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2012.08.11

「鎌塚氏、すくい上げる」を見る

M&O plays プロデュース 「鎌塚氏、すくい上げる」
作・演出 倉持裕
出演 三宅弘城/満島ひかり/田中圭
    市川実和子/広岡由里子/玉置孝匡
    今野浩喜(キングオブコメディ)/六角精児
観劇日 2012年8月10日(金曜日)午後7時開演
劇場 本多劇場 F列10番
料金 6800円
上演時間 2時間10分

 ロビーではパンフレットやTシャツ(値段は確認しそびれた)が販売されていた他、満島ひかり出演の舞台「100万回生きたねこ」のチケットが販売されていて、結構人だかりがしていた。

 ネタバレありの感想は以下に。

 森崎事務所の公式Webサイトはこちら。

 何故エーゲ海クルーズでお見合いしなければならないのかという疑問はとりあえず放り投げておいて、公爵家(侯爵家かも知れない)の令嬢令息がエーゲ海クルーズで、何故か両親はおらず、お付きの執事と女中頭に見守られてお見合いするその顛末の物語である。
 というか、物語は、多分あまり問題ではない。
 レールに乗っかってお見合いするのが嫌さに、あるいは相手の本性を知ろうとして、自分はお付きのものになりすまして見合いの席に乗り込むというのは、シェイクスピアから始まって割と「定番」の設定だと思う。

 定番といえば、鎌塚氏の相手役を務める女中が、この舞台の「語り」を務めるのもこのシリーズの定番になりつつあるのかも知れない。
 前回はともさかりえが、今回は市川実和子が、マイクで(姿を現さずに音声で、ということである)語りを務めていた。

 三宅弘城演じる「完璧なる執事」鎌塚アカシは、その名にふさわしく、田中圭演じる公爵令息にお仕えし、何ごとも「ごもっともです」と受け流し、「承りました」と引き受け、このお見合いを成功裏に導くべく奮闘する。
 しかし、すんなり言ってしまえば鎌塚氏活躍の余地はないわけで、そもそもこの「お坊ちゃま」がとんでもなくええかっこしいかつ自信過剰かつ小心者な人物である。この「中味が伴っていない気障でしかも阿呆だけど、悪事は絶対に企めそうにない気のいいお坊ちゃま」を田中圭が嫌味なく演じているのが可笑しかった。「おひさま」の人間出来たお兄さんのイメージしか持っていなかったので、尚更である。

 もちろん、鎌塚氏の行く手を阻む方々者どもは他にもいる。
 満島ひかり演じる見合いの相手の令嬢花房センリはとんでもなく勝ち気でワガママなお嬢様だ。親の敷いたレールに乗っかって見合いするなんてとんでもないと、市川実和子演じる女中頭の安友ミカゲに命じて入れ替わり、見合いの相手の由利松モトキが女中である自分に惚れたら見合いに応じましょうと訳の判らないことを言い出す。そういう訳で入れ替わった2人だけれど、ミカゲが「完璧なる執事」である鎌塚氏に憧れていたものだから、話はどんどんフクザツになってゆくのである。

 そこへ持ってきてさらに事態を引っかき回すのは、前作でもやっぱり物事を引っかき回していた、広岡由里子演じる堂田男爵夫人と、玉置孝匡演じる男爵夫人の執事でやたらと女中に惚れてばかりいる宇佐スミキチである。
 男爵夫人は、モトキと自分の娘達の縁談(そんなものはどこにもない)を成功させようと、モトキとセンリの見合いをぶちこわすようにスミキチに命じ、ミカゲを知っていたスミキチはもちろんプレッシャーをかけに行くし、利用もする。鎌塚氏のことも知っていて、彼を陥れるべく見合いが上手く行かなくなるような入れ知恵をたっぷりする。
 大体、この2人は「男女の水死体が!」と発見され、わかめと昆布まみれで船に上がって来るという派手な登場をしていて、トラブルメーカーここに極まれりといった風情なのだ。

 そこへ、今野浩喜演じるどう見ても役に立っていなさそうな船長と、六角精児演じるどう見ても有能そうかつ多方面で実際に役立っている船員とがからみ、この2人がやっぱりクルーズ船上で行われたセンリの父親と堂田男爵夫人の見合いのときにもいて、しかも堂田男爵夫人は振られてたまたまクルーズ船にいたセンリの母親が結婚することになったというエピソード付きだから、さらに話はややこしくなる。

 ややこしいとかフクザツとか書いてはみたけれど、お芝居を観る上では全くそれは障害ではない。
 とにかく、「完璧なる執事」である鎌塚氏が謹厳実直にモトキお坊ちゃまにお仕えする様子を楽しみ、そのモトキお坊ちゃまの周り見えてない感にクスリとし(でも、繰り返すけれど、このキャラを「愛すべき」という感じにしてしまえる田中圭はなかなかだと思う)、気は強いけれど芯は優しいセンリに見とれ、妙に健気なミカゲを応援し、堂田男爵夫人の企みとスミキチの暗躍ぶりを楽しむ。
 そうこうしているうちに、鎌塚氏が「完璧なる執事」の称号の割に、混乱して家宝のティアラをその辺に放り投げてしまったり、それを探すべくセンリが必死になったり、船長と船員との隠されたエピソードが明らかになったり、大嵐が来たりと物事はころころと転がって行く。

 鎌塚氏がセンリ(このときはまだメイドの振りをしている)に向かって、自分の夢はこの方にお仕えしてよかったと思えるような主人に仕えることだと語り、もしそういう主人ではなかったとしたら運命を恨むだけだと語る。それを聞いたセンリの表情や、お坊ちゃまから「ティアラが見たい」と言われてそれを誤魔化すためにとんでもない女中をさらに演じて鎌塚氏と取っ組み合うセンリの必死さ加減、実は自分が花房センリであると明かし(にも関わらず信じないというか話の筋が見えていないらしいモトキもどうかと思うが)、その後で鎌塚氏が聞いていた「昭和歌謡」らしい中森明菜を歌うセンリ(これが絶品だった)など、後半は満島ひかりワンマンショーの様相を見せる。
 いや、格好いい。

 その格好いいセンリにモトキが惚れるのは判るとして、どうしてセンリがお見合いを受け入れる気になったのかが今ひとつ判らないのだけれど、それはこの際どうでもいいだろう。
 つまるところは、お見合いを見事に成功させてまた「完璧なる執事」に戻った(?)鎌塚氏の満足げな表情を見て、こちらの満足した2時間強だった。

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