「くじけまみれ」を見る
月影番外地 その3「くじけまみれ」
劇作・脚本 福原充則
演出 木野花
出演 高田聖子/丸山厚人/山本圭祐/碓井清喜
植田裕一/政岡泰志
観劇日 2012年8月3日(金曜日)午後7時開演
劇場 ザ・スズナリ D列8番
料金 5000円
上演時間 1時間50分
高田聖子をスズナリの空間で見られるというのはやっぱり相当に贅沢だった。
ネタバレありの感想は以下に。
何か、最初のうちはただ痛い感じでどうしようかと思ってしまったくらいだった。
高田聖子演じるアサコは、赤羽で社長一人社員一人の小さな会社で20年間、駅前のティッシュ配りをしている女性である。
会社にいても、社長の指示がなければ何ひとつ反応しない。かと思うと、社長が暴力を振るう素振りを見せるや、取引先の若者に「私がスキを作るから逃げて」と囁く。
そういえばタイトルは「くじけまみれ」だし、「くじけまみれ」の意味は今ひとつ判らないけれど幸せそうじゃないことは確かだし、このまま不条理な方面に突っ走って行くのかしら、とちょっと戦いた。
しかも、その後が「宇宙からの交信か?」みたいな雑音が入りまくったラジオ放送をアサコが必死になって聞こうとしている、ついにはそのラジオの語り手と会話まで始めてしまうという展開になったから、さらに私のおののきは深まる。
ここのところ職場でブルーになることが続いているので、どちらかというと、パッとした感じになりたかったのだ。
でも、アサコ演じる高田聖子はとにかく可愛らしいのに、アサコは卑屈という感じを全身から発散させていて、何というか「お願い止めて−!」と思ってしまう。
そこへ持ってきてさらに、社長がアサコにプロポーズして断られ(というか、俺のいいところはどこだと聞いて、何の回答ももらえなかったということなのだけれど)、落ち込んで河原に座り込んでいるときに、ポニーに乗った小学生が現れ、あらかわ遊園でポニーの引き手を務めている青年が現れ、その青年を指して社長が「自分はあれよりはましだという存在は大切なんだ」と説き始めたときには、全体に漂う「何となくズレている感じ」を吹っ飛ばして、やっぱり「止めてくれー!」と思ってしまった。
結局のところ、道具立ての飛び道具さ加減に騙されていたけれど、えらくリアルな物語がここで綴られているということなんだろう。
ところで、私が見たのは初日で、舞台転換(キャスター付きのパーテーションを回し動かしている)に失敗したり、衣装の「ポニーに乗った人の足」が取れてしまったり、ポニーの手綱が足にからみついたり、パッと見て判る失敗がいくつかあった。
今日以降はきっとスムーズになっていると思う。
もう一つ、初日だからなのか、客席側も「関係者ですか?」という感じで、特定の役者さんが登場するとおしゃべりの声がしたり、「ここは違うのでは」というところで大きな拍手を響かせたりしているのが少し気になった。私は集中して見たいので、ちょっと残念だった。
アサコが聞いていたラジオ放送は実は普通に海賊放送で(宇宙からの交信などではなく)、その流し手がポニー引きの青年だったという辺りから、話はリアルになって行くと言えばいいのか、ますます荒唐無稽になって行くと言えばいいのか。
2人は電信柱の上で出会い、そして、青年はアサコが悲しい顔をしなくていいようにと、赤羽を不幸な人で埋め尽くそうとする。
海賊放送など聞いている人はいなさそうだったのに、アサコがラジオを街のあちこちに置いてまわり、ティッシュで宣伝し、放送の出力を上げるなど「独身の四十女は資格をたくさん持っているものよ」「独身の四十女は貯金だけはたくさん持っているものよ」といきなりリアルに痛い台詞を言いつつ、「**を攻撃せよ」みたいな放送をバックアップする。
かくして、赤羽は無法地帯兼交戦地帯のようになり果て、確かにアサコはその環境にあっという間に馴染んで笑顔が出るようになったものの、青年の方は「こんなことでいいのか」と思い始める。
わざわざ決心しなくても肝が据わっている女と、「やるぞ」と自分に言い聞かせてやっと動ける男の差は、ここから不幸な響きを帯び始める。
最終的に、2人は、川向こうで元社長がアサコを再び「悲しい顔の女」にするというだけの野望で作った街に脱出しようとする。
そこで、幕である。
例えば、「脱出しようとしたって人生から脱出することはできない」とか、「脱出したからと言って脱出先に幸福が待っているとは限らない」とか、「自分が悲しくならないためには周りにもっと悲しくなってもらえばいいんだ、という考え方で本当に幸せになっているのか」とか、割とストレートな思いが語られているのか、そんな気恥ずかしいことを伝えたい訳ではないのか、いずれにしても見終わるときには自分が前のめりになっていることに気がついたのだった。
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