「冬物語」を見る
子供のためのシェイクスピア「冬物語」
作 ウィリアム・シェイクスピア
脚本・演出・出演 山崎清介
出演 伊沢磨紀/佐藤誓/山口雅義/戸谷昌弘
尾崎右宗/キム・テイ/谷畑聡/太宰美緒
観劇日 2011年7月17日(日曜日)午後2時開演
劇場 渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール 1階5列19番
料金 4800円
上演時間 2時間15分(15分の休憩あり)
ロビーでは、パンフレット(800円)とストラップ(値段はチェックしそびれた)などが販売されていた。
「子供のためのシェイクスピア」シリーズでは、開演15分か10分前に、出演者陣がステージに現れ、「イエローヘルメッツ」としてパフォーマンスを披露してくれる。確か、「早めに席に着いてね」という気持ちを込めて始めたとどこかで聞いたように思う。
実際に出演者の誰かが歌っていたこともあったと思うのだけれど、ここ数年は、口パクのボーカルと、バックでのダンサーズという構成が定番になっている。
本日のボーカルは(って、日替わりかどうかは知らないのだけれど)山口雅義で、曲は「ダーリング」だった。
ところで、この渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールには初めて行ったのだけれど、渋谷駅からも近く、800席弱のかなり立派なホールで、どうしてこれまで行ったことがなかったのだろうと逆に驚いた。基本としては音楽ホールのようだ。
この公演の後、翻訳の松岡和子氏を司会に迎えて、山崎清介とのアフターパフォーマンストークが30分ほど開催され、そちらの話もなかなか興味深かった。
ネタバレありの感想は以下に。
「冬物語」というこのシェイクスピア作品は、何年か前にチケットを確保したものの何かの事情があって(すでに忘れている)結局見られなかったらしい。なので、初観劇であるし、ストーリーも全く知らないままで見た。
アフターパフォーマンストークでも話題に出ていたけれど、今回はオープニングがいつもと違っていた。
といっても、いつもはさてどう始まっていたのかと聞かれると答えられなかったりする。出演者陣が黄色いヘルメットと黒いコートを着込み、逆三角形の行列を組んで、クラッピングしながら舞台上にやってくる、というのがいつもだったのではないだろうか。
それが、今回は、真っ暗になった舞台に出演者陣が陣取り、そのまま真っ暗な中でクラッピングが始まる。舞台奥中央に縦に一筋、明かりが漏れて来る亀裂があって、もうそれだけで不穏な空気満載だ。
冬物語って名前のとおり、暗く冷たく寒い悲劇だったのか? と思わせる。
しかも、これまたアフターパフォーマンストークで言われていたのだけれど、今回のシェイクスピア人形の役どころは「時」である。
不穏極まりないないではないか。
佐藤誓演じるシチリア王は、伊沢磨紀演じる友人のボヘミア王が9ヶ月に渡って滞在するのを喜んでいたけれど、理由は不明ながらキム・テイ演じる王妃ハーマイオニとボヘミア王が不義を働いていると思い込み(ここがどうしてなのか、展開が早すぎて唐突にすら思える)、山口雅義演じる部下のカミローにボヘミア王の毒殺を命じる。
とにかく、幕が開いたが最後、怒濤の展開である。一昔前のジェットコースタードラマなど目ではない。
そういえば、劇中にイエローヘルメッツの工事現場休憩シーンがなかったのも、この怒濤の展開ではとてもその時間のをひねり出すことが出来なかったからだろうか。
とにかく、カミロー始め臣下の誰もが王妃に心酔していて不義など濡れ衣だとみな知っているのだけれど、シチリア王の嫉妬心は際限がなく、何一つ証拠もないのに「私の心の目が見た!」と言い張るのだから始末が悪い。言い張るだけならまだいいのだけれど、権力を持っているから厄介である。
カミローは、それでもかなり勇気を振り絞ってボヘミア王に真実を告げ、彼を逃がすとともに、自分もボヘミアに逃れることにする。ある意味、賢明な選択である。
一方、カミローの逃亡は王妃の立場をより悪化させ、シチリア王は自らの邪推にますます自信を深めて王妃を牢獄に入れてしまう。
伊沢磨紀演じるポーリーナが連れて来た、獄中で王妃が産んだ王女は自分の子ではないと言い張って戸谷昌弘演じるアンティゴナスに国外に捨ててくるよう命じる。
わざわざ部下を派遣してデルフィまでアポロンの神託を受けに行かせたのに、その神託で王妃の無実を告げられても全く信じようとしない。
それにしても、佐藤誓はどうしてこう、こういう嫉妬に駆られた役にハマるのだろう。オセローもはまり役だったよなー、と思う。
そんなことを思っているうちに、あれよあれよという間に、王子が母である王妃を心配して亡くなってしまい、その事実を聞いた王妃までもがその場で儚くなり、シチリア王はあっという間に家族を全て失ってしまう。
望みは産まれたばかりの王女だけなのだけれど、国外に捨てさせてしまったし、しかも、アポロンの神託では彼女の消息がわからない限り王は世継ぎに恵まれないと言われていたのだ。
ここで、シチリア王が反省し、王妃への誤解を解くのもあっという間である。もう少し逡巡してもらいたい、などと思ってしまう。
一方、王妃が亡くなる直前にアンティゴナスの夢枕に立ち、王女パーディタはボヘミアに捨てるよう言い、かつアンティゴナスは二度と妻であるポーリーナに会えないだろうと預言する。
そのとおり、ボヘミアの荒野に捨てられて熊に襲われたパーディタは谷畑聡演じる羊飼いに救われるけれど、アンティゴナスは命を落とす。
ちなみに、この熊は熊手を手に嵌めた伊沢磨紀を出演者陣で掲げるようにして表現していて、アフターパフォーマンストークでの山崎清介曰く「今のお子さんは熊手なんて知らないかもしれないけれど」だそうだ。なるほど、そうかも知れない。私も、芝居を見ているときは「あはは、熊が熊手を嵌めているよ」とは思わなかった。
そして、この熊を舞台前方からの明かりで照らし、背後の壁にさらに大きく熊の影絵を映し出しているのだけれど、その光源をは山崎清介が持っていたと聞いて驚いた。
そういえば、今回の山崎清介は黒いコートを脱ぐことはほとんどなかったし(多分、出産した王妃を手助けした医者として現れたときだけ、コートを脱いでいたのではなかろうか)、他の役者さんたちも黒いコートを着たままで演じていることが多かったような気がする。
元々、人ではなく声(噂というか)を演じているときは黒いコートを着ていることが多かったように思うのだけれど、今回の舞台でははっきりと役名がある(ありそうな)役を演じているときでも黒いコートのままのことが多くて、やはりこれも「怒濤の展開」に間に合わせるためなんじゃないかという感じがした。
そして、休憩後の後半、シェイクスピア人形演じる「時」が現れて、「16年後だと思ってください」と告げる。
そこはボヘミアで、羊飼いに助けられた太宰美緒演じる王女パーディタは、もちろん自分が王女だなどということは知らず、でももちろん美しい少女に成長している。
そして、一体どこでどうやって知り合ったのだとツッコみたいところだけれど、尾崎右宗演じるボヘミア王の王子と恋をしている。
この後も前半に負けず劣らずの怒濤の展開で、そこに緩急を付けるのは、佐藤誓演じるオートリカスとキム・テイ演じるその相棒である。この2人、要するにスリ兼詐欺師のような人々で、パーディタを育てた羊飼いから財布をスリ、ガラクタを羊飼い親子の家に持ち込んで高値で売りつける。やりたい放題なのだ。
王子が羊飼いの家に入り浸っていることを知ったボヘミア王は、今や腹心となっていたカミローがシチリアに戻りたいと言うのを引き留め、一緒に羊飼いの家に行ってくれるようにと頼む。前半ではなかなかの人格者に見えたこの王も、後半になると結構ワガママ者である。
それはともかく、変装して羊飼いの家に出向いた2人は歓迎されるけれど、王子が「親が死んだら莫大な財産が自分のものになる」などと王子がうっかり口を滑らしたせいで王の機嫌は覿面に悪くなり、「こんな結婚は認めない」と言い放つ。
ここでまたも活躍するのがカミローで、王子たちにシチリアに逃れて王の使者としてシチリア王に面会するよう知恵を授け、ボヘミア王にそのことを告げて自分も一緒にシチリアに帰ろうと画策する。
カミローっていい奴なのか悪い奴なのか、よく判らない展開である。
王子たちは丁度そこに居合わせた(?)オートリカス達と服を交換して変装し、シチリアへ向かう船に乗り込む。
そのドタバタで事情をある程度察したオートリカス達は、王にパーディタの素性を知らせようと出発した羊飼い親子を引き留め、散々に脅し、自分が王子に取り次いでやろうとお金を巻き上げてしまう。
さて、舞台はシチリアに戻り、王子たちが王女パーディタの身分を偽ってシチリア王に面会しているところに、ボヘミア王一行が追いつく。
早すぎるだろうと思うけれども仕方がない。
この後はもう怒濤の展開過ぎて話の順序を覚えていないのだけれど、羊飼いの親子は何故かボヘミア王と会えたらしく、ボヘミア王から(だったかどうか、ほとんど記憶がない)王女パーディタの素性を知らされ、ボヘミア王子とシチリア王女の結婚は無事に認められる。
その後、これまたどういうきっかけだったか覚えていないのだけれど、ポーリーナの家に王妃ハーマイオニの彫像が創られているという話になったようで、シチリア王、ボヘミア王子、シチリア王女の3人が出向く。ここにボヘミア王が出てこないのは、伊沢磨紀がポーリーナと二役をやっているためだから、仕方がない。
キム・テイ演じる「彫像」は、もちろん本物そっくりである。シチリア王がこっそり「こんなに皺はなかった」とか呟いていたけれど、それは当然のように無視される。
シチリア王も王女パーディタも触れようとするけれど、もの凄い勢いでポーリーナが止める。
彫像を役者が演じている段階で想像が付くわけだけれど、王妃は死んではおらず、ポーリーナに匿われていて、理由はよく判らないながらとりあえず彫像として皆の前に姿を現したらしい。
だから、それは必要ない演出だから! と突っ込む人間は誰もいない。
そうして、シェイクスピア人形が「希代の彫刻家、ジョルジョ・ロマーノ」として現れるなどという演出までしてシチリア王らを騙そうとしていたのに、割とあっさりと王妃は彫像ではなく生きていたのだということが明らかになる。
王妃が動きはしたもののなかなかしゃべろうとしなかったので、ショックのあまり口がきけなくなってしまったのかと思ったのだけれど、そういうことではなかったらしい。王妃の口から「ポーリーナから、アポロンの神託で王女が生きているらしいと聞かされて、生きようと思った」と経緯が語られる。
いや、ポーリーナに聞くまでもなく、アポロンの神託は王妃もその場でみなと一緒に聞いていたよね、と突っ込みたかったけれど、やはり登場人物は誰も突っ込もうとしない。
シチリア王が、カミローに「ポーリーナと結婚するように」と言うのも、みんなが幸せになったから、ちょうどそこにいる独り者同士もくっつけておこう、みたいないい加減さが感じられる。
王女パーディタが見つかったから、この後、シチリア王には世継ぎが産まれるということなのか、アポロンの神託にもちょっと物申したい気分である。
でも、シェイクスピアだから大団円だ。
「冬物語」はハッピーエンドの物語らしい。
思い返すと突っ込みどころ満載の物語なのだけれど、ジェットコースタードラマ顔負けの怒濤の展開で、先が読めるような読めないような、不思議に面白い舞台だった。
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