「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」展に行く
2011年12月27日、年内最後の開館日に、国立新美術館で2012年1月29日まで開催されている、「プラド美術館所蔵 ゴヤ 光と影」に行ってきた。
母が「この時期は年配の女性は出歩かないでしょう」と言うし、平日の昼間だしと思ったのだけれど、小さなエッチングや素描が多かったこともあって、1枚1枚をじっくり立ち止まって見る人も多く、結構な盛況だったと思う。
自分のペースで見ることはできないけれど、ちょっと待てば絵の正面でゆっくり眺めることができる、という感じだった。
もちろん、この展覧会の白眉は「着衣のマハ」である。
一枚だけなのが寂しいけれど、2枚並べて見たいなんてそれは贅沢と言うものである。
その昔は、この「マハ」はアルバ侯爵夫人であるという説もかなり強く主張されていた(というか、私のイメージでは通説に近い感じだった)と思うのだけれど、最近は「マハはマハ」という感じらしい。
結局のところ、「真実」などというものは、たとえゴヤ本人がここにいたとしても明確にはならないものなんだろう。解釈は見る者に委ねられる。
この「着衣のマハ」はかなり大きな絵である。
絵の前をずっと横に動いて行くと、マハの瞳の位置が真ん中ではないせいだと思うのだけれど、その表情や印象が変わるように思う。
絵の頭に近い方から見ると意志の強い女性の強い視線に見えるし、足の方から見ると上目遣いのちょっと媚びた表情を浮かべているように見える、気がする。
そんな感じでかなり長い時間を「着衣のマハ」の前で過ごしてしまった。
120点強の展示作品の全てがゴヤの作品である。
画家の名前を銘打っていたとしても、その画家の作品だけで構成された美術展というのは案外少ないのではないだろうか。
その代わり、エッチングと素描の小品がそのほとんどを占めている。
本当に小さい(縦20cm、横15cmくらいではないだろうか)し、エッチングなので線も細く、細かい。なので、絵の前で立ち止まってじっくり見ることになるので、列はなかなか進まない。
そして、その作品のテーマのほとんどが、風刺、であるらしい。
私は現代の風刺漫画ですらその意味や風刺している対象物すら判らない人間なので、それがましてや時代も宗教的背景や社会的背景も異なる、全く知らないとなるとお手上げである。
多分、何らかの暗喩等々で世相を皮肉っているのだと思う(というか、解説はそういう風に書いてあったと思う)けれど、実際のところ、私が絵から受け取ったものは実はほとんどない。
ただ、随分と「人」特に宗教的指導者を醜く描いてあるなと思ったくらいである。
そんな風なので、ロバを登場させた6枚の連作は面白かった。
ロバは、マヌケというか、あまりいい意味でたとえられる動物ではない。そこが割とすんなり納得できたので判りやすいというか、クスリと笑える感じがあったのだ。
それに、何故かロバは可愛らしく描かれている。憎々しく描くこともできただろうに、何だかほっとさせられる。
特に私が気に入ったのは「あるがままの姿に」と題された1枚で、ロバが椅子に座っていて、向かい合って座った男に頭の先から胸辺りまで、白ペンキ(モノクロの絵なので本当に白かどうかはともかくとして)で塗られつつあるという図柄だった。
可笑しい。そして、皮肉っている何かも判りやすい。ここは私にとって重要な部分である。
ゴヤというと「宮廷画家」「スペイン王室の肖像画を描いた画家」というイメージが強かった。それは、カルロス4世の家族を描いた絵などで、王妃を非常に品がない感じで描くなど、「とにかく綺麗に仕上げればよい」というタイプの画家ではないとは思っていたけれど、それでも、宮廷画家は宮廷画家の枠があるだろう。
それが、ナポレオンに占領される前後を通じて、戦争の様子、人が本当にバタバタと殺されて行く様子などを描いた作品も多くて、ゴヤという画家のイメージが少し変わったような気がする。
暗い気持ちになったり、ちょっと目を背けたくなるような絵もあったのだけれど、だからこその「光と影」だろう。
行って良かったと思う。
私にしては珍しく、1時間半以上も絵を見ていたのだった。
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