もう1ヶ月以上前のことになるのだけれど、高校時代の友人に声をかけてもらって、東京都埋蔵物文化センターで開催された、古代糸作り教室に行って来た。
9時30分開始で、参加者は14〜15名くらい。全員が女性である。
まずは簡単な講義から始まった。
例えば、以下のような感じである。
・6000年前の縄文前期の貝塚である鳥浜貝塚から布の断片が発見されていること(高温多湿の日本でよく残っていたものである)
・縄文時代の布は、織っているのではなく「編布(あんぎん)」と呼ばれる編まれた布であったこと
・縄文時代の布の繊維は植物の繊維であったこと
・明治時代に教科書として使われていたらしい「教草」という本には繊維を取るための草木が16種類載せられていたこと
・「教草」に書かれている植物のうち、特定できている植物は「大麻」「カラムシ」「アカソ」「イラクサ」「バショウ」「クズ」「コウゾ」「ムクゲ」「シナノキ」などであること
・福島県の昭和村という施設では、カラムシを会う買って糸作りを行っていること
また、本日のメニューも紹介された。
1 隣にある「縄文の村」でカラムシを収穫する
2 アカソを叩いて繊維を取り出す
3 カラムシから「おびき」という方法で繊維を取り出す
4 取り出した繊維をよって糸を作る
5 作った糸でストラップを作る
というわけで、まずはカラムシの収穫に向かう。
縄文の村では、カラムシの野生種と栽培種の両方を植えてあるのだけれど、隣同士で育てた結果、交配してしまったらしい。
それでも一応、野生種の特徴は葉っぱのウラが銀色で枝と枝の間が狭いこと、栽培種の特徴は葉っぱのウラが緑色で枝と枝の間が広いこと(その方が長い繊維が取りやすい)だそうだ。
一人1本ずつ、高く育って、でも茎が太すぎないもの(太いものは固くてこの後の作業が大変になるらしい)を選んで根本から切って収穫した。
ちなみに、カラムシは結構その辺に生えているらしい。街路樹の根元などにあったりするというから驚きである。
葉っぱは桑とかあじさいとかに似ている。
あじさいと言えば、あじさいの茎は、火おこし体験をするときに非常に火をおこしやすい木なのだそうだ。空洞になっていて摩擦が起きやすいから、という説明だった、ような気がする。
センターで糸作り教室の他に火おこしの教室なども開催していて、担当の方は15秒くらいであっという間に火をおこしてしまうらしい。
収穫したカラムシはいちど置いて来て、次はアカソから繊維を取り出す作業である。
これが非常に地味な作業で、ひたすら叩く。ただ、それだけだ。
というわけで、外に出て駐車場にそれぞれ陣取り、切り株か石を台にしてひたすら叩くという作業に没頭する。
結構、音が響く。最初(4年前だそうだ)にこの教室を企画したときには、すぐそこに見えるマンションまで行ってどれくらい音が響くか、うるさくないか、確認したのだそうだ。
女性ばかり14〜15人がしゃがみ込み、木槌などを持って無言で一心不乱に何かを叩いている。傍から見たらかなり異様な光景だろうなと思う。
実際にそう言ってみたら、センターの方に「小田急線からは見えないんですけど、京王線の電車からは見えるんですよね」と言われた。なるほど、確かに。
木槌の方が作業しやすいのだけれど、せっかくなので、途中で縄文時代に使われていた(らしい)砧打ちの道具を使って作業してみる。
重い。
確か、樫の木だと教えてもらったような気がするけれど、違ったかも知れない。
しばらくこれで作業したけれど、狙ったところに打つのが意外と難しく、また重さで筋が変に引っ張られるような感じがしてきたので、10分くらいで元の木槌に戻してしまった。
それにしても、最初に繊維が取れる植物を発見し、叩いたら繊維を取り出すことが出来るということを発見した人は偉すぎる。
きっと、偶然やってみたらそうなった、とか、最初のきっかけはそういう感じだと思うのだけれど、やっぱり凄いと思うのだった。
30分くらい没頭したところで「そろそろカラムシをやります」という声がかかった。
この時点で、早い人はほぼ1本分を叩き終えていたけれど、私は20cmくらいしか進んでいなかった。どうも作業がトロイようだ。
カラムシから繊維を取り出す方法は、「叩く」よりも若干、技術が必要だった。
1 カラムシは、収穫したて(というのも変な言い方だけれど)ならそのまま、時間がたっている場合は水に浸けて扱いやすくしておく。
カラムシの根本に近い方をZの形に思い切って折る。
そうすると、カラムシの外皮が浮く。
使うのは内側の芯の部分ではなく、この外皮の部分である。
2 浮いた外皮と芯の間に指を入れ、そのまますーっと引いて外皮を剥がす。
ここで節に当たると引っかかって切れやすい。だから作業のしやすさと確保するために栽培種では節と節の間が広くなるように改良したのだとしみじみと納得した。
なかなか、太く長く採ることができず、ブチッと切れてしまったりする。
3 このケーキやパンを作るときに使う道具は何という名前だったかその場では思い出せなかったのだけれど、今調べたところでは「スケッパー」である。
カラムシの外皮を水にくぐらせてかなりたっぷりと湿らせた上で、このスケッパーを滑らせ、外皮の外側の部分を削り落とす。
そうすると、内側の繊維の部分だけが残るのだ。
このとき、重要なのはスケッパーの角度のようだ。
うっかり力の入れ加減や角度を間違えると、ブチッと繊維そのものも切断してしまう。
この外皮のさらに一番外側の部分を剥がす方法として、もう一つ、スケッパーでしごく(といえばいいのか・・・)方法がある。
カラムシの外側を外にして、スケッパーの先端でしごいて行くと、ブチっと音がして外皮が割れて浮いてくる、ことがある。
こうやって浮いてしまえば、あとはスケッパーにそのまま滑らせて行くことで、外皮を剥がすことができる。
こちらの方ができあがりは綺麗な気がするけれど、確実性に欠けるのが難点である。
お昼までの時間をこの「繊維を取り出す」練習に費やしたのだけれど、これが結構難しい。
最初のうちは、そもそも「繊維だけ」になった状態がピンと来なくて、私が作っていた「繊維」は相当に不純物が混じっていたらしい。
お昼は「ここで食べても構いません」ということだったので、友人とそそくさとおにぎりを食べ、とっとと練習に戻って「そろそろ本番に行きます」という午後の再開宣言が出る頃になってやっと、どういう状態を目指していたのか判る、という体たらくだった。
というわけで、午後一番から、さっき収穫してきたカラムシでの本番である。
これが、やりやすい。
練習に使ったカラムシは、昨日、センターの方があちこちで収穫してきてくださったものらしいのだけれど、1日たったものと朝取ったものとでこんなに違いがあるのかと思うくらいだ。
さっきまでの私が嘘のように順調に作業できる。大袈裟に言うと、鼻歌を歌いたいくらいのものである。
こうして、練習分も含めて取り出した繊維を物干し竿にかけて乾燥させる。
乾燥させている間、午前中にやった「アカソを叩いて繊維を取り出す」作業の続きである。
今日が比較的涼しくて良かった、雨が降らなくて良かった(作業スペースに十分なくらいの大きな屋根が付けられているのだけれど、風があったりしたらやはり相当に作業しにくいだろうと思う)と重いながら、とにかくひたすら叩く。
何とか1本分を叩き終わって繊維を取り出せた頃、まだちょっと湿っぽかったのだけれど、次の工程に入ることになった。
4 センターの方には「今日は、繊維取り出し教室じゃありませんから。糸作り教室ですから。地味な作業ですが、今やっていることが糸作りですから」などと励まされる。
とは言うものの、作業としては、要するにひたすら「よる」だけである。親指と人差し指で取り出した繊維を挟み、ひたすらより合わせる。
「こよりを作る要領で」と説明され、そういえば外国人にとって「こよりを作る」というのは非常に難しいと聞いたことがあるなぁ、などと思う。
繊維に水分が残っているせいもあるのか、なかなか上手く行かない。
糸紡ぎのコマ(正式名称を忘れてしまった)があるのを発見し、「あれは使えないんですか?」と聞いてみたところ、コマは弥生時代に入って稲作と同時に大陸から入って来た文化の一つであって、この「古代糸作り」は縄文時代の再現であるので、「使えない訳ではありませんが、反則です」ということだった。
私はこのコマを使える訳では全くないのだけれど、声をかけてくれた友人は染織をやっていて、羊毛をこのコマを使って紡ぐなどお茶の子なのだ。
この一番左の少々荒っぽい糸がアカソの繊維をよったもの、右の2つはカラムシの繊維をよったものである。
技術的には「叩く」というのが(強く叩きすぎて繊維を断ち切ってしまわないように注意さえすれば)難しくなくていいのだけれど、作業効率としてはカラムシのやり方の方がずっといい。
そうしてできあがった糸でストラップを編む。
この辺りまで来ると、手芸の世界に入って来て、リラックスしてくる。
糸作りの辺りまでは、何だか妙な集中状態にあって、身体に力が入っていたような気がするのである。
何はともあれ、16時前にストラップが完成したのだった。
面白かった!
声をかけてくれた友人に感謝である。布作り教室にも行きたいけれど、夏休み期間中は親子教室がメインになるようで、秋口まで待つことになる。
ちなみに、糸作り教室は定員に余裕があったようだけれど、勾玉作りは抽選になることが多いのだそうだ。
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