「其礼成心中」を見る
パルコ・プロデュース公演 三谷文楽「其礼成心中」
作・演出 三谷幸喜
出演 竹本千歳大夫/豊竹呂勢大夫/鶴澤清介/吉田一輔/ほか
観劇日 2012年8月17日(金曜日)午後7時開演
劇場 パルコ劇場 Z列27番
料金 7800円
上演時間 2時間
ロビーでは、「三谷幸喜初です」と銘打って、上演台本付きのパンフレットが販売されていた。
文楽なら、そうそう簡単に真似することはできないということがあるんだろう。確か、三谷幸喜はあて書きをしているということもあり、上演許可は基本的に出さない、台本も販売しないという方針だと聞いた記憶がある。
ネタバレありの感想は以下に。
文楽は一度見てみたいと思いつつ、テレビも含めて全く見たことがない。だから正直に言って、この舞台がどれほどいわゆる「文楽」のお作法を踏襲していて、どれほど「文楽」のお作法を無視しているのか、その辺りは全く判らない。
今更なことを書くけれど、「新しさ」というものは、古いもの、伝統的なものを知っていてこそ生み出せるし理解も出来るのだなと改めて思ったのだった。
こういう、私のような観客が客席に多いということは読めていたのだろう。入りやすい仕掛けはあちこちに施されている。
開演前に三谷幸喜人形が登場し(もちろん、文楽風の人形である)、上演に当たっての注意事項などを述べる。三谷幸喜の声がマイクで流れ、人形がそれに合わせて動く。
このために人形を作ってしまったのかと驚いたけれど、髪の毛はプラスチック風でぺたっとしているし、ちゃんと作られたお人形よりはずっと格安で作ることができたのだろう。
パルコ劇場の舞台はほぼそのまま使っていて、書き割り風の森の風景が描かれた背景に、その森が割れて奥から人形が登場したりする。
舞台奥の高くなった場所に、太夫と三味線の方が並び、横からするすると(イメージとしては)台車のようなものにのって登場する。その移動している車の部分はもちろん見えないし、ちょっと高めのセットがあるとお二方の顔しか見えなかったりもする。
その他の笛や太鼓は、舞台両脇の高くなった、御簾の奥といった場所にいる。こちらは姿はシルエットが見えるだけである。
三谷幸喜人形の髪はプラスチックのお面風だったけれど、実際に舞台に上がる主要人物達の人形は、(多分)ちゃんとした人形である。
「果たして普段の文楽はどういう感じなのか」が判っていない私には、どこが新しいということ、どこが画期的なのかということは判らない。
後ろの席の方が、私には?というタイミングで大笑いをされていたので、恐らく、その方は文楽を見慣れていらして、その「お約束」を破ったところで笑っていらしたのだと思う。
かといって、何も判らないから笑えない、ということではない。かなり笑ってきた。
大夫の語る物語は、曽根崎心中が流行った江戸時代である。曾根崎天神の森近くで団子屋を営んでいた夫婦が、天神の森が心中の名所となって団子屋には客が来なくなる、これはいかんと心中の男女を止めては森の外に追い返すということをしている。
そうして、一組の男女を、夫が森から団子屋に連れ帰り、その妻が破天荒な人生相談で諭して饅頭も食べさせて返すということがあったのをきっかけに、この夫が「人生相談屋」を始めて大ヒット、というところが物語の始まりである。
大夫の語る言葉は今自分達が使っているような言葉で「大ヒット」なんていう単語も出てくる。
それでも、慣れていない私には、独特の節回しに乗った日本語が聞き取りづらい。この節回しに乗る現代日本語で脚本を書いた三谷幸喜も、これを独特の節回しに載せた大夫さん達も、相当に苦労したんだろうなというのは何となく感じられる。
それでも、やっぱり私の耳にはなかなか入りづらかったというのが本当のところである。
しかし、最後の方には意外とすんなり耳に入るようになっていたので、慣れもあるのかも知れない。
そんな訳で、ところどころで笑いつつ、でもちょっと苦労しつつ見ていたうちは、実は、人形を動かす人形遣いの人が気になって仕方がなかった。何しろ一体の人形に3人の黒い服を着た人が付くし、自由に動かすためには人形遣いの方が人形より前に出てきてしまうこともある。
何というか、存在感が大きすぎるのだ。これは、暗いところで上演されていただろうその昔には特に気にならなかったということなんだろうか。
でも、そうこうするうちに、ずっと同じ顔をしている人形が(ちなみに、女の人は概ね下ぶくれのおかめ顔である)違う表情を見せているように思えたり、三味線の音と大夫の語る台詞と人形とが渾然一体になっているかのように思える瞬間があった。
これは凄い。
この瞬間を味わうために文楽を見る人は文楽に通うのではなかろうか。
如何せん、この場合、受け取る私の方が全く素養がないもので、「瞬間」が長く持続することは難しいのだけれど、文楽というものをよく見よく知っている人ならもっとたくさんのこの瞬間を味わえるのだと思う。
物語は、近松門左衛門が別の心中物の芝居を書いてそちらが大当たりしたもので、団子屋の人生相談を訪れる人はいなくなり、「宵越しの金は持たない」とばかりにぱっと贅沢三昧していた団子屋の主人(妻と娘もいるし、一緒にやっていたのだけれど、女はいつでも堅実なのである)はあっという間に借金まみれになる。
近松門左衛門に「曽根崎心中の続編でも新編でもとにかく書け」と言いに行ったもののすげなくあしらわれ、書いて欲しければ書きたくなるような心中をしてみろと言われ、娘のために心中しようとした2人は淀川に飛び込むけれども「こんなに死ぬことが苦しいなんて」と生き延びる。たくましい。
さらに、人生相談を始めるきっかけになった若い男女2人が、「女将さんの言うとおりになりました」と2人にお礼のお金を差し出し、そのお金で借金を返し、淀川にドボンと行ったために水を吸いまくった饅頭を食べながら「水饅頭を売り出そう」とさらにたくましいことを言い出す。
ここで、幕である。
文楽は、きっと面白い。
でも、その面白さを十全に受け止めるためには相当の修業が必要である。
その文楽を現代語で、そして喜劇」として見られてよかった。そう思ったのだった。
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