「ノバ・ボサ・ノバ」を見る
宝塚星組公演
ミュージカル・ショー「ノバ・ボサ・ノバ」-盗まれたカルナバル-
作 鴨川清作
演出 藤井大介
ロマンティック・ミュージカル「めぐり会いは再び」-My only shinin’ star-
~マリヴォー作「愛と偶然との戯れ」より~
脚本・演出 小柳奈穂子
観劇日 2011年6月14日(火曜日)午後6時30分開演
劇場 東京宝塚劇場 1階18列57番
料金 8500円
上演時間 3時間(30分の休憩あり)
生涯3回目の宝塚である。
星組公演は、2010年末に続いて2回目だ。
ネタバレありの感想は以下に。
「ノバ・ボサ・ノバ」というこの演目は、1971年に初演されたときに「全てが斬新」と評された、いわば伝説のショーらしい。その後、何回か再演されており、星組トップの柚希礼音の初舞台がこの作品だったのだそうだ。この辺りの予備知識を、連れて行っていただいた達人2人に授けてもらい、「でも、何も知らなくて見たら、ストーリーは判らないかも」と言われつつ見ることになった。
「ミュージカル」と銘打ってあるとおり、台詞もあるし、歌詞がそのまま状況説明だったりするので、事前学習なしに初めて見た私にも大まかなストーリーは判った。娘役トップの夢咲ねね演じるカーニバル見物に来た若い女性が、豪華な首飾りを泥棒に盗まれ、その首飾りを奪還すべく柚希礼音演じる「義賊」の青年が大活躍する。
一方で、物売りの男と婚約していた女の子に泥棒が横恋慕し、それに怒った物売りの男が誤って婚約者を刺し殺してしまう、というストーリーも同時進行する。
でも、このショーを見るときにストーリーをそれほど気にする必要はないような気がする。
一目で南国のビーチリゾートと判る舞台セット、カーニバルだから、全体的に盛り上がって華やかで賑々しい。その賑やかさを楽しむのがこのショーの眼目だろう。
我ながら古臭い言い方だとは思うけれど、いかにも「アバンチュール」に興じている若者たちが多数いて、もしかして、その様子が「斬新」だったのではなどと考えてしまう。男役と娘役が僅かなダンスシーンの間だけ入れ替わるなどという趣向も楽しい。
衣装も次々と変えられ、日焼けした感じにお化粧した(手足まで同じ色にするのは相当大変だったに違いない)たくさんの人が華やかに歌って踊る。カーニバルに興じている人も、集まってきた人も、みんな「楽しい」し、楽しい人を演じている訳で、これはもう、問答無用で楽しい。
狂言回しを務めた、涼紫央演じる神父とシスターのコンビがまた可笑しい。
このショーは、最後には恋に落ちた(らしい)2人が割りと深刻な様子で別れてしまい、ハッピーエンドではないのだけれど、そこを歌と踊りの華やかさで盛り上げ、神父とシスターのやけに間の抜けたやりとりでコメディタッチに持って行く。
これはもう、とにかく「華」と「非日常」にどっぷり漬かって楽しんだもの勝ちのショーだと思う。
「ストーリーが判るか」というお題が出ていたこともあって、かなり前のめりに見入ってしまい、あまりにも見入ったために終わったときには脱力してしまったくらいだった。
ところで、前回は気がつかなかったのだけれど、今回は、前半も後半も指揮者を女性が務めていたように思う。
宝塚では指揮者も女性しかやらないのか、女性が増えてきているのか、たまたまなのか、よく判らないのだけれど、珍しいなと思ったのだった。
30分の休憩の後は、もうちょっとストーリー性の強いミュージカルである。
「めぐり会いは再び」というタイトルで、演出家のデビュー作らしいということも、先輩方から伝授してもらった知識である。開演前のアナウンスで、作・演出が同じ人だということが判り、自分で書いて演出した作品がデビュー作なんていいな、それとも宝塚ではそれが普通のことなんだろうか、とまた基本的なところで悩んでしまった。
どこぞの伯爵令嬢のお婿さん選びが行われることになり、5人の候補が集められる。失恋したて(しかも恋敵はどうにも空気を読まない感じの姉なのだ)の令嬢は男性不信で、侍女と入れ替わって候補者たちの本性を見てやろうと企む。一方、候補の一人であるドラントもとある理由から女性不信もいいところで、やはり令嬢の本性を暴いてやろうと従者と入れ替わることを決める。
そこに、旅芸人の一座や、どうにも皮肉屋で妹曰く「陰険」な伯爵令嬢の兄が絡み、婿候補の5人もそれぞれに事情やら思惑やらがあって、当然のことながら話は混乱するばかりだ。
しかし、それぞれ従者に化けた主人と、主人に化けた従者が恋に落ち、最後には「不信」を解いてめでたしめでたしの、こちらは文句なしのハッピーエンドである。
見ているときは、シェイクスピアのあれとこれとそれを足したみたいなストーリーだな(ちなみに、あれとこれとそれに具体的な当てがあった訳ではない)と思っていたのだけれど、家に帰って調べて見たら、マリヴォー作「愛と偶然との戯れ」が原作というか原案らしい。
しかし、入れ替わりとか、旅芸人とか、婿選びとか、いかにもシェイクスピアっぽいアイテムではないか。
主従の入れ替わりだけではなくて、令嬢の兄に恋をしては冷たくあしらわれているどこぞの令嬢が男装してやってきたりもしていて、本当に「てんこ盛り」の設定なのだ。
しかも、貴族のお姫様にお坊ちゃまが主役だから、衣装も華やかだし、みなの物腰も優雅、セットもなかなかに豪華で、コメディなのだけれど定番は外していない。
このミュージカルで私が気に入ったのは、シルヴィアの兄と姉である。
妹に真っ向勝負で「陰険」と言われるような兄と、超天然で、最後の最後に侍女の扮装をしつつも追い詰められていたシルヴィアに「あら、シルヴィア何をしているの? 相変わらずお転婆なんだから!」とその場にいる全員に聞こえるように叫ぶ姉。この兄姉にしてこの妹あり、という感じだ。
そんな機会は絶対にないのだけれど、もしこのミュージカルの中でどれか好きな役を演じていいと言われたら、私はこの兄か姉をぜひ演じて見たいと思う。
そう考えると、この三兄弟の父親である伯爵はなかなかの人物であるといえるだろう。
ところで、一緒に行った方が見終わった後でボソっと、「身分違いはダメだけれど、不倫はいいのね」と言っていたのが何だか可笑しかった。
それはともかくとして、悲劇の方が「大作」となるんだろうという感じはあるのだけれど、でも、この作品も再演を重ねるようになるんじゃないかな、と思ったのだった。
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コメント
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
「現にスカーレット・オハラは何をなした人でもなく、」って確かにそんなイメージです。私の中では「また、明日という日があるんだわ」と呟いた人、という印象しかないと言っても過言ではないですから(笑)。
「Mitsuko」は今日の読売新聞夕刊でも大きく掲載されていましたね。
「G・G・R」は、男優さん6人が配置されたチラシを見てかなり迷ったのですが、何となくチケットを取らないままになっています。逆巻く風さんが爆睡されたということになると、そんなに無理して見なくても良かったのかも,という風にも思います。
どのお芝居を観るか。ある意味、賭けですよね。
投稿: 姫林檎 | 2011.06.22 22:59
風と共に去りぬ、はその時々の主演の女優さんの個性と美しさに幻惑されてストーリーなんてどうでもよい、というようなもの。
現にスカーレット・オハラは何をなした人でもなく、立派だった人でもありません。・・・と思う。映画も今度の劇もラストシーンが印象的で、もうそれを見れればいいのだと思います。
むしろMitsukoの方がお奨め。ミュージカル嫌いの方でも楽しめると思います。
あと観たのは「G・G・R」で、よく寝れました(笑)
映画「摩天楼を夢見て」の舞台版だそうですが・・・よく内容が把握できませんでした。役者さんは芸達者でしたが。ご覧になったらまた書いてください。
投稿: 逆巻く風 | 2011.06.22 08:23
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
「風と共に去りぬ」は評判がよいようですね。
実は私は、スカーレット・オハラの映画版すら見ておらず、ストーリーもよく知らなかったりするのですが・・・。
「Mitsuko」も、ヨーロッパの貴族と結婚した日本女性よね、ゲランの香水の「Mitsuko」の命名の由来となった人物よね、ということしか知らなかったりします・・・。
こちらはミュージカルなのですね。
なかなか同じお芝居を観たというお話になりませんね(笑)。
今回は、東京での観劇は2本だったのでしょうか?
投稿: 姫林檎 | 2011.06.21 22:47
こんにちは。宝塚、行ってますね。感想を読ませてもらうと、まんざらでもないような。あまりハマらないように(ニヤリ)
さてさて、僕の方は相変わらず東京観劇で、この間は「風と共に去りぬ」と「Mitsuko」を観てきました。どちらも頑張って良い席が取れたので堪能してきました。米倉涼子さん安蘭けいさん、お二人とも存在感は抜群です。Mitsukoは感動すらしてしまいましたし。
偶然かどちらもカーテンコールの時舞台あいさつがありました。ちなみに「風と~」はミュージカルではありません。
投稿: 逆巻く風 | 2011.06.21 08:38
あんみん様、コメントありがとうございます。
ふふふ。変な感じですね(笑)。
えーと、可笑しかったでしょうか・・・。かなり素直な感想だったのですが。
非日常の華やかな世界に没入してスカッとするって意外とないことなので、連れて行ってくれた先達の方々のように一公演を何回も見に行くということはないと思いますが(それは、多分、別の楽しみ方なのだと思います)、でも楽しいですよ。
あんみんさんもぜひ機会があったらチャレンジしてみてください!
投稿: 姫林檎 | 2011.06.20 22:45
こんばんは、なんだか変な感じですが あんみんです。
これを観に行かれたんですね~、と言っても全く知らないし
何も分かっていませんが。(笑)
でも、このショーを見るときにストーリーをそれほど気にする
必要はないような気がする。
ここがとてもおかしくて、ヅカファン以外はこれでいいのだ!と
頷いてしまいました。
それでもキチンとレポをまとめるところが
姫林檎さんらしいと感心しました。
投稿: あんみん | 2011.06.20 20:06