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「8人の女たち」
原作 ロベール・トマ
演出・上演台本 G2
出演 浅野温子/荻野目慶子/加賀まりこ/大地真央
戸田恵子/マイコ/牧瀬里穂/南沢奈央
観劇日 2011年12月17日(土曜日)午後1時開演
劇場 ル・テアトル銀座 ステージ席B列18番
料金 9800円
ロビーでは、パンフレット(2000円)が販売されていた。
また、チョコラBBがスポンサーについているようで、終演後には一人1本ずつ配っていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台を挟むように客席を設置してある。
幕はない。
片方の側に階段と短いキャットウォークが据え付けられ、その上に青いドアがある。もう片方には椅子が並べられているだけだけれど、そちらが玄関という設定のようだ。
舞台上に現れた女優たちがダンスというのかポーズを取るといえばいいのか、優雅な動きを見せ、そしてストップする。
見ているときはすっかり忘れていたのだけれど、この音楽と「歩き」を同化させる演出はまさにG2の面目躍如と言ったところだろう。今さら、納得した。
最初に舞台上や横に置かれた椅子に座って顔を見せたのは、7人の女優である。
「確か、8人の筈」と思って数えたのはきっと私くらいだろう。
荻野目慶子演じるメイドのシャネルは、牧瀬里穂演じる2ヶ月前にやってきたメイドのルイーズに、今日帰ってくるこの家の長女シュゾンのことを話しているようだ。
そこへ、大地真央演じるこの家の女主人ギャビーに車で駅まで迎えに来てもらったらしい、マイコ演じるシュゾンが帰ってくる。
マイコは「おひさま」で見たときには、純和風の顔立ちの美人だと思っていたのだけれど、茶髪のこのシュゾンという役を演じていると外国人風に見えてくるから不思議である。
この家には、戸田恵子演じるギャビーの妹でいかにも「オールドミス」風のオーギュスティーヌと、加賀まりこ演じるその姉妹の母マミーも一緒に住んでいるらしい。
そこへ、南沢奈央演じるこの家の次女のカトリーヌが起きてきて、とりあえず全員集合だ。
この7人だけでも、相当に派手である。舞台の広さを全く感じさせない。存在感だけで、その場は十分以上に埋まっている。ちょっと息苦しいくらいだ。
息苦しいと思ったのは、ステージ席の前から2列目という非常に舞台から近い席だったからということもあると思う。
舞台を客席が挟んでいる形で、ステージ席と言われる側の席の方が高さも舞台との距離も近い。その2列目だったので、舞台上で女優さん達がソファに座っていると、かなり目線の高さが近いのだ。
そして、人数からしてステージ席は「裏」に当たると思うのだけれど、顔が見えないとか、声が聞き取れないとか、「こっち向け!」と思ったりすることは全くなかった。
相当に客席からの目線を意識して演出され、演技していたのではないだろうか。
こうした舞台で「見えない」というストレスを感じないというのは、かなり珍しいことだと思う。
目線といえば、キャットウォークの上や下、玄関がある辺りに簡素だけれどカラフルな椅子が置かれ、出番ではない女優たちは(衣装替えがない限り)そこでまっすぐ舞台を見つめている。
でも、そうして出番ではないことを示しながらも、その座り方や視線、ときどき見せる動きはその役のままである。
そして、「どこかの部屋からかけだしてきた」「玄関から駆け込んできた」という演技を突然に立ち上がって見せたりするのだ。頭の中に「瞬発力」という単語が見え隠れしていた。
「8人の女たち」というこのお芝居は、確か、元はフランス映画だったと思う。やはり配役が相当に豪華で、見たいと思っていたのに、結局何だかんだで見なかった記憶がある。
「見ていない」という確実な記憶があるのに、舞台を見ながら「私、このお芝居を見たことがあったっけ?」などと考えてしまった自分が不思議である。理由は判らない。
こうしたミステリ仕立ての芝居を見るとそういう風に思うスイッチがどこかに付いているのかも知れない。こう言っては何だけれど、雪の山荘密室殺人事件というのは、非常に「ありがち」な設定ではある。
というわけで、この家の主人であるマルセルを起こしに行ったルイーズが、部屋で背中に包丁と突き立てられ血塗れになって死んでいるのを発見して悲鳴を上げる。
そこから、物語が動き始める。
「現場の保存」を言い張ったカトリーヌが鍵をかけてしまったり、警察を呼ぼうとしたところ電話線が切られていたり、外は大雪で、しかもこの家は国道の交差点からでも2km、街から9kmも離れている。車で警察に知らせに行こうとしたところ、車もいつの間にか故障させられており動かない。
家の主人が失われ、少しずつ7人の女たちの疑心暗鬼が始まって行く。
始まって行くというよりは、深まって行くと言った方が正しいかも知れない。
その疑心暗鬼は、家の外で飼っている犬たちが吠えなかったことから、犯人は顔見知りであるという推理が出されてから、俄然、加速する。
そして「電話で呼ばれた」と浅野温子演じるこのマルセルの妹ピエレットがやってきて、「8人の女たち」が揃うと、ますますお互いがお互いを疑い、打ち明け話があちこちでひそひそと行われ、罵り合いがあり、誰かが誰かの嘘を暴き合うことになる。
はっきり言って、このお芝居は全編、その女たちの泥仕合で構成されているのだ。
考えたらかなりイヤ〜な気分になりそうな状況なのだけれど、人の裏側を見せようとしているからなのか、だからこそなのか、嫌な気分になることは全くなかった。
それどころか、思わず身を乗り出すように集中してしまう。全く気を逸らさせない。
それは、舞台上で疑われている主役、疑っている主役がころころと入れ替わり、次々と新たな事実が示され、犯人を絞らせない(絞れなかったのは私だけだからかも知れないけど)からだろう。
というよりも、舞台が進むにつれて、犯人が誰なのかという謎は全く気にならないというよりも脳裏に浮かばないようになり、それよりも、今目の前で展開しているドラマを見なくてはという気持ちになって来た。
ここで展開されているドラマは、概ね「色と欲」が原因である。
ものすごく偏ったイメージだとは自分で思うけれど、全くフランスらしい、という感じがする。
その「色と欲」に囚われた彼女たちは、とても魅力的である。
そういえば、この舞台は、「日本人が外国人を演じている」という違和感もほとんど感じさせなかったように思う。どうしてなんだろうか。
ルイーズって美味しい役だよな、8人の女のうち好きな役をやらせてあげると言われたらルイーズを選ぶな、などと不埒なことを考えたりしていたし、物語的にこの家に来て2ヶ月というルイーズがキーパースンなのではないかと思っていたのだけれど、私の予測は全くはずれ、最初に真相に気が付いたのはシャネルであり、その彼女が「真相を語るべきだ」と指名したのはカトリーヌだった。
ここまで外れると、いっそのこと気持ちがいい。
指名されたカトリーヌが語り始めたときには、すっかり「真犯人は誰なのか」「昨夜から今朝にかけて一体何が起きたのか」という謎をずっと考えていたような心持ちになっていた。
カトリーヌは、これまで誰かと誰かの間でだけ明らかにされてきた「昨夜からの出来事」を全員に向かって語って行く。
彼女の語り口は、完全に女たちを弾劾するものだけれど、「いや、この男だって相当なものだよね」と思ったし、「そんな被害者のような顔している場合ではないのでは」と思ってしまった。
いつの間にか、私も8人の女たちの味方に引き込まれてしまったようだ。
結局、マルセルというこの家の主人は、(敢えて言うなら)、妻を裏切り、事業に失敗し、妻の母のなけなしの財産を奪おうとし、妻の連れ子である娘を妊娠させ、妹を「女性」として見、まだ10代の娘の口車に乗って自分が死んだという芝居をし、そこで噴出だろう彼女らの本音をこっそり盗み聞きすることにした、とんでもなく駄目な男手ある。
その父親を必死になって庇い、「私が提案した」と叫ぶカトリーヌはかなり痛々しい。
そもそも、この男が率直に周りの女と話し向き合っていれば、こんなことにはならなかった筈じゃないか。
そんな風に思っていたので、マルセルが自殺してしまっても、全く何の同情心も湧かなかった。
ちらっと「これは正しい見方なんだろうか」とも思ったのだけれど、そう思えてしまったものは仕方がない。
そして、この女たちは、経済的にマルセルに頼り切っていたり愛人だったり裏切っていたりしていたわけだけれど、きっとマルセルの死をあっさりきっぱり踏み越えて、明日からも強かに生きていくのじゃないかと思ったのだった。
あまりに集中して見てしまったらしく、終演のときには軽く頭痛がしていたくらいだった。
華やかで強かで、面白い舞台だった。
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コメント
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
あちこち覗いてみたのですが、今ひとつ原因がはっきりしません。
記事数が多くなっていることは確かですので、少し削ってみようかと思っています。
しばらくご迷惑をおかけするかも知れません。ごめんなさい。
投稿: 姫林檎 | 2011.12.26 22:16
僕はいいんですが、コメントを書こうとして書けない人がいるかもしれませんから。
投稿: 逆巻く風 | 2011.12.23 12:24
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
ここ2日くらい、重いのですね。
私はMacでOperaを使っているせいか、あまり感じなかったのですが・・・。
お手数をおかけいたしました。
投稿: 姫林檎 | 2011.12.23 10:48
追伸
VISTAでは重くて無理のようです。セブンなら問題ないですが。
投稿: 逆巻く風 | 2011.12.22 12:55
お・も・い (笑)
書けない (TT)
投稿: 逆巻く風 | 2011.12.21 17:51