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「奥様お尻をどうぞ」
演出・脚本 ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演 古田新太/八嶋智人/犬山イヌコ/大倉孝二
入江雅人/八十田勇一/平岩紙/山西惇/山路和弘
観劇日 2011年9月10日(土曜日)午後1時開演
劇場 CBGKシブゲキ! H列11番
料金 7200円
上演時間 2時間30分
本多劇場での公演に行ったのだけれど、途中で体調が悪くなって退席してしまった。
それがかなり悔しかったので、本多劇場での公演終了後、こちらの劇場のこけら落とし公演として上演されると知り、チケットを取って見に行って来た。
CBGKシブゲキ!は、ビルの6階にある劇場で、席数が300弱だったと思う。
映画館のような立派な椅子だな、ということと、随分座席の前後の幅が狭いな、というのが感想である。開演少し前に、後から来る人のために予め詰めておいてくださいという案内が劇場スタッフからあって、そんな情景を見たのはシアタートップス以来だ、ということを思ったのだった。
ネタバレありの感想は以下に。
ネタバレありの感想は以下に、などと書いたものの、正直に言うとネタバレなどしようがない。
あえて言えば、ネタバレしようのない芝居だった、ということが最大のネタバレのような気がする。
前回は、開演後1時間弱くらい見ていると思うのだけれど、実はその辺りまではストーリーがかなりはっきりとあるような感じだったということがよく判った。その後は、もう、やりたい放題の大盤振る舞いである。
舞台は、「原子力絶対安全協会」が舞台で、協会長とその部下たちと、こっそり原発反対の立場に立って派手にアピールしているテレビ番組プロデューサーとのやりとりから始まる。
「テレビ局の人間が来るんだから節電をアピールしろ」とシャンデリアを引っ込ませて裸電球を出して来るなど、かなりブラックかつシュール(ということは、正鵠を射ているということでもある)なのだけれど、部下の制服のボタンを押すという操作を行うことで、笑いに包み隠してしまう。
オープニングのアニメもそうだけれど、特にこの芝居の前半はこのトーンがずっと続く。
オープニングでは、ドアの開け閉めの動作をしつつ「ギー、バタン」と言ってみたり、その動作と台詞のタイミングをずらしてみたり、音なしで入って来て出入りをやり直したり、口で言わなくても効果音がついてきたり、部屋の出入りだけでひとしきり笑わせてもらったし、そこにピンクのスーツを着た古田新太が現れ、犬山犬子演じる探偵助手の(推定)少年が現れ、八十田勇一演じるホントは変だけどこの芝居の中ではかなり普通の人寄りに立っているテレビ局の人間とひたすら噛み合わないやりとりを繰り返す。
可笑しい。
この辺りまでは一応「こういうことがあって」と言えるのだけれど、この後は話が変な方向に進んで行く。というよりも、好き勝手な方向に拡散していって、話の中身はさっぱり判らない。
というか、「ストーリーがあるだろう」とか、そういう客席が持つような期待を全て裏切ります! という固い決心を出演者一同共有しているんじゃ亡いかというような舞台なのである。
協会長の娘の夢子ちゃん16歳は、探偵と探偵助手が出演していた映画に連れ込まれそうになったけれど、その隣の映画館で上演していた映画に入り込み、その映画に昔付き合っていた俳優が出演していたことから、その俳優が演じている役を助けて魔女退治をし、彼を映画のヒーローに祭り上げてやろうと決心したらしい。
この夢子ちゃんを演じた平岩紙がハマっていて、小柄で可憐な容姿に可憐な声、赤い口紅が「ちょっと派手なんじゃない」と言いたくなるような様子なのに、全体的に何故かブラックな雰囲気が漂いまくっている。
もう、ストーリーとして追えるのはここまでくらいで、後はもう、映画館の中と外も行ったり来たりするし、探偵は三重人格らしいし、探偵助手は探偵にハチャメチャぶりだけを求めているようだし、映画の中の王子はとことん情けないし、協会長の前身は実はとんかつ屋らしいし、未来を見通した娘に原子力絶対安全協会長を引き受けるなと懇願された彼は「屁力発電」の開発に勤しんで、「パン」首相の目の前で発電実験を行うし、もの凄く注意深く追って行けば多分整合性のある部分がちらほらあるような気がするのだけれど、目の前で展開されるともう、「好きにしてください」という気分になってくるのだ。
そういう気分になったことを見越してか、客席の誰かにスポットライトを当て「どうしてこんなお芝居に来てしまったのかしら」という架空の「心の声」を流し、それに対して「自己責任だ!」と客席通路で叫ぶとか、話(というか、芝居?)がどんどん舞台の外に溢れて行く。
そうなると、こちらも、「昨日は髑髏城の七人を見て来たんだよなぁ。7年前は捨之介を古田新太が演じていたんだよなぁ。もしかしたら古田新太が今も格好いい捨之介になっていたかも知れないのに、ずーっとパンツ一丁の姿で歌ったり踊ったり変なことを言ったりして目の前にいるんだよなぁ」などとらちもない感想が頭に浮かんだりするのである。
そういえば、上演の途中、「ナッツ」という言葉を発すると咳き込んでしまうというシーンがあって、大倉孝二がひたすら咳き込んでいたら、客席から素で「大丈夫?」と声をかけている年配(だと思う)の女性がいらした。その前にも何か舞台に向かってしゃべっていて、あまりにも堂々と普通に声を発しているので私など一瞬、仕込みか? と思ったくらいだ。
で、その女性に向かって、「ナッツ」という言葉をわざと言わせては咳き込ませていた王子の格好をした入江雅人が、これまたごく自然にその女性に向かって「しーっ」と口に指を当てて見せた。
それが全く芝居の雰囲気を壊すことなく(そこにあった芝居の雰囲気はどんな雰囲気だったのかはともかくとして)、客席に嫌な空気も作らない見事な収め方だった。しかも、その後、件の女性が舞台に向かって声を発することはなかったと思う。何だか凄い。
これだけ芸達者な役者さんが集まって、ひたすら「期待を裏切る」「予想通りには行かない」ことを目指して全力投球、という感じの舞台だった。
最後、夢子ちゃんが「夢オチ?!」と叫んでいたけれど、その気持ちはよく判る。というか、代弁してくれている。
日替わりゲストがいて、本当に芝居の最後の最後の方で出てくる。医者の役だった、ような気がする。
本日のゲストは六角慎司で、相変わらずのいじられキャラ感が楽しい。カーテンコールでは呼ばれてもなかなか出てこないし、出てくれば出てきたで「一番ゲストらしくないゲスト」と紹介され、出演する舞台のPRを求められると「こういう人が出演しますから後は押して知るべしです」などとダメ押しされて慌ててきまじめに否定する。
彼の登場で、ますますこの舞台のめちゃくちゃ感が際立ったように思う。
回答はないし、大団円のカタルシスもない。伏線はあったかも知れないけれど回収されることはほとんどない。ここまでやられると、いっそ清々しい。
そういう感じの舞台だった。
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