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2011.08.14

「かみさまの匂い」を見る

東京マハロ第8回公演「かみさまの匂い」
作・演出 矢島弘一
出演者 武藤晃子/曽世海司(Studio Life)/八代進一(花組芝居)
 岡田さつき(演劇集団キャラメルボックス)/勝平ともこ
    岩渕敏司(くろいぬパレード)/田口治/矢島弘一/藤井びん
観劇日 2011年8月13日(土曜日)午後2時開演
劇場 下北沢駅前劇場 D列6番
料金 4000円
上演時間 1時間50分

 ロビーでパンフレットが販売されていたけれど、値段をチェックしそびれた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 東京マハロの公式Webサイトはこちら。

 駅前劇場の客席はかなりフラットで、芝居が始まる前に席に着いたら「うーん、低いところでお芝居がされたら見えないかも」というくらいに、前の席の人の頭が気になった。
 実際、芝居が始まってしまえばあまり気にならなかったのだけれど、それは「見えるところでお芝居がされていた」ということではなく、やっぱり、少し高めに作られた和室で畳に座ってのシーンがあるとよく見えないことも多かった。何だかちょっと悔しい気分である。

 チラシには武藤晃子と曽世海司の2人の写真が使われていたので、この2人が夫婦という設定なのかと思ったら、いきなり始まった「お通夜後」らしいシーンに、武藤晃子と八代進一が兄妹の役で出てきて、いきなり混乱した。
 少し見ていれば、元々がそういう構造のお芝居で、最初に「結果」のシーンを見せて、「こういう結果になったのは実はこういう経過だったのです」ということなのだと判る。
 兄妹のこの2人が「私たちは悪いことはしていないけれど、私たちの存在自体を憎んでいたんじゃないか」みたいな会話をしているのだから、それは謎に決まっているし、色々と想像をたくましくしてしまうというものだ。
 上手い掴みである。

 暗転後、多分それほど遠くない過去に時は遡る。
 藤井びん演じる父親は目が不自由のようだ。そして、古本屋の店番をしている。
 古本屋の事務所では、曽世海司演じる長男が、東日本大震災の被災地に本を送るというボランティア活動を行おうと準備をしている。
 そこに岡田さつき演じる長男の嫁が帰ってきて、ボランティアの話を聞き、漫画家でもある夫にやんわりと「他にやることがあるんじゃないか」と言ってみる。しかし、どうもこの長男は言外の意味とか空気とかを読むタイプではなさそうだ。
 勝平ともこ演じる次男の嫁がやってきて、どうやら彼女は長男のボランティア活動に協力しているらしい。そして、かつ、この次男の嫁は、自分の夫の兄の子供を妊娠しているようだ。そこまで知っているのかどうかはともかく、武藤晃子演じる妹は、彼女に「あまり派手なことはするな」と釘を刺す。

 いきなり、シビアな人間関係である。
 優柔不断の塊みたいな長男の治一郎と、とにかく積極的かつ「お姉さんと上手くやって」みたいなことを平気で言ってしまう次男の嫁の桜子という組み合わせだったら、これは、桜子の方が押したんだろうな、ということは一目瞭然で、かつ綻びを見せるのは冶一郎の方だろうなということも一目瞭然である。
 そのあまりにも不安定かつ壊れることがありありとしている雰囲気に気を取られて、田口治演じる俊介が何者なのか、判らないまま最後まで見てしまった。長男の治一郎と一緒にボランティア活動を熱心に行おうとしているらしいし、多分、近所に住んでいるのだろうな、ということが判っただけである。

 日常の感じで回っている家族で、長男夫婦が同居して、妹や弟に「ダメダメじゃん!」と思われている長男だけれど、彼が声をかければ皆イヤイヤながらも集まってくる。
 何というか、「ありふれた幸せ」という言葉が似合いそうな一家なのに、中はドロドロのボロボロというのが、緊張感をより高める気がする。
 思わず集中して、見ているときに芝居のことというか、「この先、この一家はどうなるんだろう」とそのことばかり考えながら見てしまった。

 いや、一つだけ時々考えていたのは、この一家の配役は年齢通りなんだろうか、ということである。
 我ながらどうでもいいことなのだけれど、俳優さんの年齢も、上から曽世海司、岡田さつき、八代進一、勝平ともこ、岩渕敏司、武藤晃子という順番なのかな、何だか違う気がするよ、とついつい考えてしまった。
 実際のところはどうなんだろう?

 末っ子のまちこに父親が「目が見えるようになるかも知れない」と100万円の借金を申し込んだところで、かなりドキドキしてしまう。いや、いきなり治療方針も何もなくて100万円はないだろう、それって霊感商法とかに騙されてるんじゃないの? まちこも、ほいほい100万円を貸すんじゃなくて(もっとも、そのお金は官能小説家である彼女が賞を取ったその副賞らしいのだけれど)一緒に病院に行くとかしようよ、と思ってしまった。
 でも、そうドキドキしてしまったけれど、悲劇の種はここにあったのではない。

 被災地に集まった本を届けに行った冶一郎は、ますますボランティアにのめり込もうとする。
 冶一郎の子供を産もうと決めていた(そして、恐らくは冶一郎もそのことに反対していなかったに違いない)桜子は、冶一郎に「麻美とは別れない」と言われ、お金を渡されて、茫然自失である。
 いずれにしても、冶一郎が自分の意思で何かを決めるとは思っていなかったんだろう。
 しかも、その理由が「ボランティアに全力を尽くしたいから、今、離婚話を持ち出してごたごたしたくない」というのだから、ホント、弟妹が口を極めてこき下ろす気持ちがよく判る、とんでもない奴である。
 いや、この人、弾劾されて当然だから、と思う。

 どう考えても出発点はコイツが酷いのだけれど、桜子が「子供ができた」と麻美に告げたところから、一気に悪役は桜子が引き受ける形になる。
 その前の弟妹の会話から伝わって来るのだけれど、麻美は若い頃に流産した経験があるらしい。その彼女に「子供ができた」というのは、心ないにもほどがある発言だ。でも、冷静に考えると、それを言わせた冶一郎の方がよっぽど酷いのだけれど、気が弱そうな外見と物腰を見ていると、悪い奴だと思えなくなりそうなのが困る。
 この辺の気が弱くて優柔不断で酷いことをしていると判っていない、一見善良そうな男というのは、曽世海司の持つキャラなんだろうか。

 桜子から告げられた麻美は、ほとんど動物のような悲鳴を上げ、桜子を突き飛ばして錯乱状態のようになりつつ、岩渕敏司演じるまちこの夫に外に連れて行かれる。
 兄弟3人が残って、この期に及んで「どうしたらいい?」と聞く冶一郎に腹が立つ。
 やはり冶一郎が100万円物お金を用意できる訳がない、父親に借りたと聞いて、さらにまちことしては絶望的な気持ちになったようだ。「あのお金は・・・」と言ってそれきりだったけれど、100万円は本当に治療のためのお金で、でも、まちこから借りた後で冶一郎に借金を申し込まれた父親は、治療には使わずにそのお金をそっくり冶一郎に渡した、ということらしい。
 霊感商法ではなかったか・・・。
 霊感商法なんじゃないかと思ったのは、私が穿ち過ぎなのか、それともそういう誤解を狙ったのか、ぜひ聞いてみたいところである。

 元々がポンポン言う性格のまちこに比べ、自分の妻を兄が妊娠させた、という立場の弟はほとんど口を利こうとしない。
 牛乳瓶の蓋で空飛ぶアトムを作ると宣言して本当に作ってしまう男の沈黙は恐ろしい。実際、まちこが麻美を自分の家に連れて行くと宣言して出て行った後、男2人になった和夫は、まあ、色々と言ったわけだけれど、何よりも最後に「初めて俺のお古を使ったな」と言った一言が恐ろしかった。
 コワイ。
 妻をモノのように見て言っているというところが怖い。この人どういう人なんだろう。
 そして、こういう酷薄な役がハマってしまう八代進一が、イヤな奴の役をやっている(いや、でも、この場合はこれくらい言ってもいいのか?)のに格好いいから困る。花組芝居では女性の役が多いと思うのだけれど、まっとうに男役をやっているときの格好良さが本当に困ってしまう。

 私が困っていても話はさくさくと進み、冶一郎一人が残った古本屋の事務所に、桜子が帰ってきて、「荷物をまとめてくるから、一緒に遠くに行こう。」と言って再び出て行く。元々が、被災地に本を届けようという行動も、冶一郎が始めたことではなく、桜子が言ったことだったらしい。
 その桜子の言うとおりにしておいて、「賛成してくれたのは桜子だけだった。桜子は優しい」と言う冶一郎は、限りなく桜子に騙されていると思う。
 ・・・と、何故か冶一郎は悪い奴ではないんじゃないかと思わせるところがポイントだ。
 そして、桜子を追って冶一郎が出て行って、暗転。

 最初のシーンに戻る。
 弟妹でお酒を飲んでいるところに、麻美が帰ってくる。
 いや、何故この弟妹の「存在自体」が憎まれているんじゃないかという発想になるのか私には判らない。
 判らないといえば、結局、誰が亡くなったのだろう。

 冶一郎が亡くなったのは判る。
 で、桜子は? と思ったのは私だけなんだろうか。
 まちこが和夫に「どっちが悲しい?」の「どっち」は、冶一郎の死と何を比べているんだ?
 私は、てっきり冶一郎と桜子の2人が亡くなったのだと思って見ていた。それで、特に、登場人物達の発言との矛盾は生じていなかったと思う。

 でも、父親が「冶一郎の匂いがする」と言い、そこへ桜子が姿を現したときに、謎と疑問が一気に膨れあがった。
 桜子は喪服ではない。
 でも、幽霊っぽい登場でも服でもない。
 父親が「冶一郎の匂いがする」と言ったのは、多分、冶一郎の子供である桜子のお腹の中の赤ちゃんを指していたのだと思う。
 ということは、桜子は生きていたのか?

 最後の最後に、これは酷いじゃないか!
 キッパリと判るように終わってくれないと、気になって仕方がない。
 それとも、迷っている私の方がマヌケで、諦かで判りやすい結末だったんだろうか。

 「かみさまの匂い」というタイトルとちらしの感じから想像していたよりも、ずっとハードでビターな物語だった。でも、見てよかったと思う。
 ただ、しつこいようだけれど、最後の部分はどう考えるべきなのか、やっぱり私には判らないのだった。

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