「ハズバンズ&ワイブズ」を見る
ラッパ屋 第38回公演「ハズバンズ&ワイブズ」
脚本・演出 鈴木聡
出演 福本伸一/おかやまはじめ/木村靖司/俵木藤汰
三鴨絵里子/弘中麻紀/大草理乙子/ともさと衣(客演)
岩本淳/中野順一朗/浦川拓海/宇納祐
熊川隆一/武藤直樹
観劇日 2011年11月20日(日曜日)午後2時開演(千秋楽)
劇場 紀伊國屋ホール D列13番
料金 4800円
上演時間 2時間
ロビーでは過去公演の上演台本が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
2011年3月11日以降、東日本大震災に触れたり意識していることが感じられるお芝居は割とあったと思うのだけれど、東京を舞台にしているとはいえ、いきなり直球勝負で描き始めたことに驚いた。
ラッパ屋が来たか、という感じがした。意外といえば意外である。
確か、ラッパ屋は3月11日に公演を行っていた筈で(割と直後に見に行ったので覚えている)、それも関係あるのではないかと思う。
3月11日、部屋中がしっちゃかめっちゃかになったマンションの一室に、部屋の主が帰ってくる。
やっと電話がつながった友人と安否を確かめ合い、今日の午後をどう過ごしたか報告し合う。
そういえばしばらくは「どうしてた?」というのが挨拶代わりになっていたなと思い出す。当日は、家族に連絡を取ろうとしてなかなか電話が通じず、不安になったところで何とかメールが通じてほっとしたことも思い出す。
やはり、まだ、生々しい記憶である。
日頃はあまり付き合いのなかった同じフロアの人々が彼女の部屋にやってきて、お隣の人がドアが開かなくなったためにベランダ越しに来ようとしていたこともあって、それを見た人も次々と集まって来て、この部屋の惨状の半分は地震の揺れのためだけれど、半分は3日前の夫婦喧嘩であることを知る。
確かに、地震で部屋中に洋服が散らかることはあるまい。
それまでは恐らくほとんど挨拶を交わすか交わさないかという間柄だった人々が、一気に親しくなったようだ。若夫婦の妻が妊娠していることや、結婚していると思われていた2人が実は不倫関係だったことや、男2人で暮らしているけれどホモではなかったことなど、そこには「秘密」はない。少なくとも、秘密のいくつかがこの機会に表に出てきたようだ。
多分、というか間違いなく私の認識が甘いのだと思うのだけれど、私は生活に密着した感じでのインパクトを受けなかったので(やはり鈍いとしか言いようがない)、この辺りの感覚は実は今ひとつよく判らなかった。
当日、歩いて帰宅するのは無理だと早々に決め込み、職場に泊まったので、テールランプの連なる車道や歩道から溢れる人や何時間も歩いて帰ったという経験がないということだけが生んだ差ではないと思う。
地震のときに側にいなかった、地震の後で安否を気遣う電話をしなかった、実は共通の知人(しかも女性)と一緒にいた、彼女のところには逆に9年ぶりに知り合いから電話がかかってきた、そうしたことが夫婦喧嘩を長引かせてしまう。
私の温度が低すぎるのだと思うのだけれど、ここで私が感じたのはやはり温度差だ。
東京にいて、でも、東日本大震災が生活に与えた影響は人によってこんなにも違う。
逆に、このお芝居の登場人物たちが誰も買い占めに走らず、お米や水が手に入らないと焦っていないことに首を捻る。
福島の原発が爆発したというニュースを見たときの驚きが蘇る。
やはり、そういう意味でまだお芝居として見るには3月11日は生々しい。
マンションに住む人の何人か、マンションの外から来た何人かで、トラックで気仙沼に支援物資を運びそして炊き出しを行う。
そこで語られる現地の様子と、そこで彼らが思ったこと、何はともあれ帰ってきた彼らをねぎらいの気持ちで迎えた人々と、店のものを支援物資に使ってしまった夫とその後始末をしなければならなかったことに憤る妻。
ここに出てきた「ハズバンズ&ワイブズ」は、ほぼ皆、東日本大震災で「生活」や、夫婦のあり方というか意識を大きく変えた人々である。
こう書いてきてやっと思い当たったのだけれど、私の中のラッパ屋のイメージは、ここで「変わらない」人々だったのかも知れないと思う。そして、変わらなかった自分と同じ変わらなかった人々を見ることを、無意識に期待して見ていたのかも知れない。
そもそも、何故か「ハズバンズ」を「ハワイアンズ」と頭の中で勝手に変換していたくらいだから、前々からそう準備していたという訳ではないのだけれど、でも、そういうことなんだと今頃になって納得してしまった。
でも、彼ら「ハズバンズ&ワイブズ」は、地震のときに思い浮かんだのは相手の顔だったし、側にいて欲しかったのだし、大切なものは何かを改めて考えた。
そして、日常に帰ってきた。
やっぱり、ほっとしたし、ラッパ屋が好きだなと思ったのだった。
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