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2012.06.10

「シレンとラギ」を見る

劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎「シレンとラギ」
作 中島かずき
演出 いのうえひでのり
出演 藤原竜也/永作博美/高橋克実/三宅弘城
    北村有起哉/石橋杏奈/粟根まこと/高田聖子
    橋本じゅん/古田新太/他
観劇日 2012年6月9日(土曜日)午後6時開演
劇場 青山劇場 1階F列5番
上演時間 3時間20分(20分の休憩あり)
料金 12500円

 意外なことに空席がちらほらあった。どうしてだろう。

 ロビーでは、パンフレット(2500円)や公演グッズ、過去公演のDVDなどが販売されていた。黒地に桜を散らしたTシャツ(2500円)にちょっと心惹かれたけれど、購入しなかった。

 ネタバレありの感想は以下に。

 「シレンとラギ」の公式Webサイトはこちら。

 いつもの音楽が流れ、ちょっと前の発車ベルのような音が鳴り響いて幕開けである。
 ライトが舞台と客席を照らし、動き、回り舞台がゆっくりと回り、舞台上では宴会の真っ最中、客席から藤原竜也演じるラギが登場して物語が動き出す。
 相変わらず派手で「ハレ」な始まりで、これだけでぞくぞくするというものだ。

 南と北、北の国主は「将軍」と言われるとお隣の国のことをイメージして最後まで見てしまったのだけれど、見終わってから公式サイトを見たら、モチーフは日本の南北朝時代らしい。そう言われても「でも、日本の南北朝時代って、天皇と天皇がそれぞれを担ぐ武士集団とともに対立してた時代なのでは? その状況より・・・」と思ってしまうのだけれど、とにかくモチーフは南北朝時代で、そう言われてみれば北の実権を握っている人物の役職は「執権」だったりするのだ。

 粟根まこと演じる執権モロナオが、三宅弘城演じる虫以外には何にも興味を持っていなさそうなギセン将軍を傀儡に政をほしいままにしているのが北の現状だ。
 そのモロナオの下で一見従順そうに侍の頭領を務めている古田新太演じるキョウゴクに対して,息子のラギは不満を隠せない。
 宴の最中に将軍に対して刺客が放たれるが、それを防いだとはキョウゴクに呼び戻されていた永作博美演じるシレンだった。このシレンは、20年前に南に潜入して教祖である高橋克実演じるゴダイの暗殺に成功した狼蘭族の一人だ。

 この狼蘭族は、「蛮幽鬼」にも出てきていて、中島かずき、いのうえひでのりにとってもお気に入りといっては語弊があるかも知れないけれど「描きたくなる」素材のようだ。もしかして、これからも作品の中心ではないかも知れないけれど、共通の背景として重要な脇役として出没するのではなかろうか。
 暗殺に成功していた筈のゴダイが再び現れて教祖として説教しているという話が伝わってきたことから、シレンに再び暗殺の司令が下る。シレンは最初は躊躇していたものの、結局、再び南に赴くことになり、自ら申し出たラギも同行することになる。
 南を支配している教祖暗殺なんてどう考えても危ない仕事に行きたいという息子をあっさり行かせる父親、という辺りですでに空気は不穏なのだ。
 古田新太演じるこのキョウゴクが、本当に掴みどころのない感じで、最初の頃は「悪役?」ということばかりが気になってしまった。私は勧善懲悪好きなのだ。

 南に向かったシレンとラギは、河野まこと演じるヒトイヌ(このヒトイヌが、登場するたびに一々やけにムードたっぷりな音楽に乗せてサングラスをかけハードボイルドにキメようとしてみせるのが可笑しい)の協力を得て、20年前にゴダイの愛妾だったナナイとその召使いとして教団に入り込む。
 実はゴダイは20年の眠りから覚めたものの完全に「いい人」になっていて、20年前に持っていた教祖としての凄みなど全く失っている。そのゴダイを元に戻せないかと、20年前に姿を消したナナイが探されており、暗殺を疑われていた訳ではないものの、ゴダイの妻や現在教団の実権を握っている者どもからシレンが邪魔な存在なのは相変わらずだ。
 しかも、シレンは20年前にゴダイの子供を産んでいるらしい。

 一方、どういう訳だか(その理由は描かれないのだ)、北ではモロナオが突然にキョウゴクを排除しようとその屋敷を襲い、キョウゴクと石橋杏奈演じる娘のミサギは逃げようとするが捕捉され、しかし、ちょうど国境まで来ていた橋本じゅん演じる南の武闘派であるダイナンに救われる。
 ダイナンはキョウゴクのことが「大好き」らしいのだけれど、そこはあっさりとキョウゴクにあしらわれ、しかし、ダイナンはキョウゴクに対して、南に向かってダメになったゴダイとその教団を乗っ取り、さらに北を攻めてこの国を一つの国にしようと持ちかける。
 ダイナンもキョウゴクも、その昔はゴダイの下で働いていた者同士らしい。

 えーと、人間関係をそんなにゴチャゴチャにする必要がありますか? とこの辺りから混乱を始めていた私の頭なのだけれど、この先もさらに混迷を深めていく。
 南を乗っ取るのに何故かまずは教団に入り込むことにしたらしいキョウゴクは、自分が潜り込ませた刺客であるシレンとラギのことをあっさりと教団に伝え、彼ら2人を討ち取ろうとする。キョウゴクとダイナンとともにゴダイに仕えていて教団に残った北村有起哉演じるシンデンだけは2人を庇おうとするけれど、一番容赦ないのがキョウゴクで、シレンとラギは何とか逃げ出す。

 キョウゴクを追い落としたモロナオは、しかし意外に武術に長けたギセン王を暗殺することができず、しばらくはこのままの状況を続けようと諦めている。
 命からがら抜け出したシレンとラギは、ヒトイヌの協力を得て隠れ、「自分は人殺しだ」「毒使いの家系に育った自分は子供の頃から毒を少しずつ飲まされて毒の効かない体になっている」「そういう育ち方をしたから親はいなかったし、愛するということは殺すということに等しい」等々と語るシレンを説き伏せたラギは、子供の頃から持っていたらしい憧れを形にする。

 キョウゴクたちはシレンとラギをおびき出そうとゴダイの花見を企画し、罠と知っていてシレンとラギはその場に赴き、2人を殺そうとしたキョウゴクは実は覚醒していたゴダイに阻まれ、シンデンが昔キョウゴクに預けたシレンの子供が実はラギだったということが明かされる。
 シレンとラギは、キョウゴク言うところの「畜生道に落ちたか」ということになる。
 動揺するシレンは斬られて川に落ち、ゴダイはキョウゴクにお前は自分ができなかったことをやってしまったラギに嫉妬しているんだ、ミサギの心を奪ったラギに嫉妬していたんだと突きつけ、一方のラギはゴダイに斬りかかる、というところで一幕は幕である。
 いや、もう少し色々とあったような気もするのだけれど、私が受け取った「出来事」はこんな感じだ。
 どう考えても嫌な奴のゴダイが、何故か「人物」に見えてくるのが不思議である。そして、やっぱりこうした凄みのある人物を演じたときに高橋克実は迫力がありすぎだ。

 二幕の最初は、いきなりラギが「ロクダイさま」と呼ばれて教祖として登場する。側にはミサギが寄り添い、でもロクダイの様子は激しく荒れている。
 一幕で死んじゃったら話にならないだろうと思っていたシレンは悪夢にうなされながらもやはり生きていて、彼女を助けたのはゴダイの妻である高橋聖子演じるモンレイとその娘だったらしい。彼女たちは、シレンを切り札に起死回生一発逆転を果たそうとしているのだからたくましい限りだ。こういうたくましい人物が登場するのが新感線の芝居のいいところだよなー、と思う。

 ロクダイの「愛は殺し合いだ」として北に信者を向かわせる方針に異を唱えて追い出されたシンデンは、モンレイを見張っていて存在を知ったシレンの前に現れる。
 ミサギを失ったキョウゴクはどこか一本正気を失っていて、ここも実は今ひとつ判らなかったのだけれどダイナンの説得に何故か触発され、ダイナンを殺してその首を手土産に北に戻ることを決める。北に戻ったキョウゴクは、ギセン王を騙して(といえばいいのか・・・)モロナオたちやギセン王の母を殺させ、南に進軍させる。
 えーと、だからどうしてそうなるの? と思う。まさか、ミサギの体だけでも蝋で固めて自分のものにすること「だけ」が目的なんじゃないよね? と思う。

 ラギが無茶苦茶な教義を推し進めていたのは、シレンが来ることを待っていたかららしい。どちらも死のうとして死ねない、そう思い込んでいる不幸な母子である。
 そこに毒薬が仕込まれた爆弾が降ってきて(南北朝時代にそれは無理なんじゃないかと今更ながらツッコミを入れたくなるのだけれど)、毒消しを飲んだキョウゴクとギセン王が現れる。ミサギやシンデン、信者達はバタバタと倒れていくけれど、毒消しの血を持つシレンはともかく、ラギも全く自由に動けるようだ。
 その中で、ラギはキョウゴクを倒し、斬られた傷からの血によってミサギが息を吹き返したことに気がついたシレンは、ラギの血をミサギに飲ませることで生き返らせる。
 これで、キョウゴクが企んだ「南の人間は全滅だ」という事態は防げるのだ。

 ギセン王は「キョウゴクも死んだしもう王様辞めてもいいよね」と去って行く。「そうしなさい」と母親のように送り出すシレンだけれど、おいおい、でもこの毒薬を南にバラ撒いた責任は君にもあるんじゃないのか、そこはスルーなのか、とツッコみたい。
 そして、シレンとラギは、「人間として」やることがまだあると、自らの血を人々に分け与えるためにその場を去って行く。
 そこで、幕である。

 幕となったとき、「カタルシスはどこ?!」と心の中で叫んでしまったのは私だけなんだろうか。
 何だか、スッキリしない感じなのだ。
 張り巡らされた伏線がまだあちこちに残っている感じというのか、伏線もなく登場人物が衝動で動いていた感じというのか、ハッピーエンドではなかったためなのか、「理由」がはっきりしなかったせいなのか、単純に私の理解力がないせいかも知れないのだけれど、何だかピタっと来る感じがない。
 面白かったし、続きが気になって思わず前のめりになっていたし、「ケレン」を十分に満喫したのだけれど、いつもだったらあともう一つあったような・・・、というモヤモヤ感が何故か残った。
 もう1回見るので、そのときにはまた感想が変わるかも知れないと思う。

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コメント

 蘭世さま、初めまして&コメントありがとうございます。

 そうなんですよね。
 とっても楽しく集中して見た舞台なんですが、「でも、もっとできるよね!」と思ってしまっている自分がいます。我ながら、贅沢で我が儘な観客だと思いますが(笑)。

 今は2回目の観劇で舞台と自分の感想がどう変わるのか、楽しみにしています。

 またどうぞ遊びにいらしてくださいませ。
 どうぞよろしくお願いいたします!

投稿: 姫林檎 | 2012.06.13 22:55

はじめてコメントさせていただきます!
私も同感です。キョウゴクのミサギに対する感情が私には伝わらなくて、キスしようとしてるとこで初めて え!? そっち!?と分かったので。それに キョウゴクが淡々としすぎてストーリに絡んでいってないような印象でした。つたない個人の感想ですが
 でも、楽しめた舞台でした
シレンがにぎりっぺ されるトコが個人的にツボでした

投稿: 蘭世 | 2012.06.13 22:34

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