「国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス」展に行く
昨日(2011年9月12日)、2011年7月14日から9月25日まで、東京都庭園美術館で開催されている「国立エルミタージュ美術館所蔵 皇帝の愛したガラス」展に行って来た。
美術展の入口には主催者らの挨拶のプレートがかかっているものだけれど、そこに「東日本大震災後、初めてエルミタージュから日本に貸し出す美術展です」という趣旨のことが書かれていて、なるほど、そうなるのか、と思った。
月曜の夕方に行ったためか、会期末も近いのにがらんとしていたことに驚いた。
展覧会の構成としては、まず、「ルネサンスからバロックの時代へ」から始まり、「ヨーロッパ諸国の華麗なる競演」「ロマノフ王朝の威光」と続く。
なのだけれど、正直に言うと、どの作品がどこで作られていつ頃のものなのか、あまり(というよりも全く)意識せず、特に後半は早足で見てしまったので、感想はぽつぽつと断片的にしか覚えていない。
例えば、展覧会の始めの頃に飾られていた作品の印象は、「傾いでいる」に尽きる。
吹きガラスを習っていたことがあるという職場の人と一緒に行ったのだけれど、「これだけ大きくて思いと吹くのも大変だし」と言うのだけれど、いわゆる一級品が集められているのだろうに、パッと見て判るくらい傾いでいるというのはどうなんだろう、と思う。
問題なくそのグラスから飲むことはできたと思うけれど、「気持ちよく」飲めたかどうかは微妙なんじゃないかと思った。
ガラスの中に白い線を入れて幾何学模様を描き出したお皿とグラスが、「正統派のガラス」という感じでよかった。
また、きれいに発色した赤いガラスを金細工で飾ったグラスやデキャンタ(のようなもの)もあって、何て贅沢なんでしょう、と見ほれてしまった。
確か、ガラスで赤を発色させるのはとても大変で、ずーっとそれが試みられてきていて、最終的にガラスの材料に金を混ぜることできれいな赤を出したという話をどこかで聞いた記憶があって、だとすると、赤いガラスに金の装飾ってダブルで金を使っていることになる。
かなりの贅沢品だ。だからこそ、美術館に納められもしているのだろう。
不透明なガラスももちろんあって、そうなると私などには磁器との見た目の違いが全く判らない。「これは磁器の**だよ」と言われたら、多分、すぐ信じると思う。そもそも、中国から入ってきた磁器が流行っていた頃に、それに似せて作ったのが始まりのようである。
ガラスといえば透明という気がするけれど、そもそも「ガラス」をガラスたらしめている特長というのは何なんだろうか。「ガラスは焼かないよね」「でも溶かすよね」などと言い合う。
ガラスがテーマなので、食器や花瓶、水筒(きっと持ち運びが大変だったに違いない)などいわゆる生活用品が多かったのだけれど、その中で、タイル画とビーズ刺繍はひときわ異彩を放っていた。
3mm角くらいの破片を張り合わせて描かれた絵は、普通に筆で描かれた絵と比べても遜色ない。少し(1mくらい)離れて見れば、それはタイルがというよりも「絵」であって、色の薄いところではタイルの輪郭が多少目立つものの、色々な破片を組み合わせて変化を出した部分など、全く「モザイク」らしくない。
思わず「執念を感じる」と言ってしまった。
さらに細かかったのは、ガラスビーズでバッグに絵を描いたもので、これまた執念を感じさせるできばえだった。
執念とは別に私が欲しいなと思ったのは、階段を上がった2階の正面にあったシャンデリアとウォールライトだ。その他、アフタヌーンティーに使いたくなるようなトレイのセットと、奥の壁にどんとさりげなく掛けられた鏡とが、どちらかというと照明のライトを浴びてきらきらとしていたのに対して、シャンデリアとウォールライトは、つや消しの金と曇りガラスで構成され、ガラスで作られた蓮の花があちこち花びらが欠けていたのは残念だったけれど、でも、やっぱり豪華だ。
シャンデリアを飾るのは無理けどウォールライトなら、でもうちの壁にこれだけ大きなウォールライトを飾る余地があったろうか、としばし真剣に検討してしまった。
8つある展示室の5つ目か6つ目を見ている頃、係の人に「まだこの先にも素晴らしい作品があるので急いで」と言われる。閉館時間が迫っていたらしい。
慌てて先を急ぐと、ガレの作品など「見慣れた」「ポーラ美術館っぽい」感じの作品と出会うことができた。
この展覧会に出ている作品はどれも一点もので、当時の技術の粋が集められていると思うのだけれど、やはりガレらの時代になってくると、何というか、精度が格段に上がっている感じがする。
傾いだりしていないし、例えば模様を浮かせたり彫ったりするにも手抜きがなく、揃っている。やっぱり、うちに一つもらうとしたらこの辺りの作品か? と再びしばし真剣に検討した。
私は友人からチケットをいただいていたので(感謝!)利用しなかったけれど、この展覧会については、人(顔でも可)をモチーフにした服を着ていたりアクセサリをつけて行くと100円引きになる。ご一緒した方は、ゴルフをしている人の形のブローチをして見事割引をモノにしていた。
それは、今回の出品作品に人物を描いている(彫られていたりもする)ものが多いかららしい。確かに、東洋風の人々がたくさん描かれていたり、狩猟シーンを描いた花瓶なども色々あったし、皇帝への敬意を表してということなのか、為政者の肖像を浮き彫りにした花瓶もあった。2つあったのだけれど、説明にいずれも「コインの肖像を参考にした」と書かれていて、実際にデザインしたり作業したりしている人が見られる「顔」は、それくらいしかなかったのかしらと思ったりした。
ガラスということだと、出品作品ではなく、庭園美術館の照明等々もアール・デコのガラスで興味深い。
こちらは、流石に皇帝が使っていたようなものよりはシンプルで、でも逆に飽きの来ない感じだ。すりガラスが基本で、落ち着いた雰囲気を醸し出している。その対比もなかなかに面白かった。
後半では、ちょっと懐かしい感じすらしたガレの作品も登場する。
やけにリアルな蛙が大きく表現されていて、「犬」とされているグリーンの透明ガラスの置物(花瓶などに描かれていたり装飾としてつけられているのではなく、動物の形をした置物はこれくらいしかなかったので目立った)が、どうみても蛙だったこともあって、何だかしげしげと見てしまった。
天使のモチーフもあったし、ライオンの顔だけモチーフとして付けられているものもある。幸運のしるしとして蛇が花瓶の持ち手になっていたこともあったし、狩猟シーンが描かれていたので猟犬や獲物になった兎や鹿などの登場頻度も高い。
あまり抽象化というかデザイン化はされていないので、グロテスクといえばグロテスクに見える。
1時間半では時間が足りなかった。
もう少し早めに行って、もっとゆっくりじっくり見たかった。
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