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「まほろば」
作 蓬莱竜太
演出 栗山民也
出演者 秋山菜津子/中村たつ/魏涼子
前田亜季/大西風香/三田和代
観劇日 2012年4月6日(金曜日)午後7時開演
劇場 新国立劇場小劇場 D1列6番
上演時間 1時間45分
料金 5250円
私にしては珍しいことに、当日券で芝居を見に行った。
ここしばらく芝居を見ていなかったので、半ば中毒症状を感じたためということもある。
でも、劇場に行ってチケットがなかったらショックなので、昼間のうちに電話で予約・決済をしておいた。
ネタバレありの感想は以下に。
今ひとつ自信がないのだけれど、蓬莱竜太の書いたお芝居を観るのは多分初めてだったと思う。
・・・と思って調べてみたら、青山円形劇場の「ポテチ」を見ていたことに気がついた。いずれにしろ、初めてではないにしろそれに近いし、主宰する劇団であるモダンスイマーズはまだ見たことがない。
どんなお芝居なのか、全く見当がつかないまま見に行った。
女優6人の芝居、秋山菜津子と三田和代が出演する、栗山民也演出というのは、私にとってはかなり惹かれる要素なのである。
舞台は(恐らくは)広島のどこか、「本家」「小作」という言葉がまだ残り、男だけがかつぐ御輿がクライマックスの祭が今も行われている地域の、その「本家」である。
今は祭の真っ最中で男たちは出払い、家には女たちだけが残っている。というか、この家には恐らく、普段は三田和代演じる「お母さん」と中村たつ演じる「おばあちゃん」しかいないのではなかろうか。そこに、割と近所の住んでいる魏涼子演じる次女のキョウコが、大西風香演じるマオという女の子(どうもこの子はキョウコが付き合っている相手の娘らしい)と、秋山菜津子演じる長女のミドリ、ついには前田亜季演じるキョウコの娘のユリアまでが帰ってきているらしい。
それぞれ「祭だから」と説明しているけれど、どうやら問題を抱えて逃げ込んできたというのが本当のところのようだ。
4世代6人の女を集めて何が始まるかといえば、出産といえばいいのか、妊娠といえばいいのか、話は徹頭徹尾「女の生理」というところから離れない。
旧家の本家に嫁いだ母親は「本家の跡継ぎを得なければ」という発想から一歩も出ることができないし、「ウワサになっては困る」「恥ずかしい」という感情が激しく強い。夫は何も言わないようだし、姑に当たるおばあちゃんも飄々として特に何も言わない、というよりは、「そんなにがんばらなくてもいいのに」と思っているらしいのに、一人で汲々としている。
その「自分の発想と都合から一歩も出られずに娘達に押しつける」母親が、三田和代が演じると微笑ましい存在に見えてきてしまうから恐ろしい。長女に「お前が東京に行ったのは婿を連れて帰ってくるためだろう」というオソロシイ台詞を言い、次女に「小作と結婚することは許さない」と時代錯誤なことを言い、なおかつここまで笑いをもたらせる女優が他にいるだろうか、というものである。
「確かにいるよね」という笑いなのか、「オソロシイことを言う人だな」という笑いなのか、その辺りは受け取る人によって違うのだろうけれど、とにかくこのお芝居の笑いはかなりこのお母さんが生んでいるように思われる。
それは脚本の造形がステレオタイプすぎるということでもあるのだろうけれど、芝居を判りやすくしていることも確かだ。
長女は母親に結婚を迫られまくって、ついに「閉経した」と告げ、さらに母親はパニックである。
次女の娘も、「妊娠している」「相手には妻子がいる」と告げて、こちらも大パニックである。
物語というか騒動は、当然のことながらこの2人を中心に進む。そこをかき回すのはもちろん母親である。孫には「男達が帰ってきたらしばらく2階にいなさい。噂になる。」と言い放ち、閉経かもという長女には「そんな筈はない」と言い続け、妊娠しているかもという話になると「誰でもいいからその相手と結婚しなさい」と真顔で言いつのる。
孫の方は「生むかどうか迷っている」と泣き伏すし、長女は「たとえ妊娠していたとしても生まない」と宣言する。
もう、無茶苦茶である。
妊娠・出産というのは、周りの状況というか心持ちというか、そういったもので随分と様相や位置づけが違ってきてしまうものなんだなと思う。このお芝居では逆に「それはおかしいでしょう」と言っているのかも知れない。
でも、笑わせられながら、でも男が描いた女の生理の芝居を見て、でも終わり方がよく判らなかったというのが正直なところである。
産みたくないと言い続ける長女に、最後には「家のことなんてどうでもいい。でも、本当にこれがラストチャンスよ」というようなことを言った母親には、母親自身の呪縛も解け、長女にあったかも知れない呪縛も解き、よかったよねと思えた。
でも、「女が御輿を担いではいけない理由」をおばあちゃんが語り、そこにまるで女神が降臨してきたかのような一瞬があり、長女と孫娘は同時に「赤ちゃんが動いた」と表情を和らげ、次女が連れてきた女の子は「女の子」になったことを告げる。
そこで幕なのである。
いや、何も解決してないでしょう、まだ!
そういう風に大声で言いたい気分である。
おばあちゃんが一言だけ「ここからも雲が見えた」という台詞で示唆した原爆の影響も、長女が「私は気にした」と受けただけで流されてしまう。長女のお腹の子の父親が誰か実は判っていないし、その男が長女と結婚するかどうかも不明である。次女の娘がシングルマザーとしてどうやって生きて行くのか見通しは立っていないし、次女自身の身の振り方だってなし崩しだ。
そういうことを全てすっ飛ばして「やっぱり産もう」みたいな終わり方なのは何となく釈然としないのである。しかも、その契機が女神様で本当にいいのか。ギリシャ悲劇ではあるまいし、と思ってしまう。
笑って楽しんで考えたお芝居だったけれど、でもやっぱり、最後が釈然としないのだった。
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コメント
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
えーと、「まほろば」はつまるところお気に召したということでいいんですよね?(笑)
チケット代が「高い」ということについて、やっぱり結婚した友人が同じことを言っていました。「当たり前だけど、2人で行くと、チケット代が2倍なんだよな」って。
この週末の遠征が楽しい観劇になりますように!
投稿: 姫林檎 | 2012.04.21 09:58
おとといかな、観てきました。うーん、あまり残らなかった劇ですね。某サイトでは通の方特に男性の方の評価が高いようでした。
後で男性が書いた?作品と知って、そう言われればという気がします。女性の生理というデリケートな問題、女性だったらあんなには軽く扱えないでしょうね。でもそれらを軸にホーム・コメディ風にしたかったのなら、それは成功していると思います。何しろ楽しいしおかしい、こういう笑いって良くありませんか?
今回は地元ということもあって連れと行ったんですが、特に感想もありませんでした。チケット代がペア券で1枚8000円と知って、「高い」と一言ありましたが・・・(苦笑)
さてさて明日からは遠征です!
投稿: 逆巻く風 | 2012.04.20 21:08
そうま様、コメントありがとうございます。
そして、初めまして、でしたよね?
なるほど、舞台で語られていたのは長崎の言葉だったのですね。
全く疎いもので、「このしゃべり方なら」という発想すら浮かびませんでした。
教えていただいてありがとうございます。
またどうぞ遊びに来てくださいませ。
投稿: 姫林檎 | 2012.04.14 10:39
今日拝見しました。観た後色々語りたくなる芝居ですね。
一つだけ、舞台は方言から長崎の方だと思いますよ。
完璧に九州北部の方言でしたので。
投稿: そうま | 2012.04.12 20:13
逆巻く風さま、コメントありがとうございます。
久々に同じお芝居を観ることになりますね。
多分、見る側の状況によって受け止め方や感じ方がかなり大きく振れるお芝居だと思いますので、逆巻く風さんの感想をぜひお聞かせくださいませ。
楽しんでいらしてくださいね。
投稿: 姫林檎 | 2012.04.08 10:31
機会があって観る予定です。あまり感動とかは期待しませんが、笑って楽しめる芝居のようですね。
投稿: 逆巻く風 | 2012.04.07 13:03