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「身毒丸」
作 寺山修司/岸田理生
演出 蜷川幸雄
出演 大竹しのぶ/矢野聖人(新人)/蘭妖子
石井愃一/六平直政/他
観劇日 2011年9月3日(土曜日)午後1時開演
劇場 天王洲 銀河劇場 2階B列28番
料金 9500円
上演時間 1時間40分
ロビーでは、パンフレット(1500円、だったと思う)や、これまでの「身毒丸」公演のDVDなどが販売されていた。
それにしても、天王洲 銀河劇場は、毎回必ず開場時間からしばらくたっても入場する人の行列ができているような気がする。劇場の構造上仕方がないのか、それとも客入れの手際がよくないのか、場内の混雑緩和のためにあえてゆっくり客入れしているのか、謎である。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台上、幕が開いていて、「身」「毒」「丸」と赤い電光で書かれた黒い板が吊されている。
幕開けが、キャットウォークの手すりにハンダごてを当てているのか、工事現場のようにガガガガガという音をたてながら火の粉を散らす4人の男、その火花は舞台上に落ちて行く、というのは、恐らく前回の公演と同じ演出だったと思う。
何となく見覚えがあって、懐かしいような、全く違う始まりを見たかったような、複雑な気持ちだった。
そして、敢えて言うと「異形の」人々が暗い舞台上に現れ、「異界な」空気を一気に作り出す。
蜷川幸雄演出で割とよく見るオープニングだと思うのだけれど、毎回、ちょっと迷うような気持ちになるのが不思議である。
「身毒丸」というこのお芝居は、私の中では「お母さん」として買われた継母と産みの母を慕って探す「身毒丸」との親子の物語だと思っていたのだけれど、今回見た印象は少し違っていた。
お芝居の筋についての記憶を勝手に自分が改変してしまっていたのか、それとも出演者が変わったからか、受け取る私の側に何らか違いがあったのか、とにかく「撫子(継母)がこんなに女だったのか」という驚きが強かった。
話の筋から考えたらそれは撫子は「女」なのだけれど、うっすらと残っていた印象では、私の中ではあくまでも「母と子」の物語だったのだ。それが、まず、撫子が「お父さん」との関係でも「女」の部分を印象づけていたことにまず驚いた。
それが、大竹しのぶが撫子を演じることで際立ったところのような気がする。
身毒丸を演じた矢野聖人は、何というか最初から「少年」ではない感じがする。
旅の一座でお母さんを買うと決めた六平直政演じるお父さんに連れられて来て、お父さんが指し示す「お母さん」候補を見るたびに首を振る仕草からは「男の子」を感じさせていたけれど、撫子の連れ子である男の子(こちらは本物の少年が演じている)が出てくると、一気に少年を飛び越えて青年を感じさせる風情になる。
手足が長いからなのか、新しく出来た弟への気遣いの場面から始まるからなのか、そういう意味では「怪しさ」はかなり減じる。
何というか、「年の離れた亭主に嫁いできた後妻が、息子の方に心惹かれる」という、まとめてしまうとありふれた感じの筋に納まってしまって、異界の空気のことなど忘れてしまったくらいだ。
だから、この芝居の妖しさは、後半に身毒丸が撫子の呪いを受けて失明して失踪し、撫子の姿で戻って来てからにあるように思う。
2階席からオペラグラスで見た感じでは、このとき矢野聖人がつけている仮面が、かなり本物っぽい。
口元は動いていないのにそこから声が出ている感じがするのは何故? と思ってオペラグラスでかなりじっと見て、仮面(というよりもマスク)をつけていることに気がついたくらいだ。
こんな展開をするんだっけ? と思っている自分が非常に情けないけれど、本当に全く覚えていなかったので、最初に気がついたときにはかなり驚いた。
相手になりきるというのは、相手を手に入れたいということの、かなり進んだというか深まった段階だと思うのに、前回見たときには、私はこのシーンを印象に残さなかったんだろうか。
何故だか、ふと、このお芝居を究極にポップに(という言葉が既に死語なのかも)軽く、例えば最初と最後の雑踏のシーンは、照明を究極に明るく白く光るくらいに当ててダンスシーンに変えちゃうくらいにがらっと趣を変えたらどういう風に見えるんだろうと思ったりもした。
この「身毒丸」は、ボンヤリの私にも判りすぎるくらい判るように、あからさまに男と女という側面を押し出した舞台だったと思う。
なのに、何故だか「艶っぽい」感じがしない、不思議な舞台だった。
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