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2011.10.17

「聖ひばり御殿」を見る

花組芝居「聖ひばり御殿」
作・演出・出演 加納幸和 
出演 原川浩明/溝口健二/桂憲一/八代進一
    大井靖彦/北沢洋/横道毅/嶋倉雷象
    各務立基/松原綾央/磯村智彦/小林大介
    美斉津恵友/堀越涼/谷山知宏/丸川敬之/二瓶拓也
観劇日 2011年10月15日(土曜日)午後7時開演
劇場 博品館劇場 F列6番
料金 5300円
上演時間 1時間40分(10分の休憩あり)

 開演20分前くらいに劇場ロビーに到着したらがらーんとしていて、わかぎゑふと植本潤とがパンフレット(1000円)を薦める軽やかかつにこやかな声が響いていた。
 何となくコーヒーを頼んだら、その時間、加納幸和がトークショーをやっているということだった。コーヒーもそこそこに劇場に入ったらちょうどトークショーが終わるところで、曰く「筋には触れずに15分話しました。前提は判っておいていただきたいということで。」ということだった。

花組芝居 2011年10月公演「聖ひばり御殿」

 花組芝居の公式Webサイトはこちら。

 小さい声で正直にいうと、幕が開いたばかりの頃は「うー」と思ったりもしていた。
 多分、登場人物の大半が狸の面を被っていて、キツネの面を被っている人もいて、誰が誰だか判らなかったのと、こんなに「歌芝居」だと思っていなかったので、次々と繰り出される歌(懐かしい昭和の歌ということだったけれど、特に前半はオリジナルだと思って聴いていた)に、どうしてこんなに歌ばっかりなのと思ったりもしていた。ちゃんと歌詞カードまで配られていたのに間抜けな話ではある。

 このお芝居はかなり凝った設定であり構造になっていると思う。
 そもそも、舞台は、姫狸こと田の君が、狸と狐の1000年戦争の末、狐軍に魔女として火刑に処されたことについて、その裁判が間違いであったか否かを決する法廷の場である。
 そして、この「姫狸」は二重に影というかモチーフを背負っていて、かのジャンヌ・ダルクを彷彿とさせると(魔女で火刑なんてまさにそのものだ)同時に、タイトルとそして「昭和歌謡」がオマージュされているように、美空ひばりでもあるのだ。

 そして、さらに見た目を複雑にしているのが、しばらくの間、肝心の「田の君」が位牌としてしか登場しないことだ。
 それは、彼女が火刑に処せられた後の復権裁判の場なのだから、彼女がいないのは当然なのだけれど、彼女が生きていた頃の状況や言動を再現ドラマのように見せようというところでも頑として田の君が登場しない。
 これは、田の君登場に期待を持たせるのと同時に、田の君の様子を見ていた聞いていた知っているという設定の証言者たちに交替でメインボーカルを取らせるための方策なのかなとも思う。
 これでうーと思っていた私は、上手く芝居に煽られたということなんだろう。

 そして、この舞台は芝居であると同時にもう歌謡ショーでもあって、台詞が語られている時間よりも断然歌って踊っている場面の方が全然多いのではないかと思うくらいだ。
 そして歌って踊っている場面では舞台上の電飾も華やかで、その華やかさこそが昭和歌謡という感じに思えたのだった。

 田の君がどんどんスターダムにのし上がっていって(どうも「戦争」に勝つために、田の君らは戦意高揚の映画に出まくった、という設定になっているらしい)、そうするとずっとつきっきりで勘違いしているとしか思えない母親や、田の君にヒット曲を奪われて嫉妬する先輩歌手や、姉を追って同じ世界に身を置いた弟がでもスターである姉へのプレッシャーで自滅してしまう姿や、伝統芸能の世界から銀幕の世界に田の君が引っ張った形の女形との恋が無理矢理に終わらされる顛末や、そこを乗り越えて結婚したけれどもあっという間に「戦場が捨てきれない」と田の君が言って終わった結婚生活や、田の君自身というよりもその母親が周りの俳優やマネージャー達との軋轢を深めていった場面や、魔女裁判で家族を巻き込まないために家族の証言を否定する田の君や、あれやこれやが、次から次へと繰り出される歌と踊り、時には生バンドで語られて行く。
 ついでに(というのも失礼だけど)、殺陣もある。
 いわば、お祭りだ。

 お祭りなのでミーハーに徹すると、生バンドも楽しかったし、MCなのか、八代進一が「主役ってあんまりいいことない」みたいに言ったのに対して、桂憲一が「そんなこというな、あいつがどこで聞いているか判らないじゃないか」とこそこそし、再び八代進一がツッコミを入れる感じでもなく「あいつって誰だよ」とボソっと呟く、というようなやりとりが楽しい。
 そして、初演で田の君を演じた佐藤誓の声で開演前アナウンスが入るのも、やはりお祭り感を盛り上げる。
 でも、今回私がつい目を惹きつけられたのは、田の君の弟ポン太を演じた美済津恵友で、弟だから男の役を演じているのに赤い口紅がそのポイントだったんじゃないかと思う。

 途中から出てきた「田の君の身替わりを演じる元同じ芸名の女」がいると、やはり落ち着く。
 そうして、田の君の実体が現れてからは、やはり位牌に肩代わりさせるよりもぐっとテンポが良くなり、休憩前の方が休憩後よりもかなり長いこともあって、休憩後はかなり畳みかけるような展開が続く。
 こうなってくると、幕開け当初のじれったさが逆に効いてくるから不思議である。

 この復権裁判では、田の君を魔女と断じた裁判は間違っていた、無効だった、という結論となった。
 その理由は、私にはよく判らなかった。歌詞をちゃんと注意深く聞いていたら判ったのかも知れないのだけれど、ついつい歌が流れて踊っているのを見ると、手拍子を合わせて楽しんでしまったので、よく聞き取れないことも多かったのだ。
 でも、その裁判の結果、田の君は魔女ではなかったけれど、天の使いでもなく、普通の女性だということになったらしい。

 その結論に一番喜んだのは、田の君のおかげで戴冠できた現在の王で、その理由が「田の君が魔女でも天使でもなければ、自分の即位は自分の力によるものだと信じられる」という馬鹿馬鹿しいものだったのは、多分、史実に近いんだろうなという感じがした。
 そして、その利己的に喜ぶ王を見て、田の君の家族3人がしみじみと「川の流れのように」を歌い始め、楽しい想い出だけ持っていて、辛いときにだけ見ればいい。だとしたら、楽しい想い出を開くようなことはないにこしたことはない、と言っているのを見ていて、あぁ、そういうことなんだな、と思ったのだった。

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