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イキウメ「ミッション」
作 前川知大
演出 小川絵梨子
出演 浜田信也/盛隆二/岩本幸子/伊勢佳世
森下創/大窪人衛/加茂杏子/安井順平
太田緑ロランス/井上裕朗/渡邊亮
観劇日 2012年5月25日(金曜日)午後7時30分開演
劇場 シアタートラム F列2番
上演時間 2時間15分
料金 4200円
立ち見が出るような勢いのお芝居だった。
ロビーでは、前作のDVDや上演台本等が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
イキウメの公演で、前川知大が演出を外れたのは初という前振りというか宣伝文句は聞いていた。演出を担当する小川絵梨子の名前は、私は多分、去年の読売演劇大賞で初めて見かけて、彼女の演出した舞台を見るのは初めてだと思う。
作・演出から作だけになったことで、あるいは、演出家が変わったことで、どんな風になるのだろうという興味もあったし、そもそもイキウメの舞台が好きだということもあって、これは見なくてはと思っていた。
そういう先入観があったためかも知れないのだけれど、いつもとはちょっとテイストが違う気がした。
イキウメの作品は設定としてSFっぽいというイメージがあるのだけれど、これまでは、そのSFっぽさが肯定されていたところ、この作品では否定されているというのか、それは妄想であるという側の視点に近い感じがした。
荒唐無稽な設定を、「ここはこういう世界」と全力で肯定するお芝居と、荒唐無稽な設定を「みんなそんなことあるわけないじゃんと思っている」という前提がある世界との差といえばいいんだろうか。
「散歩する侵略者」では宇宙人が肯定されて普通にそこにいたし、そういう世界だと思ってこちらも見ていた。
「図書館的人生」でも、吸血鬼は普通にそこにいて、こちらもあの人は吸血鬼と思って見ていた。
今回は、「世界の声が聞こえる」という登場人物に対して、「ホントは聞こえていないんじゃないの」とか「新手の宗教か?:」とか、そういうスタンスで私は見ていたと思う。それは多分、そういう風に作ってあったからだと思うのだ。
そこが違う、ような気がする。
ただし、これが作・演出が変わったことによる違いなのか、単純に作品として違うのかは判らない。
始まりは、道を歩いていたエリートな弟の頭に石がぶつかったことである。
見舞いに訪れた、ここしばらく会っていなかった叔父が、意味なく窓辺で手を振ったり、意味なく石を窓ガラスに向かって投げたりする。
弟も何故だかつい叔父の真似をする。
「自分にしかできない」と思っていた仕事はあっという間に同僚や後輩の処理するところとなり、弟はヒマを持て余してこの叔父にまとわりつくようになる。
この叔父は、若者を集めて「世界の声を聞け」「衝動に従え」と説く。
エリートの弟に期待していた父親は、妻に「あいつ(弟からみれば叔父のこと)と付き合うなと言え」と命じる。
エリートではないでも父親の経営する工場を継ごうとしている兄とエリートの弟の物語なのか、ひたすら現実的なでも押しつけがましい感じの父親と昔から「ちょっと変わっていた」弟との物語なのか、世界の声を聞く叔父の物語なのか、この叔父から「世界の声を聞く」ことを教えられてどんどん違う方向に解釈していった若者の物語なのか、エリートの弟と比べられて育った長男の自立の物語なのか、夫の圧迫から解き放たれようという妻の物語なのか、偶然に弟が窓で手を振ったことで自動車事故を起こした女の物語なのか、叔父たちが「師匠」と呼ぶホームレスの男の物語なのか。
いくつかの人間関係の軸があって、その軸がさまざまに取り出されて行く。
舞台セットに物干しのような棒が建てられていて、その棒の位置を変えることで場面転換していたからそういう「軸」なんていう連想が浮かんだのかも知れない。
そして、いつもよりも「明らかでない」という気がする。
判りにくいというのは言い過ぎだと思うのだけれど、スッキリハッキリとはしておらず、割り切っていないといえばいいんだろうか。
いつもは完全に今この現実と切り離したところで極端な例を出して「さてどうでしょう」と言っていたのが、今回は、今この現実かもしれないところで結論というか条件そのものから「さてどういうことなんでしょう」と提示している感じといえばいいんだろうか。
舞台を立体に使うセットの感じやあて書きされている感じ、全体から受ける印象はいつもとそんなに大きく変わらないという気がする。
でも同時に、ここまで来る道筋はいつもとはかなり違っていたんじゃないかなという感じもする。どこからそういう印象が生まれてくるのかはよく判らないのだけれど(だから単なる私の思い込みかも知れないのだけれど)何故かそういう感じがする。
いずれにせよ、えらく集中して見てしまった。
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コメント
あんみん様、コメントありがとうございます。
あんみんさんは土曜日に行かれたのですね。
でも、あらら、中盤に眠気が差してしまいましたか・・・。やはり演出家の違いで、前川知大演出の方があんみんさんに合っていたということでしょうか。
あるいは、前回公演は劇団としても相当大きなプレッシャーがあったでしょうから、その緊張感が舞台にもいい影響を与えていたということかも知れませんね。
シレンとラギ、ご覧になったのですね。
私も来月を楽しみに待ちたいと思います!
投稿: 姫林檎 | 2012.05.28 23:50
こんばんは。
土曜の夜公演で観てきましたよ。
前回の『太陽』が初イキウメだった私が観て、
前に感じた研ぎ澄まされた感が無くて、
え~、実は中盤に眠たくなってしまいました...。
(場面転換のスピーディさも無かったし)
2組の相容れない兄弟の話なのかなとも。
ホームレスの師匠の意味が最後までよくわかりませんでした。
う~ん、なんとも言えずです。
秋にまたイキウメを見に行く積りです=リベンジ(笑)
一緒にシレンとラギも観てきましたが、姫林檎さんのレポまで待っていますね。
投稿: あんみん | 2012.05.27 23:38