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M&O playsプロデュース 「鎌塚氏、放り投げる」
作・演出 倉持裕
出演 三宅弘城/ともさかりえ/片桐仁/広岡由里子
玉置孝匡/佐藤直子/大河内浩
観劇日 2011年5月22日(月曜日)午後2時開演(千秋楽)
劇場 本多劇場 L列20番
上演時間 2時間25分
料金 6000円
倉持裕の作・演出作品は、多分初めてである。
ロビーでは、パンフレットと、何作かのDVDが販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
見る前は、この情報源がどこだったかさっぱり思い出せないのだけれど、三宅弘城演じる鎌塚氏が完璧な執事になるためにどこかのお屋敷にやって来て、ともさかりえ演じるそのお屋敷の女中がしらの協力を得つつ、主人夫婦や滞在している客人夫婦の無理難題を次から次へ、右から左へと捌いてゆくお話、だと思っていた。
確かに、鎌塚氏は、父親の跡を継いで羽島侯爵家の執事長になるべくやってきたらしい。
でも、どうも出迎えに出てきた女中がしらの上見ケシキの様子からして「協力を得つつ」という感じがしない。というよりも、ケシキからは、拘りというか反感というか、前々からの知り合いだけどその前々にちょっとした因縁があるのよ、という風情が感じられる。
それを、執事と女中の格好で、それらしい言葉使いでやりとりされると、怖いといったらない。
主人夫婦に挨拶すると、いきなり主人から「明日の朝食後に提案を聞こう」と言われる。もちろん、完璧な執事を目指す鎌塚氏のことだから、「もちろんでございます」と答えるのだけれど、これだけで提案ができる筈もない。
よくよく聞き出してみると、この羽島家はかなり資産状況が苦しく、はっきり言えば破産寸前の状態らしい。そこで、男爵だけれど羽振りはいい堂田家から融資を受けようと考えているのだけれど、侯爵と男爵の爵位の差からプライドが邪魔して申し出ることができない。それを先代執事長の鎌塚氏の父に相談したところ、堂田夫妻が滞在中に犯罪を行ったことにして、融資を頼むのではなく賠償金だったか、とにかくそういう性質のお金を払わざるを得ないように仕向ければいいと答えられたというのだ。
父親を「最高の執事」と信じている鎌塚氏にとってはにわかに頷ける話でもなさそうだけれど、どんなことでも主人の言うとおりに思うとおりにこなすのが完璧な執事だと思っている鎌塚氏が断れる筈もない。
「今晩、一晩あれば十分です」と請け合う。
この辺りから、どうもコメディではないんじゃないかという感じが私の中で漂い始めた。
何というか、主人夫婦のエラソーだけれど邪気のない無茶苦茶な注文を鎌塚氏が嘘のような運動能力と頭脳によって次から次へと解決していくお話なんじゃないかと、その無理を何としてでも通すやり方がコメディになっているんじゃないかと勝手に想像していたので、この妙に緊迫感のあるというか、いきなり「犯罪に手を貸す執事」みたいなシチュエーションに一瞬付いて行けなかったのだ。
佐藤直子と大河内浩演じる羽島侯爵夫妻と、片桐仁と広岡由里子演じる堂田夫妻の、キツネと狸の化かし合いスタートである。
それにしても、片桐仁と広岡由里子と来たら、クセのあるお金にがめつい男爵夫妻がやけに似合っている。夫婦両方してクセがあって、どちらのクセも甲乙付けがたく、しかも両立している。見ものだ。
その夜、鎌塚氏が自分の部屋に戻ると、ケシキがベッドで寝ていて、しかも知らない男と一緒だった。どうしてそういうことになるのかはよく判らないのだけれど、ケシキは自分の婚約者である、玉置孝匡演じる堂田男爵家の執事の宇佐を紹介したかったらしい。
というか、結婚を止めて欲しそうに見えたけれど、それはどうだったのだろう。
何でも恋愛に結びつけたがる、羽島公爵夫人に影響されたのかも知れない。
その後はもうしっちゃかめっちゃかで、鎌塚氏は侯爵夫妻に「男爵夫妻がお屋敷内で窃盗を働いたことにすればどうか」と提案し、侯爵夫人が「真っ当に頭を下げればいい」ともの凄くまともなことを言ったにも関わらず、侯爵は家宝のネックレスを鎌塚氏に託す。
鎌塚氏はそれを男爵夫妻の部屋に隠しに行こうとして、逆に男爵夫妻に見つかって「主人のものを盗もうとした執事長」だと思われる。その会話の最中にどうしてホロホロ鳥が殺されなくてはならないのか、全く訳が判らない。
次に侯爵家家宝の指輪を預けられて男爵夫妻の部屋に隠そうと壁の外から接近していた鎌塚氏は、宇佐と男爵夫人の浮気現場を目撃し、衝撃のあまり(?)持っていた指輪を落としてしまう。作戦失敗だ。
その指輪は結局ケシキが拾い、宇佐に「これで結婚資金ができた」と告げ、宇佐は鎌塚氏から借りたハンカチに包まれていた鍵を使って鎌塚氏の引き出しを開け、しまわれていたネックレスをネコババする。そのネコババするきっかけとなったのが、侯爵の息子から本当は鎌塚氏父にかけたかった恋愛相談の電話だったのが面白い。
宇佐は何故だか男爵夫人との駆け落ちに走り、そんなつもりは全くなかった男爵夫人は男爵の元に戻って大団円、同じ職場で働いていた鎌塚氏とケシキがそうでなくなったのは、お屋敷の主人から「女性として」見られるようになったケシキを鎌塚氏が解雇したからだったらしく、ケシキは「執事としてではなく鎌塚氏としての意見が欲しかったんだ」と言う。
あら、侯爵夫人の野次馬根性も捨てたものじゃないじゃない、というところだ。
鎌塚氏がケシキに言う「あなたにはプロ意識がない。だからご主人からも女中としてではなく女性として見られるんだ」という台詞と、鎌塚氏がこれまでの顛末をケシキに語った後でケシキが鎌塚氏に言った「それは全て執事の仕事ではありませんね。できないことは(嫌なことは、だったかも)きちんと言わなければだめです」という台詞が、この二人の関係性を端的に表しているよな−、と思う。
最後には、ケシキは拾った指輪を鎌塚氏に返し、男爵夫人と駆け落ちしようとしていた宇佐は失敗して堀に落ちてネックレスをネコババしたことがバレ、侯爵家の息子と男爵家の娘が結婚することになって侯爵家は男爵家から名分の立つ形で融資を受けられることになり、侯爵家の息子の恋愛相談を受けて葉っぱをかけた宇佐はたっての願いでこの新婚夫婦に仕えることになる。
大団円だ。
どうしても気になるのは、男爵とメアドの交換をしようとして鎌塚氏の携帯が壊されてしまい、鎌塚氏の父親がどうして「堂田夫妻に犯罪を行わせる」などという提案を侯爵にしたのか、それを尋ねたメールへの返事が最後まで明かされなかったことだ。
何故だ−!
鎌塚氏の事情は、劇中で何度かケシキのナレーションで語られており、同じような形で鎌塚氏父の返事が知らされると思っていたので、最後まで「変な着信音をならす鎌塚氏の壊れた携帯」で終わってしまったときには「落とせー!」と心の中で叫んでしまった。
どこまでも真面目な鎌塚氏、真面目に見せつつも現代っ子(という言葉が死後な気もしますが)の女中がしらのケシキ、尊大な羽島侯爵に、天然だけれど誰よりもまともなことを言っていた侯爵夫人、傲慢そうに見せて実は真面目は働き者の堂田男爵に、結局はダンナに惚れていたんじゃないという感じの男爵夫人、実直そうに見せて実は一番腹黒かったのかもしれない男爵家執事の宇佐。
見事なバランスである。
また、配役もぴったりだ。
しかしそこはやっぱり堂田男爵夫妻に引っ張られ、鎌塚氏がやろうとしていたことを考えるとかなり暗い気持ちになるストーリーなんだけれど、あちらこちらに散りばめられた笑いの要素に引きずられ、結構、笑いながら最後まで見てしまった。
「鎌塚氏、放り投げる」というタイトルだけれど、職務放棄かしらとちょっと期待していたところ、完璧に「何でもご主人の言うことを聞く」執事になることを、大きなお盆一杯にに載ったバラの花や花びらを放り投げて花吹雪を作り、息子と娘の結婚式に出かけた二組の夫婦が戻るまでの間、(多分)壊れてしまった携帯を買い換えるためにケシキと出かけて行く鎌塚氏、というラストシーンに引っかけてあった。
でも、やっぱり、鎌塚氏父の返事が聞きたい!
今のところ、息子と娘の恋愛相談に乗っていた鎌塚氏父は、羽島夫妻が問題なく(プライドを曲げることなく)堂田夫妻から融資を受けられる見通しを持っていたのじゃないか、と思っているのだけれど、どうだろう。
倉持裕の作・演出作品を見たのは初めてで、その辺りの推測がつかなかったのが、何となく悔しいのであった。
千秋楽だからか、いつものことなのか、カーテンコールには(推定)倉持裕も出てきていた。
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