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朗読「宮沢賢治が伝えること」
演出 栗山民也
出演 白石加代子/段田安則/野村萬斎
マリンバ演奏 中村友子
観劇日 2012年6月1日(金曜日)午後7時開演
劇場 世田谷パブリックシアター 1階H列28番
上演時間 1時間15分
料金 4800円
公演中止になった「リアルシング」の代わりに(というのはあまりいい言い方ではないとは思うけれど)企画された朗読の公演である。シス・カンパニーの俳優さんを中心に38人が女優1人男優2人の3人で宮沢賢治の物語や詩などを朗読するという趣向だ。
ロビーではパンフレット(800円)が販売されていた。
ネタバレありの感想は以下に。
舞台上には大きな机があって、その前に本が沢山ばらばらと積まれたり置かれたりしている。
奥にはマリンバが置かれ、その大きさから結構な存在感を放っている。
照明のライトの一部が舞台上に置かれていたり、何というか「途上」という感じの舞台セットである。
机の上にはペットボトルの水が3つあり、三脚の椅子がある。
最初にマリンバ奏者が、そして男優2人が、最後に白石加代子が登場し、舞台は整う。
舞台の背後に、1896年に三陸沖地震があったこと、その都市に宮沢賢治が産まれたことが文字で表示される。暗闇に沈んでいる俳優3人は、野村萬斎は見上げ、白石加代子と段田安則は黙祷するように俯く。
3人の衣装は、素朴な感じだ。少なくとも、華美なところは全くない。野村萬斎は後ろにカウボーイハットのような帽子を背負っている。
本当に1ページにも満たないような短編もあり、「注文の多い料理店」などの有名な物語あり、内容としてはバラエティに富んでいたのだと思う。
何というか、芸達者な3人の芸に見ほれて、ふと気がつくと朗読されていた内容が頭に入って来ていないことが度々あった。申し訳ない限りだ。読まれているのを聞いていて、言葉が頭の中ですぐに感じに置き換わらずに意味を取り損ねたり、「何か難しいことを言ってない?」と阿呆な私が考えている間に終わったりしてしまっていたのだ。
タイトルを読むときには必ず客席の方を正面から見る段田安則、ご自分の百物語のときとは台本の開く向きが逆のためかときどきMどかしそうにしている白石加代子、読み始める前に目をくるりと回して面白がっているかのような表情を見せる野村萬斎。
我ながらシブイ配役の日を衝いたと思っていたのだけれど、シブイだけでなく大正解である。
やはり、力強い読み手の読む物語は、その力を何倍にも増している。
白石加代子も野村萬斎もくっきりと自分の世界を持つ俳優で、そこに寄り添うように支えるように段田安則の語りが入るとやはり締まるし、まとまった朗読として機能し始めるように思う。
やはり、物語の方が耳に入って来やすい。
「注文の多い料理店」は、男2人を男優陣が、地の文その他を白石加代子が読む。
聞いているうちに、実は「私はもしかして注文の多い料理店をまともに読んだことがないんじゃなかろうか」という疑問がふつふつと湧いてきたのだけれど、それは置いておくとして、こんなに笑えていいのかしらと思ってしまう。
ドアをひとつひとつ開けていき、そこに貼られている張り紙の内容を伝えるときのいかにも可笑しみのあるもの言い、そして、最後に客2人を待ち受けていた「モノ」を演じるときのいかにもおどろおどろしげな様子、男優陣お二方、特に野村萬斎は堪えきれずに肩を揺らしている。
「芸」だ。
そういう感じだ。
そして、他の女優さんは一体どんな感じで読んだのだろうと気になる。
ずっと背中に背負っていた帽子を被り、立ち上がり、真っ直ぐ前を見つめ、読んでいるというよりはほとんど暗唱しているように、力強く読み上げられた「雨ニモマケズ」は凄かった。
あぁ、「雨ニモマケズ」というこの文章は、こういうことを言いたかったんだというのが、ズンと伝わって来たように思う。
一方、段田安則が読んだ「永訣の朝」は切ない。
力強いというよりも、こちらは段田安則と宮沢賢治が一体化しているかのようで、朗読を聞きながら宮沢賢治の姿が目に浮かぶようにも段田安則と重なるようにも思える。
宮沢賢治は1933年9月に亡くなっており、その年の3月、三陸沖地震が発生している。
その旨の文字が舞台背景に綴られ、3人の俳優が、見上げあるいは黙祷して舞台の明かりは落とされる。
最初、上演時間が1時間なんて短すぎると思っていたのだけれど、とても充実した1時間強だった。
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