィは洋装である。

 さらに時が巻き戻ると、そこにはジュンとベニィだけがいる。ミミは心臓が悪くて入院しているらしい。「私たちは丈夫でいいけど」と言っているこの2人よりもミミが長生きするのは、皮肉といえば皮肉であるけれど、仕方がない。誰も先のことは判らないのだ。
 ジュンが一回り以上も年下の男性にプロポーズされたと舞い上がり、そこはやけに冷静なベニィに「ちゃんと確認した方がいい」と諭されている。BARのママはベニィで、彼女が世慣れた感じなのはそのせいだろうか。
 結局、ジュンの空回りだったと判明するのだけれど、ミミが倒れ、ジュンの実家も没落してしまってもう頼ることはできない、ベニィのような生き方(それがどういう生き方かは後に判る)もできない、だから普通の幸せな結婚や家族を望みたくなったのだ、というジュンの言葉はかなり痛い。
 でも、彼女たちの息子(これまた、後にどういうことなのかは判る)から「妻に逃げられた」という電話が入ると、ジュンは彼を「結婚だけが全てじゃない」と励ますのだ。
 まあ、この場合、この息子がすでに50才近い年齢だということには目をつぶろう。

 この辺りから記憶が曖昧になって来ているのだけれど、その前は、多分、ジョーの結婚式の日だと思う。
 息子の結婚式のために母親3人が黒留め袖を着ようとしている。ここでリーダーシップを取っているのはジュンで、息子のために「誓いを破って」着物を着ることにしたのだそうで、ピンクの華やかな着物が着たいと我が儘を言うミミに「それはしきたりと違う」と着物のイロハを教えている。
 ミミの着付けのためにジュンと2人で奥に引っ込んだところで、店に電話がかかってくる。ベニィが出ると、それは「ケンジ」と呼ばれている彼女たちの「夫」が戦死したときの上官らしい。
 ケンジは日系人で、アメリカ兵として出陣し、そしてフランスで亡くなったのだ。そして、同じ部隊にいたテツタロウに、ケンジの33回忌も過ぎたことだし、けじめとしてフランスに追悼の旅に出かけないかと電話をかけてきたようだ。
 ・・・ということが判るまでに、実は私は相当に時間がかかった。ベニィが実はテツタロウだった、という発想がなかなか出てこなかったのである。ベニィが男の声と言葉で電話に出ても、「テツタロウの不在を隠したいのね」としか思わなかったマヌケ加減である。
 ベニィが一人で黙って2週間ほど姿を消したのは、この追悼の旅に参加したためだったらしい。

 ベニィが女性になったこと、ケンジが亡くなったのは地雷の爆発を自分の身体で押さえて仲間を救うためだったこと、志願兵になれば家族や恋人が収容所から早く出られるという噂が流れて志願する若者がたくさんいたことなどが語られた後で、最後まで長襦袢姿でいたベニィの着付けを舞台上でしてしまう、というのが凄い。
 その着付けの手早さときれいさに見とれて、それまでの辛いお話がすっと抜けて行くのが判った。

 ここで時間が一気に遡って、時は1960年である。
 息子のジョーをハワイの学校に送り出して、気が抜けた3人である。ジョーを育てるために3人はこれまで協力し合ってきたけれど、ここでその3人も「解散」するらしい。
 というか、このシーンの最大の驚きは、ベニィがいないことである。
 というか、ベニィが男の姿をしていることである。
 というか、ベニィは男だったらしい。
 登場した瞬間には客席から笑いが起こった。こんな意外なことがあるだろうか。私など、そうまでするなら、ミミもジュンも実はやっぱり男だったんじゃないかと思ったくらいだけれど、予想は外れて、ミミとジュンは最初から女性だったのが残念である。

 15周年を迎えたお店に贈られたバーボンで乾杯し、それぞれの道を歩き出そうとする。
 そこへ、何やら怪しげな男が現れて、店のドアをバンバン叩き、暴れるまではしないものの、何だか剣呑な雰囲気である。(ちなみに、この男を大谷亮介が演じていて、何だか不思議な感じがしたのが我ながら不思議である。)
 そして、店が人手に渡る危機だと判ると、夫と別居していたミミは電話で知った夫の病変を誰にも告げない決心を素早くするし、ジュンは親子の縁を切られた実家に連絡を取ってみることを決心する。
 ついでに(と言っては何だけれども)、ミミとジュンの2人はテツタロウに実はケンジが好きだったことを白状させ、女装もしてみたいんでしょう、と続ける。というか、唆す。
 ジュンは、(何がきっかけかはよく判らなかったけれど)もう着物を着るのも止めてアメリカ人になると宣言する。
 ミミの「女性として自由になる」という宣言が夫を見殺しにするという趣旨だと一体誰が想像するだろう。

 そして、最後のシーンは、1945年。紅やは開店したばかりのようだ。
 テツタロウが店にいると、そこにジュンがはるばる日本から「つかぬことを伺いますが、こちらに紅やというお店はございませんか」と訪ねてくる。
 ジュンが「プロポーズされたかもしれない」男性と知り合ったのは、MOMAの目の前で「近代美術館はどこですか」と聞かれたのが最初だ、という後々のエピソードに繋がって行くから面白い。この他にも、ジョーの妻となるメアリの印象とか、くすぐりがあちこちに散りばめられているのが楽しい。
 それはともかくとして、ジュンは、仮祝言を挙げたケンジを訪ね、日本からわざわざ、彼が亡くなったことを知らずにやってきたのだ。
 そこへ、子どもを抱えたミミがやってくる。ケンジの子どもを抱えた彼女もやはり、戦死の事実は知らずに「ケンジがニューヨークで店を始めたという話を聞いて」やってきたのだと言う。
 ケンジの従兄弟で、彼が戦死したことで得た報奨金で彼の夢だった店を出したばかりのテツタロウは困惑する。
 しかし、ジョーがかなり具合を悪くしていることを知ると、テツタロウが睨み合う女2人を叱咤して病院に駆け出す。

 ここで、幕である。

 最後に大どんでん返しが欲しかったなぁ、とも思ったのだけれど、でも、そういうケレンではない、静かな終わり方こそが似合うお芝居だったかも知れないと考え直したのだった。

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コメント

 まさこ様、コメントありがとうございます。

 あら、お近くの席でご覧になっていたのですね。もしかしたら、視線があっちゃったりもしていたかも知れませんね。

 ほんと、3人ともたくましいお婆ちゃんたちでしたね。
 そして、格好いい。
 ああいうお婆ちゃんになりたいものです。

投稿: 姫林檎 | 2011.04.25 23:07

姫林檎さま、こんにちは。
わたしも同じ時間に観に行ってました!
(しかもかなり近い席だったと思われます)

よくできた脚本と役者さんの演技力の揃った
素敵なお芝居でしたね。

先日観た『トップ・ガールズ』の女性たちは
仕事ができてもどこか「脆さ」があったけど、
この3人はとてもたくましく感じました。

投稿: まさこ | 2011.04.24 11:22

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