2011年に見たお芝居は59本60公演(「髑髏城の七人」を2回見ている)だった。
2010年よりも2本増えたことになる。2011年は割とこまめに週末に旅行に出たりしたにも関わらず、それでも前年より観劇本数が増えているのは何故なのか、自分でもよく判らない。
もっとも、2011年は、生まれて初めて観劇のために大阪まで出かけ、これが結構面白かったので、次は文楽を見に大阪に行く、京都南座に歌舞伎を見に行くなど、旅と芝居とをくっつけた自分企画を実施してみたいと思ったのだった。
そういうわけで、60公演見た中から選んだ「2011年の5本」はこの5本である。
「日本人のへそ」@シアターコクーン 2010.3.19
井上ひさしの追悼で、2011年はたくさんの井上作品が上演されたけれど、私の中でのベストワンはこの作品である。戯曲デビュー作なのだそうだ。
前半はヘレン天津という女性の転落を息つく暇もないほど早いテンポで見せて行く。そして積み上げてきたものを、後半、どんでん返しに次ぐどんでん返しの怒濤の展開でひっくり返して見せる。
とにかく「やられた!」の一言しか出てこないお芝居だった。
そして、井上ひさしという人はきっとここまで技巧を凝らし、誤魔化し、人の気をそらさなければ、語りたいことは語れないと思っていた(あるいは、語りたいことを語れなかった)のだな、と何となく思ったのだった。
「シングルマザーズ」@東京芸術劇場小ホール1 2011.3.26
東日本大震災で上演中止となった公演のチケットを振り替えてもらって見たお芝居である。
シングルマザー達が立ち上げたNPOが児童扶養手当削減の法改正を何とかひっくり返そうと運動をするお話で、何というか、ストレートなお芝居をストレートに受け止めればいいんだ、という安心感があった。
そして、ラスト近くにシングルマザーの一人を演じた沢口靖子が「ママ達はがんばりました!」と電話の向こうの息子に向かって誇らしげに告げる。
この一言が象徴するような、見終わって「元気をもらった」と素直に思えるいいお芝居だった。
「ベッジ・パードン」」@世田谷パブリックシアター 2011.6.26
三谷幸喜が、「(自分の)生誕50周年記念」と銘打って2011年に上演した新作公演のうちの1本である。
自分でも単純だとは思うけれど、私はやっぱりコメディが好きである。
そして、コメディ決定なのだけれど、「言葉」が重要な役割を果たし、しかもそこに身分とか差別とかが加わってくるシビアなお芝居でもある。「差別される漱石」だけではなく「差別意識のある漱石」が存在し、本人が実は心底はそのことに気がつかない。そういうことをコメディで伝えきってしまう。
このお芝居を見終わって「我が輩は猫である」を読もうと思っていたのにすっかり忘れ果てていた自分が情けない。自分の感想を読み直して、改めて読んでみようと思ったのだった。
「奇ッ怪 其ノ弐」@世田谷パブリックシアター 2011.8.27
見た当時に「私にしては珍しく最初に言い切ってしまうけれど、いいお芝居だった。今年のベスト5は確定だ。お芝居を観ているときに、邪念に惑わされず、がっと集中して見られたのは久しぶりのような気がする。」と書いている。我ながら、ここまでキッパリ言い切るのは珍しい。
「落ち着いて考えるとホラーな気もするし、扱われていた話はずっと「死」なのだけれど、それでも何故か、清々しい気持ちになったお芝居だった。」とも書いているのだけれど、実は今の私には、このお芝居のどこがここまで言い切らせたのか、よく判らないのだった。
「猟銃」@パルコ劇場 2011.10.8
一人芝居、と言っていいのだと思う、井上靖の小説「猟銃」は3人の女の手紙で構成され、その始めに僅かな状況説明のような、でも読み終わってみると余韻を感じさせる部分があるのだけれど、その「説明」はナレーションで流し、中谷美紀が3人の女に扮して自分の書いた手紙を読み上げる、そういう形のお芝居である。
そして、3人の手紙の宛先である「男」は、舞台奥の少し高くなった場所でスクリーン越しに存在を感じさせ続ける。
3人の女を演じ分け、集中しきっていた中谷美紀も見事だったし、一言もしゃべらずに男の苦悩を見せたロドリーグ・プロトの存在感も凄かった。見終わって「いいものを見た」という感じがした。
ここに挙げた5本以外で特に迷ったお芝居はこんな感じである。
「紅姉妹」@紀伊國屋ホール 2011.4.23
「冬物語」@渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール 2011.7.17
「髑髏城の七人」@青山劇場 2011.9.9・2011.9.30
「8人の女たち」@ル・テアトル銀座 2011.12.17
今年もたくさんの楽しいお芝居を見られますように!
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