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劇団鹿殺し「青春漂流記」
出演 菜月チョビ/丸尾丸一郎/オレノグラフィティ
山岸門人/橘輝/傳田うに/円山チカ
坂本けこ美/山口加菜/水野伽奈子/鷺沼恵美子
浅野康之/峰ゆとり/近藤茶/富山恵理子
高田聖子(劇団☆新感線)/廣川三憲(NYLON100℃)
村木仁/谷山知宏(花組芝居)
観劇日 2012年1月28日(土曜日)午後2時開演
劇場 紀伊國屋ホール R列19番
料金 5000円
上演時間 2時間10分
ロビーでは、パンフレットがあったかどうかどうも自信がないのだけれど、Tシャツや「岸家の夏」のDVDが売られていたり、福引きが当たったときの鉦の音が鳴り響いたりしていた。
ネタバレありの感想は以下に。
開演前の劇場には、少し(かなり?)前の歌謡曲が流されていて、何だか懐かしい。舞台セットも、かなり寂れた昭和風商店街という感じである。
「モトコー商店街」は「元町高架下商店街」の略称というか愛称のようだ。
その商店街の一店舗で、葉月チョビ演じる凪子が階上にいるらしいジョージさんに「今月も赤字だ」と話しかけている。
CDが2枚売れたとか、今日のファンイベントの会費を値上げしようと言っているから何のことかと思っていたら、モトコー商店街活性化のために結成されて一世を風靡した「モトコーファイブ」という5人グループの、その成れの果ての面々が集まっているらしい。
人気絶頂だった彼らは、でも、何かの事件があって、高田聖子演じる凪子の姉でありグループのリーダーだった波美がいきなり失踪したことで、一気に失速し、その後、盛り返すことはなく、そして22年が過ぎた、ということらしい。
派手といえば派手、寂しいといえばこれほど寂しい設定もない。私には、そんなに「おめでたい」お話とは思えないんだけどなー、と思う。
22年音沙汰のなかった波美から彼らに「これから帰ります」という手紙が届き、そして、真っ赤なコートに身を包んでサングラスをかけた彼女が現れる。
そこから、22年前の彼らと、今の彼らとの話が時間軸を行ったり来たりしながら交互に語られて行く。
波美と凪子姉妹はどうしてモトコーにやってきたのか、モトコーファイブとはどのようにして結成されたのか、どうして22年前に彼らは芸能界から姿を消すことになったのか、波美はどうしてそもまま姿をくらませてしまったのか、その後、モトコーに残った彼らはどう暮らして来たのか、波美はどうして突然22年ぶりにモトコーに帰ってきたのか。
そして、モトコーファイブ再結成はどのような顛末を辿るのか。
波美という彼女は、親を亡くし、9歳下の妹を連れ、丸尾丸一郎演じる一平の家族を頼って身を寄せてきたようだ。
でも、当時17歳の彼女は既に「一筋縄ではいかない女」で、言いたいことを言い、やりたいことをやり、潔く、いわばガキ大将の中のガキ大将である。もちろん、妹の凪子はそんな姉に「どこまでもついて行きます」という風で完全に懐いているし頼っている。
姉妹と商店街の会長らとの間に確執がありつつも、姉妹が潜り込んだ家で、廣川三憲演じる昔のステージ衣装を細々と売って生計を立てていたジョージ・イソノという元歌手に出会ったことから、モトコー商店街活性化のためにチャイドルを売り出すことになり、波美と凪子以外の3人をオーディションで選ぶことになる。
そして、選ばれたのが、胃ペイと、オレノグラフィティ演じる流人という引っ込み思案そうな少年と、山岸門人演じる商店街会長の息子である航太である。
この辺のオーディションでダンスを踊る様子や、デビューに向けてレッスンする辺りなどは、歌と踊り(というか、踊りと踊り)満載で、いかにもな感じがして、とても楽しい。
ここで、谷山知宏演じるオーディションに落ちた少年が、後に彼ら店賃を滞納している面々に退去を命じかつ現代アートで商店街活性化を図るリーダーになったり、モトコーファイブ結成に反対していた村木仁演じるミリタリーファッションばりばり(でも、どう見ても「紅の豚」)の男がジョージ・イソノの昔の仲間だったり、仕込みは隆々、という感じだ。
一方で、「どうして波美は去って行ったのか」という舞台の最初からどんと真ん中に居座っていた疑問の詳細も徐々に明らかにされて行く。
リーダーの波美がどうしていきなりいなくなったのか、という「疑問」は、どうして賞レース前の大事な時期に未成年の身でお酒やたばこに走りフライデーされるまでになったのか、という疑問になり、凪子はそんな姉に自分の人生を曲げられたと思っているようだったけれど、実は、と展開して行く。
この辺りの、本当は自分のせいだと判っているけれど自分の記憶すら騙して人のせいにしてしまいたい感じとか、思う通りに生きている、生きてきた、そういう人だと思っていたのに実は「戻りたいのに戻れない」「手紙を書いたのに出せない」という弱さを持っていることだったり、その弱さに全く思い及ばなかった周りの人間の後悔なのか切なさなのか歯噛みしたくなる感じとか、死後に読んだ手紙の中で最後まで虚勢を張っていた姉・リーダーの姿を初めて知る寂しさだったりとか、庇護していると思っていた相手に負けて行く焦燥感だったりとか、ずっと姉には敵わないと思っていた妹が姉の弱みを握ったと思って舞い上がる様子とか、色々と、とにかく痛い部分が目白押しで、でも間に挟まれるモトコーファイブの歌はやっぱり昭和歌謡で衣装も派手でちょっと笑えて楽しい。
波美がお膳立てしたモトコーファイブ再結成は、その裏事情はやはり痛くて、でもモトコーにいた4人を奮起させる力はあって、でも4人しか揃わなかった番組収録時には色々と失敗し、その後尋ねた波美の家で彼女の死を知る。
そして、4人は元の生活に戻り、戻るだけでなく「目の前の現実」に正面から向き合うべく前向きになっているように見える。
商店街はモトコーファイブ再結成ではなく、現代アート展での活性化を図ろうとしているが、そこにやはりモトコーファイブの面々は乗っ取りを謀って大暴れする。
この辺りになると、もう何が何やら判らなくて、予定調和にしてなるものかという執念すら感じられ、決して「そして皆は幸せに暮らしましたとさ」という昔話風大団円にはならないようだ。
でも、それでも、残された4人はそれぞれに痛い部分を再確認したのだけれど、でも、最後は前を向いて少し上を見上げて晴れ晴れとビールを飲んでいる。
カタルシスというよりは、少しだけ上を向けるようになった清々しさを感じる終わり方で、これはこれでありだよな、やっぱり「おめでたい」気持ちになれる舞台だったのかも、と思ったのだった。
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