「岸家の夏」を見る
劇団鹿殺し 夏の女優祭り「岸家の夏」
作 丸尾丸一郎
演出 菜月チョビ
音楽 入交星士/オレノグラフィティ
出演 菜月チョビ/丸尾丸一郎/オレノグラフィティ/山岸門人
橘輝/円山チカ/傳田うに/坂本けこ美
山口加菜 /浅野康之/水野伽奈子/鷺沼恵美子
江古田邦子/峰ゆとり/近藤茶 /谷山知宏(花組芝居)
千葉雅子(猫のホテル)/峯村リエ(NYLON100℃)
観劇日 2011年7月30日(土曜日)午後2時開演
劇場 青山円形劇場 Aブロック19番
料金 4500円
上演時間 2時間10分
ロビーでは、前公演のDVD等が販売されていた。というか、こどもの城にやってきた子供達とそのお父さんお母さんのパワーに負けて、物販をチェックしそびれてしまった。でも、カーテンコールで話していたから、DVDが売られていたことは確かだと思う。
カーテンコールで葉月チョビが「物販に立ちます」「サインします」と宣伝していた。
ネタバレありの感想は以下に。
劇団鹿殺しの舞台はここ数公演、チラシを見て気になってはいたのだけれど、実際に見たのは今回が初である。
私の好きな女優さんたちが客演していたということも大きい。そういえば、「イキウメ」を最初に見たのも、小島聖が出るのを知ってだったような気がする。私のようなミーハーがいるのだから、客演というのはやっぱり意味がある(こともある)のだろう。
最初は結婚相談所のシーンである。
どう見ても男の俳優さんが、結婚相談所の女性所長になり、入会希望者に対応している。
そこで彼に紹介されるのが、岸家の三姉妹である。千葉雅子演じる長女の夕子、峯村リエ演じる次女の陽子、菜月チョビ演じる三女の朝子だ。3人それぞれ振袖を着て大きな羽根飾りをつけて着飾っているのだけれど、明らかに似合っていない。語られるプロフィールもやけにものものしい。
そうして、この三姉妹が結婚相談所に登録することになった、この夏の経緯が語られる、という趣向である。
・・・と思ったら、いきなり三姉妹がマイクを持ち、歌い踊り始め、あっという間に舞台上は人で溢れて歌と踊りが舞台いっぱいに繰り広げられ始めた。
全く予想していなかったので、びっくりである。
何だかこのノリは懐かしい、と思った。
よくよく考えると、登場人物の感情だったり、完全に物語の背景だったりを歌に乗せて伝えるというのは、井上ひさしの芝居でもよく見るし、新感線もそこに入るだろう。でも、何故か私がここで思い浮かべたのは第三舞台だった。
第三舞台は、ほとんど歌うシーンはなかった筈なのだけれど、でも何故だかイメージが直結した。
役者さん達がもの凄い「いい笑顔」で踊っていたからかも知れない。
振袖姿で踊っていたかと思うと、舞台上で早変わりし、ドレス姿になって再び歌い踊り狂うのも見事だ。
ただ、この辺では、私は何だか置いてけぼりにされた感じもしていた。私の座った席の周りは割とこの劇団を見ていらっしゃる方だったようで、私とは全く違うタイミングで大受けして笑っていたのだ。
「バカになればヤワになれば結婚相手が見つかるかも」という(こういう乱暴なくくりもどうかと思うけれど)ような歌詞で、歌っているのは41歳、38歳、32歳(だったと思う)という設定の女性たちとくれば、「笑う」シーンではないような気がするのだ。
自分の笑いの感度がことさらに低いとは思いたくないので、何というか、劇団内のお約束のような何かがあったのか、あるいは役者さんに特に思い入れがある方だったのあと思うことにしたのだけれど、周りの笑いに付いて行けないって結構淋しいものだなと思ったのだった。
三姉妹の母親は随分前に亡くなっていて、父親が柔道の道場をやりながら育ててくれたらしい。
長女は独身のまま実家にいて明太子のお店でOLをやっている物堅そうな女だし、次女はトルコ人と結婚して13年目にして夫の浮気が発覚して実家に戻って来たところ、三女一人が柔道を続けて警備会社に就職して柔道にも取り組んでいる。
図らずも父親の還暦祝いの日に集まった三人は、それぞれ「婚活はもう止めた」「離婚して実家に戻ってくる」等々と宣言する。
翌朝目覚めると、父親の姿はなく、誰とも知らない若い男がいて、その男からひとしきり昨晩の騒ぎを聞かされ、挙げ句の果てに「父親が創った1000万円の借金を返せなければこの家を差し押さえる」と言われてしまう。
そこから先は無茶苦茶かつ怒濤の展開で、長女は借金の足しにしようとパチンコをやったところ、ビギナーズラックで20万円も稼ぎ出し、でも次の日からは負け続ける。パチンコで学費を稼ぎ出し、営業に出るふりをしてはパチンコに興じていたという後輩に何故か説得されているのが可笑しい。
次女は、1日目は海女になってフグを捕まえまくって12万とか13万とか稼ぎだしたものの、何故か次の日から姉と一緒にパチンコにハマリ、全く勝てていないらしい。その海女になるため海に行くのに「別れた」筈の夫に車を出させているし、息子の武生はどうも学校でいじめられているらしいし、心配事は尽きない。
三女は、この5年付き合ってきた会社の柔道部コーチに結婚の話を持ち出したところ、「妻も子供もいることを思い出した」などと言われてしまい、目の前は真っ暗だ。それでも、実業団柔道大会で優勝し、会社から報奨金300万円をもらうんだと意気込んでいる。
誰が一番真っ当にお金のことを考えたということになるのか、微妙な感じである。
結構、重要なシーンには亡くなった母親が出てきて教えたり諭したり相談に乗ったりしているのだけれど、何故かここには出てこない。借金僧堂は三姉妹の危機ではないということなんだろう。
そうして、何だかんだありつつも、要所要所で歌と踊りが炸裂しつつも、結果として三姉妹の借金返済計画は失敗し、家は父が借金していたというオレノグラフィティ演じるヤクザの青年に取られてしまう。
でも、最後に勝負を決めるのはやっぱり柔道だ。
長女は「母親の浮気相手の娘であるあんたに憧れていた」と長女に結婚を申し込み、父親の1000万円の借金というのも「慰謝料を寄越せ」と言ったら家でも何でも好きに持って行けと言われたのだと明かすのだけれど、結局、長女に投げ飛ばされ、彼女はパチプロの後輩と上手く行きそうな雲行きである。
次女は息子が倒れたと聞いて息子の中学に乗り込み、そこで息子を虐めたという柔道部員とそのコー井を叩きのめして柔道のあるべき姿を説く。それは、父親から彼女が教わったそのままだ。
柔道大会の決勝でコーチの妻子に気を取られて負けた三女は、けじめをつけるためにとコーチを柔道で投げ飛ばそうとし、「お前のことは全て知っている」とうそぶくコーチに、実は左利きだったのだとこのとき初めて明かすことで勝負に勝つ。
父親も戻ってくるようだし、家も返してもらったし、全力疾走で大団円、である。
・・・と思ったら、長女の後輩は海外留学と称して旅に出るし、次女の夫はまた浮気しているらしいし、離婚するらしかった三女の柔道のコーチは離婚しないままでいるらしい。
そして最初のシーンに戻り、三姉妹、再びの婚活を始めました、というところで幕である。
初めて見たけれど、面白かった!
カーテンコールで並んだ出演者を見て、正直、目を疑った。こんなに少ない人数であれだけの役をこなしていたなんて驚きである。舞台裏は相当に戦場の連続早変わり状態だったんではないだろうか。本当に「こんなに少人数で演じていたの?」と驚いた。早変わりという意味だけでなく、もっと多くの役者が舞台上にいるように感じたというのは、やっぱり彼らの運動量と迫力と存在感のなせる業だろう。
ダブルコールに慣れていないもので、と挨拶をしていた菜月チョビが、「今までなかったのに」と言いつつ客演の女優2人を紹介するのに誉めあげて峯村リエに「ムッとした」と言われて慌てたり、「土曜昼にテンションが上がっているので物販に立ちます。サインします。」と宣言するのに、後ろを振り向いて「何を買っていただいてもするの?」と確認していたり、愛されキャラなんだなー、という感じがほのぼのしていてよかった。
「鹿殺し」という名前からはおよそ想像できない感じではある。名前で躊躇していて損をした、と思った。
次回公演もぜひ見たいと思った。
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