「ヘンリー六世 第三部」を見る

子供のためのシェイクスピア「ヘンリー六世　第三部」
作　ウィリアム・シェイクスピア～小田島雄志翻訳による～
脚本・演出　山崎清介
出演者　伊沢磨紀／佐藤誓／山口雅義／戸谷昌弘
　　　　若松力／大内めぐみ／谷畑聡／チョウヨンホ
　　　　佐藤真希／長本批呂士
観劇日　2012年7月14日（土曜日）午後6時30分開演（初日）
劇場　あうるすぽっと　K列3番
上演時間　2時間10分（15分の休憩あり）
料金　5000円

　ヘンリー六世の第三部とリチャード三世という、いわば「続きもの」の2本を交互に上演するという試みの、その初日である。
　行ってみたら、山崎清介は休演で（劇場には特に案内はなかったけれど、今サイトを見てみたら体調不良ということだった）、代演が長本批呂士となっていた。

　ネタバレありの感想は以下に。

　華のん企画の公式Webサイはこちら。

　ヘンリー六世は、多分、見たことがないと思う。・・・と思ったら、2年前に一部から三部まで一挙上演8時間超という公演を見ていた。
　そんなことはすっかり忘れていたし、舞台を見ているときにも全く思い出しもしなかったのだから、我ながら情けない限りである。
　ということで、全く結末を知らずに見たので（もっとも、リチャード三世は何度か見ているので、どちらが勝つかくらいはもちろん判っていたのだけれど）、何だかもやもやしてしまった。

　この「何だかもやもや」の原因のひとつが私の記憶力にあることは確かなのだけれど、もう一つ、ヘンリー六世という人にもあると思う。
　何だかはっきりしない人物なのである。
　善人なのか（多分、悪人ではない）どうかすらよく判らないし、よく「私の言うことを聞いてくれ」と言うのだけれど、ヘンリー六世の言うことを聞いても、何を言いたいのか、どういう人物なのか、さっぱり判らないのだ。
　大体、王の地位にありながら、「私の方が血筋がいいでーす」と言う人物が現れると「自分が死ぬまで自分が王でいられるなら、その後の王の地位はあなたにあげましょう」なんて言ってしまう王がどこの世界にいるというのか。
　ここにいた訳だけれど、その理由がよく判らない。悪意は感じられないのだけれど息子を嫌って王位につけないようにしようと目論んだわけではなさそうだし、羊飼いになりたいと日頃から言っていたのだから羊飼いになってしまえば良さそうなものを、どうして自分の存命中の王位などを要求するのか。
　この辺りの主役としてのあっさりさというか物足りなさを、今回のヘンリー六世は予言の才で補っているように見える。ヘンリー六世に一瞬だけ会って「王たるべき」と言われるだけで退場するリッチモンド伯など、リチャード三世への布石か、ヘンリー六世の予言を登場させるためだけに出てきたみたいに見えたくらいだ。

　話をもどして、この要求といえばいいのか譲歩といえばいいのか、とにかくこのヘンリー六世の発言をあっさり受け入れるヨーク公という人もこれまたよく判らない。
　そうは言うものの、そもそもこの「ヘンリー六世」は（少なくとも大筋では）史実に基づいているのだから、ここでシェイクスピアに文句をつけるのもどうかというところだろう。
　それに、この「ヘンリー六世」はシェイクスピアの処女作とも言われているそうだから、多少の「ん？」という文句は控えておくのが心得（？）というものである。

　今日が初日で、そして演出家でありリチャード三世を演じる予定だった山崎清介が休演し代役が立ったためなのか、台詞を噛んだり、ちょっと動きが合わない？ と思うところが、いつもより多めに感じられたのが残念である。
　しかし、代役に立った長本批呂士は、「醜い左手」に扮したシェイクスピア人形も含めて、見事に演じていたと思う。年齢からすると、ヨーク公の三兄弟の末弟なのだから、その若々しさが似合っていたともいえる。恐らくは、リチャード三世は若い頃からリチャード三世だったのだろうし、そういう「凄み」のようなものがもっと前面に出ると更にいいのになと思う。

　それにしても、ヘンリー六世の晩年、薔薇戦争当時というのは、本当に戦争ばっかりしていたのだなと思う。
　このお芝居も、こっちが勝ちどきを上げていたかと思えば、捉えた筈の敵の総大将に逃げられて攻められる、ということの繰り返しで、他にエピソードはないと言い切ってもいいくらいだ。
　そのためか、いつもよりも笑えるシーンがたくさん挿入してあって、子供の笑い声も響いていた。

　これはやっぱりリチャード三世とセットで見るべきだったかも知れない。