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「下谷万年町物語」
作 唐十郎
演出 蜷川幸雄
出演 宮沢りえ/藤原竜也/西島隆弘
六平直政/金守珍/大門伍朗/井手らっきょ
柳憂怜/大富士/石井愃一 ほか
観劇日 2012年1月14日(土曜日)午後6時30分開演
劇場 シアターコクーン 2階B列9番
料金 10000円
上演時間 3時間30分(20分、10分の休憩あり)
シアターコクーンのリニューアルオープン記念の公演である。もっとも、リニューアルされたところは私はお手洗いしか気がつかなかった。舞台機構も新しくなっていたのかも知れない。
ロビーでは、パンフレット(2000円だと思う)やTシャツなどが販売されていた。
作の唐十郎が一部の公演に出演するようなのだけれど、私が見た回には登場していなかった。ちょっと残念である。
ネタバレありの感想は以下に。
何というか、一言で言って「猥雑」という感じの舞台だった。
昭和23年、浅草近くにあった下谷万年町が舞台である。そこには、男娼たちが集まって暮らしており、上野に視察に来た警視総監の帽子を男娼達の一人がはたき落とし、男娼の一人と暮らしていた藤原竜也演じる洋一がその帽子を持ったまま闘争している。
西島隆弘演じる、何故だか万年町に出入りしている文ちゃんと呼ばれる中学生の少年が、男娼の一人から洋一を探し出すように言われている。
洋一と文ちゃんとの間には「6本目の指があった」という共通点がある。
物語の始まりはここである。
そして、時間を行ったり来たり、ひょうたん池という池の水面を出入り口として別世界とも行ったり来たりしつつ、お話は常にこの「警視総監の帽子」に戻って来ているように思う。
というよりも、このお話に1本筋を通そうとすると、というか、通っているのだと考えようとすると、どうも警視総監の帽子は、そのお話を結ぶ大きな結節点の一つであろうと思う。
舞台の前方には池が作られていて、最前列の客席には水よけのビニルが配られていたようだ。
洋一の登場がそもそも池の中からだし、登場人物たちは、景気よく水を刎ね散らかし、水に倒れ込む。
舞台後方に作られた百間長屋の窓からは男娼達の影が蠢いていて、やっぱり、舞台上にある全てのものと人が力一杯猥雑である。
池で出会った洋一と文ちゃんと池を覗き込んで話しているうちに、突然、洋一が池に潜ってしまい(池の深さが膝くらいしかまでしかないのは判るのに、どうやっていたんだろう)、浮かび上がってきたときには、男装の女性を一人腕に抱えていた。
彼女が、宮沢りえ演じるキティ・瓢田である。
2幕になると、池には蓋がされ、そこは洋一の家のようだ。
何が何だか判らないうちに、洋一と文ちゃんとキティ(「キティ」というのが姓で、「お瓢」と呼ばれていた、という設定らしい)の3人で「サフラン座」という劇団を立ち上げることになり、池の底の座に出向いて合同公演を申し込んだ、らしい。
キティは、3年前に空襲の中を演出家であったもう一人の「洋ちゃん」と一緒に逃げ、ひょうたん池で待ち合わせをしようと決めていたらしく、もうこの辺りから、3年前と、今と、今のひょうたん池の底との世界がもうランダムかつ忙しなく現れたり消えたりして(それは、登場人物達が行ったり来たりしているというよりは、世界の方が現れたり後ろに引いたりしているように見える)、私には物語を追うことはできない。
池の底の劇場では地上の万年町の警視総監の帽子強奪事件を上演しようとしていて、そうなると池の底と池のほとりに同じ登場人物がいることになる。
3年前も今も池の底でもキティは女優で、自在に行ったり来たりしている。
今の彼女たちの劇団は「サフラン座」だけれど、3年前、キティはヒロポンの打ち過ぎで病院のサフラン病棟に閉じ込められていたらしい。
3年間、キティが探し続けていた演出家の洋ちゃんは、空襲で足を失い、つい最近亡くなったという。
多分、この舞台は筋を追うのではなくて、この猥雑でぶっ飛んでいる世界に身を委ねるのが正解だと思うのだけれど、つい、起承転結を求めてしまう私の頭にはクエスチョンマークが次々と浮かんで来てしまう。
金守珍演じるキティにつきまとって「姐さん」と呼ぶ男が、実はキティが探し続けていた演出家の洋一の弟で、でも、彼がどうして今万年町にいる洋一を殺さなくてはならなかったのか、それすら私には判らないのだ。
宮沢りえの男装の麗人はよく似合う。ただ、台詞のときよりも歌のときの方が声に力がなく(喉を痛めていたのかも知れない)、そこに力がないというのは何だかとても勿体ない感じがする。
西島隆弘の文ちゃんは、そこだけ普通な感じと、その普通の純情少年の中に潜む冷酷さがちらっと現れる感じがいいと思う。猥雑な舞台の中で、そこだけすっくと目立つ。
藤原竜也は、やっぱり藤原竜也で、きっとその確固とした存在感の寄って立つところは声と抑揚なんじゃないかと思う。それを格好良くも情けなくも感じさせるところが「らしさ」である。
猥雑な感じをとことん遊ぶ、という舞台だったと思うし、2階席からオペラグラスも使いつつ見ているとなかなかそういう感じにはなりにくいのだけれど、こちらももっと遊べたら良かったのになと思ったのだった。
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コメント
あんみん様、コメントありがとうございます。
あんみんさんの興奮振りが伝わってきますねー。
公演を重ねてきての変化もあったでしょうし、前方の席ということで迫力も違ったようですね。羨ましい!
C列だと、あれだけ激しく池に倒れ込んだりの連続でしたら、水しぶきがかかったりもしたのではないでしょうか。
私の印象だとあんみんさんが得られたほどの「熱」はどうしても残っていないので、やはり羨ましいです。
投稿: 姫林檎 | 2012.01.31 23:17
こんばんは、週末にC列下手で観てきました!
もう当然ながら2階席とは迫力違いで、宮沢りえの熱演に圧倒されました。
今回の方が声が更にカスレがちでしたが
2幕目の服を脱ぎ捨て、スリップ1枚になる所で
背中一面汗びっしょりで、注射器を太ももに打ち付ける所では
その痕跡で痣だらけでした。
キュートさ、キラメキが歌の出来なんか吹っ飛ばします。
西島君も藤原竜也がかすみそうな勢いが有り。
時々見せる暗い目つきも良く、気負いも無く、柔軟性に富んでますよね。
藤原竜也はちょっと半端な使われ方の気がしますが...。
あれから「お勉強」して臨みましたが、
『姐さん』の白井の役回りだけがどうしても理解不可です。
でもわからないなりにも、楽しんでしまえ!と割り切り
とても満足して心からの拍手を送りました。
あと幕間に見学したら、潜水夫みたいな人が池にいました。
投稿: あんみん | 2012.01.31 00:59
あんみん様、コメントありがとうございます&遅ればせながら、新年あけましておめでとうございます。
あんみんさんも「下谷万年町物語」ご覧になったのですね。
もう一度ご覧になるとは羨ましい。確かに1回ではよく判らない部分が盛りだくさんでした(笑)。
判らないよ〜と思いつつ、その判らなさを楽しめばいいのかな、とも。
前方の席でご覧になるときっと迫力が全く違うのでは。
どうぞ楽しんでいらしてくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2012.01.15 20:58
こんばんは~♪
私も同じような席で、オペラグラス片手に先週観てきました。
話の筋がなかなか理解出来ず、特に六本指と注射器のくだり。
あとで調べたら唐さん特有のアイテムなんですね。
それでも『お芝居、観ました!』感満載でした。
舞台の隅々まで目が追いつかなく、忙しい鑑賞でした。
タンゴのリズムが耳に残りますね。
まぁ、あんなに池に派手に倒れこむ必要が有るのか疑問ですが(笑)。
藤原さんが耳をトントンと水抜きしてましたよ。
1幕最後の池からキティが抱きかかえられて、出てきたところ。
思わず息を飲むほど美しかったです。
歌は声量が無く、音程も不安定でやや残念でしたが、
雰囲気は有りましたね。
なにより六平さんの抜群の存在感!
居ると居ないとでは全然違う。
西島さんはダンスされてるから動きが良く、二人羽織でセンスを感じました。
1回では理解出来ないし、感想をまとめるのも難しいお芝居だと思います。
ラッキーなことに前方席が取れているので、月末にもう1回観てきます。
投稿: あんみん | 2012.01.15 19:49