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2012.06.24

「天日坊」を見る

コクーン歌舞伎 第十三弾 「天日坊」
脚本 宮藤官九郎
演出 串田和美
出演 中村勘九郎/中村七之助/中村獅童ほか
観劇日 2012年6月23日(土曜日)午後0時開演
劇場 シアターコクーン 1階K列21番
上演時間 3時間30分(20分の休憩あり)
料金 12500円

 ロビーでは通常のパンフレット(1500円)のほか、手ぬぐいなどいかにも歌舞伎座の売店にありそうなものが販売されていた。上演開始時間の関係か、あるいはコクーン歌舞伎のときに限って場内飲食可とされるためか、カフェの食べ物メニューも充実している。
 いかにも「祭り」な感じのロビーはコクーン歌舞伎ならではで、なかなか良い。

 ネタバレありの感想は以下に。

 シアターコクーンの公式Webサイト内、 「天日坊」のページはこちら。

 先代勘九郎が始めたコクーン歌舞伎を当代勘九郎が引き継いだということになるんだろうか。確かこれまでに体調を崩した先代勘九郎が出演しなかいコクーン歌舞伎もあったと思うのだけれど、今回は、主役も当代勘九郎が担っているし、第2期に入ったという印象がある。
 それは、脚本を担当しているのが宮藤官九郎だという点にも表れているのだろうし、笹野高志が出演していないということにも表されているようにも思う。少し寂しい感じもする。でも、白井晃の参戦(という感じがする)は嬉しい。

 この「天日坊」という歌舞伎の原作は今から150年余り前に書かれており、上演も145年ぶりのことになるのだそうだ。
 宮藤官九郎の脚色なのか、元々の原作がそういう造りになっているのか、お話全体として外連味たっぷり、どんでん返しが続き、お話も派手だし、派手にしようと思えばいくらでも派手にできそうな感じの物語である。
 舞台上に舞台小屋のようなセットを造り、最初のシーンで体を固定して顔だけ動かすいかにも人形振りの登場人物がいたり、お付きの者どもが頭というか首を小刻みに動かしたりして、「これは舞台上にある舞台小屋で演じられている文楽をお店しているんですよ」ということが告げられる。
 その舞台小屋の客が舞台上にいるわけではないので、さてこの二重構造のメリットは何だろうと考えてみると、書き割りの背景に小さな「小屋」を入れ替わり立ち替わりにすることで舞台セットの転換を早くしていることじゃないかしらという感じがした。最初のシーン以外は、いかにも人形振りな演技はなくなるのだ。

 中村勘九郎演じる法策はみなし児で、真那胡敬二演じる観音院という胡散臭い感じの俗にまみれた加持祈祷を行う坊さんに助けられ育てられ、17歳だったか18歳だったかになっているらしい。ちょっと気の弱そうな気のよさそうな「お坊さん見習い」である。
 その庵に、中村七之助演じる娘が「賊に追われている」と駆け込んだ辺りから話は動き始め、観音院が法策と白井晃演じる下男の久助を外に出して娘を我が物にしようとしたところ、実はその娘は盗賊であっさりと返り討ちにされてしまう。
 一報の法策は、片岡亀蔵演じる寺の家事を担っているお三婆さんのところに鮭と肴を届け、お三婆さんから実は彼女の孫は源頼朝のご落胤でそのお墨付きももらっているのだけれど、出産時に母子ともども亡くなったのだという話を聞かされる。

 ここで、今まで気の弱そうで気のよさそうな、青年と少年の狭間にいたような法策が、何ものかに取り憑かれたようになってしまうところがこの物語の第一の山場である。
 そういうキャラじゃなかったじゃん! と心の中で舞台上にツッコミを入れてしまう。
 法策は、お三婆さんを殺し、お墨付きを手に入れ、自分がその頼朝のご落胤になりすますことをあっという間に決意する。でも、何というか、決して一瞬にして身も心も鬼のようになったという感じではない。お三婆さんを手にかけながらも泣いているように見える。迷ってはいないのだけれど、吹っ切れてもいない。
 何だか逆に釈然としないような気がしてきてしまう。

 法策はそのまま逃げだし、途中の河原で行き会った小作の男と服を取り替え、取り替えた後でその男を殺して自分の身替わりとする。さらにその男が持っていた手紙が遊郭で評判の太夫の家族からのお金を無心する内容だと知るとそれも奪い取る。
 もっとも、その河原から逃げ出すときに久助とすれ違い、あっさりと法策の悪事を見破られてしまうところが最初からマヌケである。しかもその久助は旧友であった筈の男から「御前」などと呼ばれている。物語の最後はここで見えてしまうのだ。

 見えてしまうし、その見え方は概ね合っていたのだけれど、途中経過が実はさらに波瀾万丈である。
 中村七之助演じるお六もそうだったのだけれど、法策が道中で出会う中村獅童演じる地雷太郎という盗賊も実は平家の残党で、鎌倉幕府打倒を狙っている。
 その彼らとお墨付きと連判状が入れ違ったり、その入れ違った連判状のために罪人とされて舟で護送されているときに太夫と出会いお金を騙し取ったものの、太夫が身請けされた北条時貞の家老に見破られて海に飛び込んだり、濡れ鼠で辿り着いた寺が実は地雷太郎たちのねぐらの一つだったり、そこで開き直って悪事を語り尽くしたところ、法策の腕のあざから実は彼は木曾義仲の息子であると判明したり、判明したとたんに地雷太郎たちが法策の家来になってしまったり、とにかく書ききれないほどの波瀾万丈がテンポ良く語られて行く。

 それでも、というべきか、それだから、というべきか、一幕の最後に法策が「俺は誰だぁ」と書かれた紙を掲げて立っている姿は、とても切ない。
 「法策」は自ら殺し、お墨付きを失ったから「頼朝のご落胤」になりすますこともできない、この段階ではまだ自分が木曾義仲の嫡子であることは知らないのだけれど、たとえそれを知ったとしてもそれは誰かから「ならされた」ものであり、「正体」ではない。
 このお芝居の胆は、多分、ここにある。

 結局、法策は地雷太郎たちの助力を得て、天日坊と名を変え、美々しい衣装をつけて、源氏のもとへ「頼朝のご落胤である」と名乗り出る。鎌倉幕府を内側から腐らせ食い破り、木曾義仲の血筋の力で平家再興を果たすという壮大な計画である。
 最初のうちは上手く行っていたようだけれど、その詮議をする男が久助そっくりであったことから法策が動揺し、そして実は「そっくり」ではなく同一人物であったことが判る。
 法策が実は頼朝のご落胤であったとしても、論理上というか筋から言って全くおかしいところはないと思うのだけれど、何故か法策は自分が法策であったと看破されたところで全てを観念してしまう。
 それっておかしいでしょう、と思うのと同時に、(自分が何かを見逃したとか聞き逃したという可能性は遠く棚の上に放り投げた)この辺の詰めの甘さが長い間上演されなかった理由なんじゃないかとエラそうに思ったりしてしまった。

 正体を看破された彼らが、久助らの追求をかわそうと大立ち回りを演じ、この芝居の幕は閉じる。
 劇中、何度も法策とお六と地雷太郎の3人が見得を切るシーンがあって、この見得を切っていなかったら上演時間が15分は短縮されたんじゃないかという頻度と長さで見得を切る。
 それは格好良く華やかな目の保養で、話の筋としては全く必要ないのだけれど、「役者を見ているんだな」という気持ちになるし、何より楽しい。
 客席をよく使うのも、花道のないコクーン歌舞伎ならではで、これがあるから桟敷席の人気が高いんだろうなと思う。

 今回の音楽はジャズの生演奏で、最後のシーンではトランペットが10人くらい並んで哀愁漂うといった感じの曲を奏でていた。
 これが、えらく違和感がなくて驚く。歌舞伎とジャズというのは、存外、同類の世界なのかも知れない。

 脚本に宮藤官九郎を迎えて、出演者も若手中心、やっぱりコクーン歌舞伎第2期の幕開けといった感じの、派手でテンポ良く楽しい舞台だった。
 

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コメント

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 「天日坊」ご覧になりましたか。
 「内容はさておき」というところが若干気にかかりますが、でも楽しめたようで何よりです。

 勘九郎は、テレビとかで見るとあんまり思わないのですが、舞台で拝見すると勘三郎にそっくり! と思います。
 しつこく主張しますが、やっぱり役者さんは声ですよね!

投稿: 姫林檎 | 2012.07.17 22:12

日曜に観ました。
内容はさておき(笑)、ロビーの縁日が良かったです。夏祭り気分で・・・そういえばこの頃夏祭りもとんと御無沙汰。
勘九郎がさすが!彼がいなかったらこの芝居はなかったでしょうね。

投稿: 逆巻く風 | 2012.07.17 08:39

 あんみん様、コメントありがとうございます。
 そして、東京観劇ツアー、お疲れ様でした!

 先週の「天日坊」もご覧になっているのですね。ハードスケジュールですね。
 腰痛にはくれぐれもご用心を。私も低周波治療器が手放せず、他人様に言えるような立場でもないのですが(笑)。

 コクーン歌舞伎はロビーの雰囲気も楽しいですよね。
 抹茶パフェも気になっていたのですが、うーんという感じでしたか・・・。
 来年の勘九郎にも期待しましょう!(それから、パフェ系のメニューにも)

投稿: 姫林檎 | 2012.07.16 22:37

こんにちは、昨日(15日曜)に戻りました。
長時間移動やら、歌舞伎の4時間、その前のparco~演舞場を走ったおかげか、ただ今腰痛に苦しんでいます。

天日坊は6/30と千秋楽と観ることが出来ました。
6/30はいなかった大向こうさんが楽には見えて、
『っかむらやっ』と私の斜め後ろ(中2階)から掛けてました。
どんな方か振り向いてみたい気持ちもありました(笑)。
見得を切ってるのに声が掛からないと間が抜けますね。

※昨日の新橋では『おもだかや』に女性が声をやたらと掛けて、
フライング気味も有り、声が異質で違和感有りました。
男性の渋い声でないとな~。

天日坊、観てよかったです!
初コクーン歌舞伎のくせに、これはきっと区切りになる演目だろうなと思えました。
クドカンの悪乗り感も無く、なにしろ演じるほうがノリノリでやってるのが伝わってきました。
お三婆さんのたくらみが頭に浮かび、トランペットが始まって顔付きがわずかに変わり...。
あそこは良かったですね。
太郎とお六の『世話んなるぜ!』とか、『俺は俺だ、お前は俺か?』も笑わせてくれたし。
最後の殺陣のお六のバッタリの倒れ方は凄い!とうなりました。
あのトランペットの音色は頭に残りますね。
スピード感が有って楽しめたし、人気が有るのも良くわかりました。
そうめんも冷たくて美味しかった!抹茶パフェはう~ん...。
縁日みたいで楽しいですね。
ぜひ来年以降も絶対来よう!そして3つは食べよう(笑)!

投稿: あんみん | 2012.07.16 13:26

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 実は、「サンセット大通り」が気になっていたのですが、コメントなしですか・・・。残念。

 「オペラ座の怪人」は確かに観たことがあります。あるのですが、まず滅多に芝居で落ちない私が前半、気がついたらシャンデリアがするすると落ちてきた、という体たらくで・・・。
 連れて行ってくれた友人に「二度と一緒に四季には行かない!」と叱られて反省し、その後10年くらいは劇団四季を見に行くことはありませんでした。
 もしかしたら、私がミュージカルをあまり観ないのは、このときのことがトラウマになっていたのかも、と今思いました。

 「飛び加藤」も気になって迷ってやめたんです・・・。
 そんなによかったなら行こうかしらと思ったら、昨日で東京公演は終了していました。残念。
 きっと再演があるでしょうから、そのときを狙います!

投稿: 姫林檎 | 2012.06.27 22:31

これ観ます。あまり詳しく読んでいませんが (^^;

さて先週は東京で3本みてきました。相変わらずミュージカル中心で。

「サンセット大通り」 ・・・・ 特にコメントはありません (TT)

「オペラ座の怪人」
これはミュージカルをあまり観ない姫林檎さんも観たことあるんじゃないでしょうか?
パリのオペラ座って行ったことありますか?・・・姫林檎さんならあり得る ・・・
実はTVの映像で見てその規模に圧倒されて、劇より舞台装置がどんなんかな?と非常に興味がわき観に行った次第です。
舞台装置はそれほどでもなかったんですが、やはり歌は力強くいいですね。

そして 「飛び加藤」
クリエで時代劇って珍しいですね。そして涼風さんも出ているんです。
笑って楽しんでそして切ない気分にさせる・・・そんな舞台でした。機会がありましたら観てみたら?


投稿: 逆巻く風 | 2012.06.27 07:49

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