「クールの誕生」 を見る
Dステ 11th 「クールの誕生」
脚本 鈴木聡
演出 山田和也
出演 柳浩太郎/鈴木裕樹/加治将樹/牧田哲也
三上真史/山田悠介/堀井新太(以上D-BOYS・順不同)
三鴨絵里子/俵木藤汰/弘中麻紀/永井秀樹
観劇日 2012年9月7日(金曜日)午後7時開演
劇場 紀伊國屋ホール P列15番
料金 7000円
上演時間 2時間10分(約10分の残業ミーティングあり)
ロビーではパンフレットの他、この作品のDVD予約販売等が行われていた。
ネタバレありの感想は以下に。
Dステのお芝居は初めて見た。そもそもが、Dステのお芝居を観ようというよりも、鈴木聡が脚本を書く! ラッパ屋のメンバーが出演するサラリーマン芝居! 見なくちゃ、という動機でチケットを取ったのだ。
なので、劇場に足を踏み入れた瞬間、その若い女の子率の高さに驚いた。ときどき年配の男性も混ざっていたけれど、客席の80%くらいは若い女の子だったんじゃなかろうか。客席の女性率の高さはいつものことだけれど、こんなに若い女の子が多い客席というのは初めてだった。
そして、今日日、年配の方々よりも若い子の方が実はマナーに敵っているというのは普通のことである。ちょっとほっとする。
舞台は1963年の、とある商社(だと思う)の屋上である。
翌年に開催される東京オリンピックを商機として捉え、ものものしく「FPの独占販売権を得よう」「デンマークの会社がシェアの80%を独占している」等々と煽りつつ、その販売権を得るために部長を始めとする営業のトップが接待攻勢をかけている、というところらしい。
課長2人はそのお供につき、下っ端の2人はとうとう経理に出してもらえなくなった接待費用を捻出するため、自分の持ち物を質入れして帰って来たところらしい。
1963年ってそういう時代? と思う。
かつ、出演している面々がやっぱり今の男の子の顔なので、どこかしら違和感がある。あの時代、その顔の男子はいないだろう、という感じがする。やっぱり、時代が顔を作るのだ。
東京オリンピックに向けて、オリンピックマークの下をマラソン選手が走り抜ける「フローティングペン」を作って売り出そうというのがこの会社の目論見である。
オリンピックマークの使用許諾を取るべく奮戦しつつ、このフローティングペンを国内で唯一(だったかな)製造している会社の副社長を接待攻勢で落とそうと、会社の隣にあるキャバレーに連れてきて、会社の反対隣にある宿舎に住んでいるホステスを味方に付けてこちらも奮戦中だ。
どうも「本当にこんなことがあったのかなー」と思ってしまう自分が、自分でも謎である。
よくあることなのか、よくあったことなのか、実はそのホステスに課長の一人が惚れていたり、下っ端の一人も惚れちゃったり、その恋の成就を助けようというお局様が出てきたり、彼女は彼女で同じ課の年下の男の子が自分を好きだと固く思い込んでいたり、本当のところはそのホステスともう一人の課長がデキていたり、ライバル会社が現れてホステスの人数を増やして大接待攻勢をかけてきたり、オリンピックマークの使用許可が実は降りそうもなかったり、キャバレーのボーイの男の子が実は下っ端社員の幼なじみだったり(幼なじみと言うよりは一方的に虐められていたようだけれど)、接待攻勢で負けそうになったときに「伝説の営業社員」が現れて「想い出の味」を再現することで大逆転に王手をかけたり。
ある意味、王道のストーリーだ。
D-BOYSの面々と、それを支えるラッパ屋の面々、永井秀樹を見るのは初めてだと思うのだけれど、彼の演じる「接待攻勢を当然のように享受する男」がイヤな奴で、そして秀逸。立場の強さで嵩にかかってくるこーゆー奴っているんだろうなという見事な嫌な奴っぷりである。
行け行けどんどんの時代だったんだろうなということは想像できるし、会社の面々もちょっとヘンだったりしつつも基本はみんないい人で、その中にこういう判りやすい嫌な感じの奴が出てくると何だか逆にほっとしたりもするのである。
その「嫌な奴」が、ホステスとホテルを用意しろと言い始めた辺りから「モーレツ社員に後一歩」のところにいる彼らの間に葛藤が渦巻き始める。彼女はこれまで彼らの仕事に協力してきてくれた「同士」だし、課長なんぞは家族がいるにも関わらず「デキ」てしまっている。
そこへ持ってきて、判りやすく嵩にかかった要求で、でもこの仕事を絶対に取りたい、これまでガマンしてきたのは一体何だったのかという思いもあり、とにかくぐるぐると彼らの思考が渦巻いているのが判るかのようだ。
結局、彼らは、課長と彼女を逃がす方を取り、接待相手は「この仕事は**と組む。それでいいな」と言い置いて戻って行く。
方向性としてどうなのかという気はするけれど、「努力が報われない」っていうこの終わり方はどうなの、ともやもやする。
接待される方の副社長も、「思いっきり生きてやる」というそのことの理由を語りはするのだけれど、その語りはこれまでのイヤな奴感を払拭するまでは到底いかない。
そこから一転、さらに嫌な奴が登場するのがこのお芝居のいいところである。
伝説の営業社員がぽろっと「こちらの情報がどうして向こうに筒抜けなんだ」と呟くシーンがあるのだけれど、その呟きを見事に回収するのだ。
実はキャバレーのボーイの彼が、幼なじみ(といっても、経済的に格差があって、その後の人生設計にも大きくそれが影響してというところがあるので、幼なじみというイメージとは違うのかも知れない)への対抗意識から、ライバル会社に味方して情報を流し、それを手土産に社員として就職したのだと「わざわざ」告白しに来たのだ。
よし、ここで更にバージョンアップしたイヤな奴登場だ、と喜んでいたら、この幼なじみというか先輩は、あっさり彼を許してしまう。
よその会社の自分はいいけど、入社して仲間になった人達は裏切るな、とだけ言うのだ。
てきとーそうでいわゆる「使えなさそう」な感じだったくせに、ここだけ格好いいのがポイントが高い。
その後で、伝説の営業社員が登場し、九州転勤を告げ(この段階で意外と大きな会社じゃないかと思ったのは私だけなんだろうか)、誰かにとって重要な人であれば会社の歯車になってもやっていける、と説く。
面と向かって言われたら多分、陳腐極まりないと即座に却下したくなる台詞なのだけれど、マイペースここに極まれりといった風情かつしゃべり方のこの登場人物に言われると、まあ、いいかという気になる。よくよく考えると彼に仲間がいたようには見えないのだけれど、それは「隠した方が格好いい」らしいので、追求しないことにする。
この仕事は取れなかったけれど副社長とはパイプができたと喜ぶ部長、駆け落ちして姿を消した課長に、出世した課長、左遷された伝説の社員に、「どうなっても昼飯は一緒に食べよう」と言う下っ端の男2人。そういえば、あれほど嫌がっていたお局様と結婚するかも知れないと言い出したいつも笑顔の総務課社員もいた。
終わる寸前はもやもやしていたのに、幕が下りたときには何故かスッキリしている、不思議な「サラリーマン芝居」だった。
5分ほど休憩があって「残業ミーティング」という名のミニトークが付く。
「伝説の社員」と「趣味の園芸」の対決は、なかなかギャップが大きくて面白かった。
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