「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」に行く
2011年7月13日、国立新美術館で9月5日まで開催されている、「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」に行ってきた。
この日は夕方に時間ができたので、1時間だけというのはいかにも少ない気がしたのだけれど、出品作品数も90点弱と決して多いわけではないので、国立新美術館で開催されている「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」に行って来た。
行ってみて驚いたのは、チケット売場に行列はなく、コインロッカーも軒並み空いており、入口に行列ももちろんなく、会場に入ってから一部屋に数人というがら空き状態だったことである。
18時閉館で17時に入る人もそうは多くないのだろうけれど、それにしても平日の夕方というのは狙い目だということを学習した。
それに、これだけ空いていると自分のペースで歩けるし、気に入った絵の前で立ち止まったり、少し足早になったりということが自由にできるから、時間に余裕があっても大体90分が限界の私にとっては、実際に絵を見ていられる時間はそれほど遜色ないかもしれない。
絵はかなりゆったりと配置されている。
構成としては、「1 印象派登場まで」「2 印象派」「3 紙の上の印象派」「4 ポスト印象派以降」の4部に分かれている。
マネの絵数点が「1 印象派登場まで」にあったことに少し驚く。私の中ではバリバリの印象派の画家なのだけれど、(うろ覚えの解説によれば)マネは印象派とは少し距離を取り、サロンに出品し続けていたのだそうだ。
チケットの図柄にもなっている「鉄道」の絵は、鉄道なんか描かれていないじゃん! とツッコミを入れたくなるようなこちらを向いた女性と鉄柵の向こうを見ている後ろ姿の女の子が画面のほとんどを占める絵である。
「仮面舞踏会」という絵では、両端に配置された人物が途中でバッサリと切られていて、うまく収めていないところが肝なのだという。
音声ガイドを借りなくても、そういう解説が随所にあるのは有り難い。
やはり、一番大きなスペースが取られて華やかな印象なのは、「2 印象派」である。
4分くらいの「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」の紹介ビデオを見たのだけれど、そこでは、キュレーターの人が「アメリカ人はフランス人よりも早く印象派絵画の収集を始めた。だから、素晴らしい作品が揃っている」と誇らしげに語っていたのもなるほどと思う。
ワシントン・ナショナル・ギャラリーの常設コレクションからは最大で12点までしか貸し出さないという不文律があって、今回はそのうち9点が来ているという。
ちなみに、その9点は以下のとおりである。
エドゥアール・マネ 鉄道
フレデリック・バジール 若い女性と牡丹
クロード・モネ 揺りかご、カミーユと画家の息子ジャン
クロード・モネ 日傘の女性、モネ夫人と息子
ピエール=オーギュスト・ルノワール 踊り子
メアリー・カサット 青いひじ掛け椅子の少女
メアリー・カサット 麦わら帽子の子ども
ポール・セザンヌ 赤いチョッキの少年
ジョルジュ・スーラ オンフルールの灯台
単純な私は、ゴーギャンのエキゾチックな絵も、ゴッホの自画像も、ここには含まれないのね、何て贅沢な! と思ってしまった。
ところで、やはりこのコーナーで私が一番惹かれたのは、モネの絵がゆったりとした空間を保持して並べられた一角である。
特に「日傘の女性、モネ夫人と息子」「ベトゥイユの画家の庭」「太鼓橋」と3点並んでいるのは圧巻で、本当にそこだけ光が溢れているような感じすらあった。
絵のタイトルはモネがつけたのだろうに、どうして「モネ夫人」なんて他人行儀菜タイトルなんだろうと思うけれど、そういった疑問を吹き飛ばすくらいの明るいブルーの爽やかな絵は一際人目を引く。
ルノワールがやはり「モネ夫人とその息子」というタイトルで描いており、ルノワールの描く「モネ夫人」よりも、モネが描く「モネ夫人」の方が若く爽やかなのはご愛敬、ということにしよう。
ベルト・モリゾの「姉妹」を見て「どこかで見たことがあるような」と思ったのは気のせいだっただろうか。
クレーの絵を見た直後だったからか、「3 紙の上の印象派」も楽しかった。
クレーの絵よりも数段いい保存状態に置かれている。公式サイトを見たら、紙の作品は、作品保持のために1点につき15回までしか貸し出さない方針なのだそうだ。それほどデリケートだということだろう。
この中では、マネの「ベルト・モリゾ」が油絵で描かれたものの習作かな、でもこちらの方が柔らかくていい感じと思ったリトグラフや、同じくマネのカラーリトグラフである「道化役者」がかなり気になった。挿絵のような「道化役者」はマネっぽくない、イラストっぽい可愛い道化役者なのである。
他に「いいなぁ」と思ったのは、セザンヌの自画像(本当に優しそうな好々爺に描かれているのである)と、ドガが習作として描いたという「ディエ・モナン夫人」というパステル画である。
やっぱりドガは油絵よりもパステルよね、というイメージがあって、ここに来てやっとドガのパステルに出会えて嬉しかったのを覚えている。
最後が「4 ポスト印象派以降」である。
またまたモノを知らない私は、「ゴーギャンもゴッホもスーラも、印象派そのものじゃなくてポスト印象派って言われるんだ」などと基本的なところで感心してしまう。
やはり、スーラのほとんど病的と言えるような点描は、描かれた風景は美しいのにやっぱり怨念のようなものを感じてしまう。それともスーラ自身は自然に点描という画法を使っていたのだろうか。
そして、出口に至る最後にゴッホがやはり3枚並んで待ち受けているというのが、ゴッホ好きの日本人のツボを押さえた心憎い演出だと思う。
ブルーの背景に真っ青どころではない顔色の自画像は、入院直後に描かれたものだということで、モデルである自分自身も、画家としての自分も、その双方が病み疲れていたことの表れなんだろうなと思う。
その自画像ではなく、少し白っぽくしたエメラルドグリーンを基調にした薔薇の絵で締めくくられた。
閉館1時間前に入ったのでちょっと忙しなかったけれど、でも、のんびりじっくり見られて楽しかった。とても贅沢な気分に浸れた絵画展だった。
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