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2011.10.23

「果断ー隠蔽捜査2」を見る

「果断ー隠蔽捜査2」
原作 今野 敏
脚本 笹部博司
演出 高橋いさを
出演 上川隆也/板尾創路/近江谷太朗/中村扇雀
    小林十市/平賀雅臣/朝倉伸二/宮本大誠
    斉藤レイ/本郷弦/西田奈津美/岸田タツヤ
観劇日 2011年10月22日(土曜日)午後5時開演
劇場 シアター1010 1階13列30番
料金 8500円
上演時間 2時間10分(15分の休憩あり)

 「隠蔽捜査」と続けて見た。
 こちらは原作を読んでいなかったので、それだけで随分と印象が変わったような気がする。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「隠蔽捜査」&「果断-隠蔽捜査2-」の公式Webサイトはこちら。

 どこかのサイトだったか雑誌だったかうろ覚えなのだけれど、この「隠蔽捜査」と「果断」では、出演する役者さんは同じ、でも多くの役者さんが違う役を演じる、という意味の紹介を読んだことがある。
 どんなに凄いことになるんだろうと思っていたのだけれど、同じ役を演じていたのは、上川隆也、中村扇雀、小林十市、斉藤レイ、西田奈津美、岸田タツヤの6人、違う役を演じていたのは、板尾創路、近江谷太朗、平賀雅臣、朝倉伸二、宮本大誠、本郷弦の6人で、「多くの」というのは誇大広告だろう、とそんなことをまず思ってしまった。
 我ながら、小姑のような観客である。

 でも、違う役を演じた6人の役者さんがその役割を見事に果たしていたことは間違いない。
 特に板尾創路と近江谷太朗の2人は、2つの舞台で演じる違う役のギャップを見せることをとことん楽しんでいるように見えた。
 逆に、平賀雅臣、朝倉伸二、宮本大誠、本郷弦の4人は、とても自然に「違う役を演じるんだ」という気負いなく演じているように見えた。これはこれでやっぱり凄いことだと思う。

 それはともかくとして、話は上川隆也演じる竜崎が「隠蔽捜査」の最後で明らかになったように、息子がヘロインを吸ったことから降格人事を受けて大森署署長として赴任したところから始まる。時系列としては完全に連続しているけれど、今度は、小林十市演じる大森署の戸板刑事が狂言回しも務めるし、その狂言回しの出番がまた多く、様々に解説してくれるので、恐らく単独で見てもほとんど違和感はないと思う。
 ただ、「隠蔽捜査」を観た人向けに、ちらほらとサービスの台詞が散りばめられ、客席の笑いを誘っていたので、そこで取り残されるということはあるかも知れない。

 「静と動」という言い方をするけれど、「隠蔽捜査」が静だとすると、「果断」は動に当たる。
 それは、狂言回しが若くなっただけではなく、物語が捜査の現場にかなり近づいたからだと思う。それでも、やっぱりこのお芝居はいわゆる「刑事物」ではないと思う。
 竜崎は立てこもりの現場に直接赴くし、自分がこの場の責任者だと断言するけれど、でも報告を受け、決断をするのであって、捜査をする訳ではない。
 捜査員の姿は戸板刑事を除けばほぼ出てこないのは前作と同じで、あとは、警視庁の組織であるSITやSAT(これも劇中で狂言回しが丁寧に説明してくれる)の現場責任者や、大森署の副署長、課長、中村扇雀演じる伊丹刑事部長も引き続き登場するし、要するに「長」と呼ばれる人たちの駆け引きや調整を見せる物語なのである。

 前作から引き続き、竜崎の家族も登場する。けれど、斉藤レイ演じる妻の冴子が入院してしまっているところが大きく違う。それだけでなく、入院している妻を見舞えないほどの忙しさであることを表そうとしてか、この冴子が何回か竜崎の夢の中に登場する。
 まるで冴子が亡くなることを暗示しているみたいだよ、と思ったのだけれど、最終的に彼女は胃潰瘍であったことが判る。余計な心配をしなくてはならないようなことをしないでくれと思ったけれど、逆にそのヒヤヒヤ感を狙っていたのかも知れない。だとしたら、私はまんまとはまったということだろう。

 専門用語が増えた分、狂言回しである小林十市の台詞は前作よりも増えたのではないかと思うけれど、それでもテンポが上がったという印象だった。
 「果断」の方が遊びも増えたし、上演時間が15分短いし、動きがある分、実際よりも時間が短く感じた。狂言回しの登場が多すぎるんじゃないかという気もしたけれど、これは必要な時間であり登場だったろう。
小説でもシリーズ物の1巻は説明が多いし、2巻辺りから物語のテンポが良くなって行くものだけれど、この舞台もそのとおりの構成になっていると思う。
 こちらも面白かった。

 見終わってやっぱり原作が読みたくなって買い求め、帰りの電車で読んでしまった。
 読み終わって、この舞台は相当に上手く小説を舞台化したんだなと改めて思った。小説の方がもちろん竜崎の心情を書き込んでいて、舞台では全く揺るがない男に見えた竜崎が小説では迷っていたり、くよくよしていたり、「くよくよしていたも仕方がない」と割り切ったりしていて、そこに共感を覚えたし、伊丹刑事部長が結構いけ好かない奴に描かれていて、割といい人に描かれていた舞台の印象とは大きく違う。
 でも、舞台にして立体化したことで、さらに面白くなったのではないかと思ったのだった。

 続編も舞台化されたらいいのになと思う。
 そのときも今回出演した方々全員で、一人も減ることなく増やすことなく上演されたら楽しいというのは贅沢な望みだろうか。

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