「ヒア・カムズ・ザ・サン」を見る
演劇集団キャラメルボックス 2011ハーフタイムシアター「ヒア・カムズ・ザ・サン」
脚本・演出 成井豊
出演 阿部丈二/西川浩幸/大森美紀子/岡内美喜子
三浦剛/渡邊安理/多田直人/小林千恵
観劇日 2011年6月17日(金曜日)午後8時30分開演
劇場 サンシャイン劇場 1階10列21番
料金 4000円
上演時間 1時間10分
「水平線の歩き方」に引き続いて見た。
ネタバレありの感想は以下に。
出演する筈だった西川浩幸が病気のために降板し、「水平線の歩き方」で主演している岡田達也が代役に立っている。
そこで、開演前に、西川浩幸が稽古場(だと思われる)に来て、少ししゃべるのは大変そうなのだけれど、元気な姿で笑顔で挨拶している動画を流していた。キャラメルらしい、行き届いた配慮だと思う。
西川浩幸の一日も早い復帰を祈りたい。
「水平線の歩き方」のカーテンコールで、前田綾に「ヒア・カムズ・ザ・サンでは全く違うお芝居を見せます」とぶち上げられて「ハードルを上げるなよ」とツッコミを入れていた岡田達也だったけれど、確かに今度は全く雰囲気が違っている。
老人とは言わないけれど、35才のラグビー選手と、50代(だったと思う)の性狷介な男とを、同じ日に僅かなインターバルを置いただけで(というよりも、メイク等々だけで20分強は過ぎたのではあるまいか)演じるというのは相当にハードなのではなかろうか。
妙にアメリカ風で寒いギャグや、その性狷介な感じ、大森美紀子と元夫婦を演じるという設定等々、西川浩幸にあて書きされていたのだろうかと思わせられるから、尚更である。
もう一つ思ったのが、「水平線の歩き方」では主人公の幸一の恋人役を前田綾が演じ、この「「ヒア・カムズ・ザ・サン」のヒロインであるカオルを演じているのは岡内美喜子で、ヒロインを務める役者がやはりシフトしつつあるんだなということだった。我ながら年寄りくさい感想だとは思うけれど、何だかしみじみと思ってしまったのだから仕方がない。
「水平線の歩き方」も「「ヒア・カムズ・ザ・サン」も、「ハックルベリーにさよならを」のその後の物語なのだそうで、私は実は「水平線の歩き方」の方はどう「ハックルベリー」と関連しているのか判らなかったのだけれど、こちらは、「ハックルベリー」で主人公の少年のお父さんと別れてしまったカオルのその後の物語なんだなということが判りやすい。
そして、こういう仕込みといえばいいのか、繋がりは、同じ劇団のお芝居を見続けている方からすると嬉しいものである。
さて、物語はそのカオルの父親が20数年振りにアメリカから帰国するところから始まる。
カオルの同僚である、阿部丈二演じる真也はサイコメトラーで(私の使っているATOKはこの単語を変換してくれなかった・・・)、カオルに頼まれて岡田達也演じるカオルの父白石を迎えに行き、そして、「映画関係の仕事をしている」という本人の話とは異なる映像を見る。
カオルから、こんなに突然に帰国した理由を知りたい、調べてくれと言われていた真也は、カオルにプロポーズしているということもあり、そもそも本人の資質としてカオルが何度も言うように「結婚するにはいい人」であるからして、どんどん白石とカオルの親子、そこにさらに白石とは離婚している大森美紀子演じるカオルの母照子との関係に踏み込んで行くことになる。
サイコメトラーという設定は、1時間でこの物語を展開させるための「武器」なんだろうという気がする。この設定がないと、真也が白石の「本当の目的」や病状に気がつくための経緯ややりとりがもう少し必要になるだろう。そこを、「見えた」ということにすれば、観客がとっくに気がついている展開に登場人物達を素早く載せることができる。
その代わりに、物語の中心はあくまでもカオルの一家で、真也のサイコメトリングはカオル一家の物語を進ませるためのツールと割り切られているようなところがあって、真也のサイコメトラーとしての葛藤のようなものは一切語られることはない。
物足りないといえば物足りないのだけれど、ここは「1時間のカオルの家族の物語」であることにフォーカスして見るのが正解なんだろうと思う。
真也は、とうとう白石の視力がかなり失われ、近い将来に失明するだろうと言われていることを聞き出す。
白石の帰国の目的は、本当に「輝子とカオルの顔を見ること」で、でもそこには「最後に」という一言が付くのだ。輝子と会ったときもカオルと会ったときも夜で、しかも2人とも「20年以上前に自分たち母子を捨てて映画のためにアメリカに渡った」夫・父親に対して「もう気持ちは整理できている」と言いつつもわだかまりが全くないとは言えない。
そうした2人に「それももっともだ」とここだけやけに弱気な白石は、明るいところで2人の顔をしっかりと見たいと言い出せず、そもそも失明の危機にあることも真也に口止めし、けれど、真也とその上司とはカオル親子を白石の見送りに成田空港に連れてくることに成功する。
こちらの方が、ハッピーエンドな感じがするのは何故なんだろう。
「水平線の歩き方」よりも「「ヒア・カムズ・ザ・サン」のダンスシーンの方が明るかったからだろうか。
主要登場人物が、「水平線の歩き方」では亡くなっているし、「「ヒア・カムズ・ザ・サン」では失明しようとしていて恐らく家族とはもう二度と会わないだろうと思っている。
それでも、後者の方が明るいように感じるのは、やはり「生きている」からなんだろうか。
全員が後ろ姿のラストが、何故か前向きに見えるお芝居だった。
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