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「往転 オウテン」
脚本 桑原裕子(KAKUTA)
演出 青木豪
出演
「アンチェイン・マイ・ハート」高田聖子/大石継太
「桃」市川実和子/尾上寛之/安藤聖
「いきたい」穂のか/浅利陽介/柿丸美智恵
「横転」峯村リエ/仗桐安
藤川修二/遠藤隆太
観劇日 2011年11月19日(土曜日)午後2時開演
劇場 シアタートラム F列17番
料金 5000円
上演時間 2時間10分
ロビーでパンフレットが販売されていたかどうか、自信がない。
ネタバレありの感想は以下に。
チラシを見てオムニバス形式のお芝居なのかと思っていたのだけれど、始まってみればそうではなく1本のお芝居の中で4組の人々が交錯するお芝居だった。
時間軸もバラバラで行ったり来たりする。
多分、それぞれの物語を抽出して時間通りに並べ替え、4本の別のお芝居として上演することもできるようになっているのではなかろうか。
でも、4つの物語が交錯するお芝居で、この4組を結びつけているのは、東京から福島を経由して仙台に向かう夜行バスである。
舞台は暗く、真ん中に回り舞台が仕込まれ、そこにはジャングルジムを潰したような丘というか台がそびえている。向かって右側に家のように一段上がった床と枠だけの壁で仕切られた廊下があり、左側にベッドが2台並んでいる。
最初のシーンは、山道を蛇行するバスの模型をテレビカメラで映し出し、彼らが乗り合わせたバスが正しく横転事故を起こすことを示す。
重さを感じさせる幕開けである。
でも、不思議なことに、このお芝居を観ている間中、私は重苦しい気持ちにはならなかった。
舞台設定が正しく今に置いて、東北に向かうバスを接点にしているのだから、直接に言及しなくとも、風評被害で桃が売れないという話が出てくれば、原発事故のことを意識していることは十分過ぎるほどに伝わって来る。
舞台の照明は終始暗い。
高田聖子演じる女は母の遺言に従って、母の遺骨を兄弟たちに配って歩いているという役柄から、ほとんど喪服を着て登場している。
そして、大石継太演じる彼女に同道している男は、自分がリストラに遭ったからと2年ぶりに彼女に会いに来た妻子持ちの男である。
「いきたい」の穂のか演じる女の子も、「女性しか愛せない」ことを告げたときの家族の反応から発作的に家の2階から飛び降りて、手足を折って入院している。
浅利陽介演じる彼女の隣に入院している男は、植物状態だと聞いていたのだけれど、何故か起き出して彼女と会話している。柿丸美智恵演じる女が彼女を見舞いにやってくるけれど、彼を見舞う人はいない。
安藤聖演じるこの2人を担当している看護師に惚れていた双子の兄がバス事故で死んでしまい、市川実和子演じる女が「結婚する筈だった。行くところがない」とその弟がやっている桃農家に転がり込む。尾上寛之演じる双子の兄弟は、兄は目端の利く男のようだけれど、弟はその兄の影でコンプレックスを抱えて暮らしてきたようだし、この兄の婚約者だってティファニーの指輪を嵌めつつちっとも結婚間近だった雰囲気を醸し出していない。
峯村リエ演じる中年女性は、いつの間にか息子にたかるようになっていた自分の人生を「どうしてこんな風に曲がってしまったんだろう」「転んだら変わるんだろうか」とボンヤリ振り返り、その女性のおしゃべりに辟易していた仗桐安演じる男はどこかの会社社長で脱税で逃げ回っているところらしい。
彼らが乗り合わせたバスが、山間のカーブの多い道で運転手の居眠り運転により横転事故を起こす。
2人が死亡、3人が重軽傷、2人が行方不明である。
双子の兄が死んだことは割と早い内に明かされるし、その結婚相手が生き残ることも割と早い内に明かされる。でも、その他の人々の生死は不明のまま物語は進む。
すでにどこがどうとは覚えていないのだけれど、伏線を張り巡らせ、それを上手く回収する、カタルシスはないのだけれど「おぬし、やるな」と感じさせるお芝居になっている。
閉塞感しかない登場人物たちの中で、亡くなったもう一人は高田聖子演じる女であり、行方不明になったうちの一人は運転手であり、彼はやはり植物状態で入院している男だったようだ。彼と話していたというのは彼女の錯覚というよりも病気によるものだったらしい。
そして、もう1人行方不明になっていたのは高田聖子と同道していた男で、彼は彼女に「終わりまで付いてくるって言っているけど、それじゃこれから始まるんじゃないかと思ってしまう」と福島でバスから降ろされていたらしい。
何だかこの部分だけ、やけに力一杯彼女に賛成し、心の中で目一杯応援してしまった。そうだよね、そうだよね、こーゆー中途半端な男ってとことん迷惑だよね、あんたはエライ。弱い女かも知れないけど、自分の弱さを知り抜いている強さがある、といきなり感情的になってしまったくらいだ。
でも、全体的にはずっと、これだけ閉塞感にまみれたお芝居なのに、私はどうして嫌悪感を持つこともなく、こんなに穏やかな気持ちでこのお芝居を観ているのだろう、と思っていたように思う。
この感じ、何だか(大袈裟に言うと)救われたように思えたのだった。
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