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2012.09.29

「エッグ」を見る

「エッグ」
作・演出 野田秀樹
音楽 椎名林檎
出演 妻夫木聡/深津絵里/仲村トオル/秋山菜津子
    大倉孝二/藤井隆/野田秀樹/橋爪功
観劇日 2012年9月28日(金曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス S列2番
料金 9500円
上演時間 2時間5分

 改装後、初めて東京芸術劇場に行った。なかなかいい感じである。

 パンフレット(1000円)と椎名林檎の曲を深津絵里が歌うCD(2000円)とがセットで販売されていてかなり迷ったのだけれど、もう1回見に行くのでそのときまで迷うことにした。

 ネタバレありの感想は以下に。

 野田地図の公式Webサイト内、「エッグのページはこちら。

 改装後に初めて入った東京芸術劇場プレイハウスは、「あれ、こんなに狭かったっけ?」というのが第一印象だった。もう少し横に広い客席だったような気がするのだけれど、どこか別の劇場と勘違いしているだろうか。
 木を使って、客席の雰囲気はかなりシックになっている。
 その客席の向こうには、白い明るい舞台がある。天井が高く、その高い天井を低めの位置に梁を渡すことで区切っているのだけれど、でもその梁は細く白っぽいのであまり存在感はない。
 だだっ広い舞台の上に、更衣室にあるようなロッカーがたくさん散らばっている。

 舞台上に、野田秀樹演じる、この劇場の芸術監督の愛人を名乗る野田秀子が登場し、修学旅行なのか集団就職なのか集団「永久」就職を目的にやってきた女子高生を案内している。
 さて、どこに案内しようとしているのか、どこを案内しているのか。
 のっけから、時間も場所も一貫性があるようでしっちゃかめっちゃかの世界に突入する。

 かいつまむのも難しいのだけれど、仲村トオル演じる「ツブライ」や妻夫木聡演じる「アベ(ベ)」は、エッグという競技でオリンピックを目指している。
 でも、実は「エッグ」はオリンピック種目にはなっておらず、選手が暴力事件を起こしたこともあって、オリンピック出場は絶望的、4年後の東京オリンピックを目指すことになる。
 東京オリンピックだったら、とりあえず目指さなくても出場権は得られるのではと思ったけれど、それはまあどうでもいい話だ。

 一方で、秋山菜津子演じる「オーナー」は、「エッグ」をオリンピック種目にしようと目論んでおり、深津絵里演じる歌手の「イチゴイチエ」を利用し、藤井隆演じるそのマネージャー兼振り付け師に「エッグ」の宣伝映画を作らせ、イチゴイチエと彼女が惚れているツブライとが結婚できるようにしてあげようと持ちかけておいて、アベと結婚させてしまう。
 このオーナーとイチゴイチエが母子で、橋爪功演じるイチゴイチエの父親は「エッグ」チームの監督だというのだからややこしいといえばややこしいし、少ない登場人物でやりくりしているといえばやりくりしている。

 さらに、この物語を書いたのは寺山修司で、その題本を東京芸術劇場芸術監督の野田秀樹が書き継ぎ書き換えているという設定もあって、でもこの野田秀樹と、「エッグ」チームの監督とは同じ時空間に存在することもある。
 見ていて特に違和感は感じないのだけれど、こうして書き出そうとするとやっぱりしっちゃかめっちゃかだ。

 4年後の東京オリンピックを目指していた、何故かナースの制服に身を包んだエッグチームだったけれど、その東京オリンピックは中止となり、やはり出場できなくなってしまう。
 この舞台で語られていた「東京オリンピック」は、1964年に開催されたオリンピックではなく、1940年に開催される筈だったオリンピックだったのだ。

 実はこの辺りまでは、何だか「熱」を感じないなと思って見ていた。
 女子高校生役や看護婦役、エッグチームで暴力事件を起こしてしまったヒラカワを演じた大倉孝二や他のチームメンバーを演じる男優陣も加わって、出演者はかなり多いし、多い出演者の動きはキレがよくて見ていて気持ちがいい。
 深津絵里のロッカーは、何というか、松田聖子そのものだ。
 場面転換も、そもそも演じるべき場面に連続性がなかったりするので、素早い。
 スピード感もある。言葉遊びが少ないのは意外で、だからなのか、これだけ構造は複雑なのに「随分とストレートな芝居だな」と思いながら見ていたように思う。

 そして、スポーツの熱狂を皮肉る芝居だという前情報がインプットされていたせいか、競技そのものではなくその開始前のロッカー室が主な舞台だったせいか、何というか、熱が感じられない。
 ずっと、どうしてだろう、どうしてこんなに熱狂が感じられないんだろうと時々首を傾げたくらいだ。
 私にしては、この間、芝居を見ない期間が長かったのでそれも理由の一つだったのかも知れないのだけれど、テンションが低いという訳ではなく、熱が感じられないと思いながら見ることになった。

 それが、東京オリンピックが中止になり、「エッグ」をオリンピック種目にするための宣伝フィルムは寺山修司が書いた脚本の一部を削除しているという話になった辺りから、俄然、「謎が謎を呼ぶ」といった嵐が起こり始める。
 「エッグ」という競技が、玉子を割らずに黄身と白身に分けるという仕事をしていた若者達が休憩時間に遊んでいた仕草から生まれたものであること、その生まれた場所が満州であること、ツブライが医者であること、チームメートだったヒラカワまでが人体実験にさらされたこと、背番号で一瞬見せられる「7 3 1」の数字。
 それまでせき止められていたこれらのことどもが、一気に舞台上で奔流のように暴れる。

 最後、「オーナー」が手にしたお金でアメリカの製薬会社の株を買った、もうこれで満州から撤退だ、逃げ道だけは用意してある、と言うのは象徴的である。
 玉子の黄身と白身を分けるのが上手かったアベ(べ)は、遺書を残して死んだことになっていたツブライの身替わりにされ、ほとんど動けない状態で満州に残される。母に一緒に逃げるのだと言われたイチゴイチエは、ここに残るとアベ(ベ)の座った車椅子に寄り添う。
 2人が死んだことが爆音で示唆されるけれど、このお芝居はここでは終わらない。

 野田秀樹が登場し、「あっ」と何かに気付く。
 よく判らないのだけれど、そして明らかに物語の本筋からは外れた部分なのだけれど、この「あっ」という台詞が言われるタイミングと言い方は、このお芝居を決める重要な要素という感じがする。
 野田秀樹が何を言い忘れていたかというと、寺山修司に「エッグ」という戯作はないことと、野田秀樹に愛人はいない、ということなのであった。

 このお芝居は、最後の奔流にこそ真骨頂がある。テンポよく展開する前半は、けれど大河のように緩やかな物語だ。
 スポーツの熱狂に、「戦争」が隠されているかも知れない。
 戦争の隠れ蓑には常に何か「熱狂」するものが使われる。
 やっぱり、そういうストレートなお芝居だったのかも知れない。

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