「アンダー・ザ・ロウズ」を見る
虚構の劇団 第6回公演「アンダー・ザ・ロウズ」
作・演出 鴻上尚史
出演 大久保綾乃/大杉さほり/小沢道成/小野川晶
杉浦一輝/高橋奈津季/三上陽永/
山崎雄介/渡辺芳博/古河耕史
観劇日 2011年4月16日(土曜日)午後2時開演
劇場 座・高円寺1 J列13番
上演時間 2時間
料金 4500円
何だか久しぶりに鴻上尚史の芝居が見たくなって、当日券を予約して(というのも何となく矛盾しているような気もするけれど)行って来た。
ロビーではパンフレット(500円)や、鴻上尚史の著作などが元気いっぱいに販売されていた。
開演前、携帯電話等の電源を切るようお願いのアナウンスと同時に、地震があった場合の注意事項が流れた。最初は鴻上尚史が生でマイクでしゃべっているのかと思ったのだけれど、ふと後ろを振り返るとご本人が最後列の一番端に座っていたので録音だと判った。
ラッパ屋のときと同様、客席が揺れやすい構造になっていること、隣の人が笑っても揺れること、照明が揺れたらそれは地震であること、客席に段差が多いので地震の場合は芝居を止めて誘導するのでそれまでは席にいて欲しいことなどなどがアナウンスされた。
そして、自粛が広がる中、余震が続く中、来てくれてありがとう、と締められた。
客席に鴻上尚史の「ごあいさつ」が置いてあるのを見つけたときは、嬉しかった。
ネタバレありの感想は以下に。
まずは、客席に若者が多いことに驚いた。
ついでに書くと、終演後のロビーでたくさんの若者が熱心にアンケートを書いていることにも驚いた。
多分、私は「虚構の劇団」の舞台を見るのは初めてなのだけれど、第三舞台のファンを引き継いだというよりは、新しい観劇層を発掘してきているんだなという風に思った。
劇中でも、この劇団の過去公演で出てきたキャラクターと思われるキャラクターが出てきたり、そのことを匂わせたり、ずっと見続けている観客をくすぐるような部分があって、そういうちょっとした閉鎖性が今の若者には喜ばれるのかしらと思ったりした。
我ながら、年寄り臭い感想である。
SF仕立てだったり、ダンスシーンが入ったり、テーマだったり、芥川賞(劇中ではもじって名前を変えていたけれど)のテレビの前でのしゃべり方が西牟田恵が「スナフキンの手紙」で演じていたキャンディーを彷彿とさせたり、東日本大震災のことやそれにまつわる東京都知事発言などもしっかり台詞に組み込まれ、何となく見ていて「懐かしい」感じがする。この感じ、久しぶりに見たなと思う。
逆に、「鴻上作品のヒロインは赤い服」という刷り込みがあって、最初のうちはヒロインはどこだ? と探してしまった。赤い服をヒロインが着なくなったのは、たまたまこのお芝居だからなのか、時代なのか、心境の変化なのか。
舞台上は、衝立のようなものがたくさん立っている。その衝立は可動式で、ひっくり返すと裏側はミラー状になっている。セットはそれだけで、シンプルといえばシンプルな造りだ。映像もたまに使われていたけれど、色が抑えられていたためか、全くうるさくは感じなかった。
最初は「こちら側の世界」のイチノセという男のもとに、中学時代にいじめられていて救えなかった旧友のサカイが現れるところから物語が始まる。
中学時代以降会っていなかったイチノセはもちろん驚愕するが、そこにさらにサカイが妙な台詞を読ませてビデオに録ろうとし、理由の説明を求めると、実は自分はパラレルワールドからやってきたのだと言う。
やっぱりもしかして、このお芝居は「スナフキンの手紙」「ファントム・ペイン」を意識しているのかも知れない。
サカイの世界にやってきたイチノセは、この世界の自分が、中学時代に虐められていたサカイを助けたことで自分がいじめに遭い、引きこもった後、自分をいじめた3人をバットで殴って逮捕され、堂々と「生き直すために必要だった」と言ったことで「空震同盟」という組織の盟主のようになっていることを知る。
この空震同盟が説く「生き直し」が、相手を自分一人で金属バットで殴ることで、その「背中を押す」ことが空震同盟の主な活動内容らしい。
最初に音で「クウシンドウメイ」と言われたときには「空心同盟」だと思ったのだけれど、違っていた。
受賞後第1作が書けずにいる女の子や、彼女が通うエアロビクススタジオのインストラクターは何やら屈託があるようだし、そもそもこちらの世界のサカイが何を考えているのかも、こちらの世界のイチノセがどうして姿を消してしまったのかも判らない。
イチノセが「背中を押す」として面接したインストラクターの女性は、実はイチノセにバットで殴られた男性の妹で、背中を押してもらった彼女がイチノセをナイフで刺そうとしたり、イチノセが貸しスタジオにいることを見てしまった作家の彼女を監禁して、空心同盟のツルカワという男が彼女と殴り合いをしてインターネットで中継することで「生き直し」をしたいと言い始めたり、インストラクターの女性や作家の彼女がお参りしたパワースポットには実は監視カメラが取り付けられていてそこで話された「秘密」をネタに商売いている男女がいたり、ぐるぐるとした渦を感じる。
そんな中で、「ミサキマン」だったか、この男女のおかげですっかりスーパーヒーローになったつもりになってしまった男の存在が、何だか「天使は瞳を閉じて」でひたすら壁を打ち壊そうとしていた男を思い出させて切ない。
作家の彼女が、恵まれた自分を持て余し、いじめらるということを身体で知りたいと、ツルカワに一方的に殴られ、その様子がネットで流れたことで「世間の風」が吹き始める。
「世間の風」は、要するに「気分」のようなものらしい。
「世間」というプレッシャーがいつの間にか実体化し、顕在化し、物理的な暴力となって現れる。
何とかその「世間の風」から逃げ出したサカイは、イチノセとこちらの世界のイチノセの恋人に、最後にイチノセと会ったときの話をする。
イチノセは、空震同盟を止めようとしていたらしい。それも、「あってはいけない」というような意志的な止め方ではなく「元から自分はリーダーになんて向いていなかった」という理由でだ。
そんなイチノセをサカイは殴り、でも、その後のイチノセがどうなったかを確認しないまま逃げ出したらしい。
さて、サカイは本当にこの国に戦争を仕掛けようとしていたのか、そこに勝算はあったのか、イチノセはどこへ行ってしまったのか、パラレルワールドのイチノセは何故こちらの世界に留まろうとしていたのか、イチノセの彼女は「生き直し」をこれからも続けるつもりなのか。
色々なことがポンと差し出されたままになっている感じがする。
でも、「今」の「何か」を凝縮して見せられた、ここから先をどう展開するかは見た者次第だ、そんな感じのお芝居だったと思う。
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