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2012.10.06

「樹海-SEA of THE TREE-」を見る

「樹海-SEA of THE TREE-」
作・演出・出演 鈴井貴之
出演 岡田達也(キャラメルボックス)/佐藤めぐみ/井之上隆志
    石井正則/納谷真大/鈴井貴之
観劇日 2012年10月6日(土曜日)午後2時開演 初日
劇場 ル・テアトル銀座 24列13番
料金 6500円
上演時間 1時間50分

 ロビーでパンフレット等々が販売されていたと思うのだけれど、うっかりチェックしそびれてしまった。
 Tシャツが売っていて、赤いきつねと緑のたぬきに引っかけてあるらしい、ということだけしかチェックしていない自分が少し悲しい。

 「樹海-SEA of THE TREE-」の公式Webサイはこちら。

 樹海といえば青木ヶ原、青木ヶ原樹海といえば自殺の名所ということで、このお芝居も直球で自殺(というよりも、自殺志願者)を扱っている。
 舞台は樹海、そこに自殺しようと3人の男と1人の女が入り込んで鉢合わせする。
 1人の男は、キャンプ道具一式を持ち込んで寛いでいるし、1人の女はほとんど何も持たずに飢え死にを目指して入り込んできたらしい。そこに、高いところに上ろうとしている白いスーツを着た年配の男と、つなぎを着て落ち葉に埋もれて眠っていた男が現れて、全員が自殺しようと樹海に入り込んできたらしいことが判る。

 網目になったセットから光が漏れ、舞台左手奥には白い百合が一株だけ咲いていてスポットライトが当たっている。
 何というか、舞台セットの造りとしては神秘的というのか、光を見せることに気を配っているようだ。コメディを演じる舞台セットではない。
 でも、最初の男と女のやりとりのせいなのか、どこか緩い感じが漂っている。笑いもそこそこ取る。主な登場人物人が自殺しようとしていることを考えると、そしてそれに相応しいセットを作ったところからすると、かなり微妙なラインを衝こうとしているんじゃないかという感じがした。

 4人はそれぞれ「自分がここで死ぬべき権利がある」と主張し「他の人は邪魔だからどこかへ行ってもらいたい」と主張する。その話し合いがまとまる気配はなく、井之上志演じる一番年長の齋藤(ちなみにこの齋という字は、キャスト表で指定してあった)という男の提案で、それぞれが自殺するべき理由を訴え、最後に多数決でここで死ぬべき人を決めようということになる。
 どこかしらおかしいのだけれど、どこがおかしいとは指摘できないまま、もちろん舞台はサクサクと進む。
 「一番の新参者から」という順番も可笑しい。

 石井正則演じる高橋はカリスマ美容師から家庭崩壊に至る顛末を語り、佐藤めぐみ演じるリエは幼い頃からデキが良すぎるが故につまはじきにされてきた過去を語る。
 お互いにお互いの「死ぬべき理由」を責め合ったり、納得したり、様々なリアクションが湧くのだけれど、この2人の場合それは「本当に死ぬべき理由なのか」という辺りから「自ら死ぬ権利があるのか」という方向に話が流れ出す。
 何というか、本当は死ぬべき理由もないのに樹海に入り込んだダメな人達の話になるのか? と思ってしまう。

 それが、齋藤が語り出すと、様相が変わる。
 齋藤の語る自殺すべき理由は、要するに「恵まれすぎて、生きている実感がない」というところに尽きる。周りの若者3人は、もちろん、そんな理由を理解する筈もない。
 人は見かけによらない、というのが、もしかして隠しテーマなんじゃないかと思うくらいに成功者の外見をしていないところがポイントなのかも知れない。

 何というか、(そんなエラそうなことを言えた立場でもないのだけれど)ダメダメな人たちじゃん、と思っていると、次に語り出した岡田達也演じる佐々木がいきなり空気を一変させる。
 何しろ、第一声が「僕は人を殺しました」だし、その後も、見ず知らずの3歳の男の子、母親、父親を殺した話をしながらカッターをずっといじっているのだから、ぞーっとするような空気が醸し出されるというものである。
 ただ、その展開はあくまでもスパイスであって、方向ではなかったようで、そこまで語った佐々木はあっさりと最後に「全部ウソ」と告白する。大層な理由がないとここで死なせてもらえそうになかったから作り話をしたけれど、実際のところ動機なんかない、というのが彼の言い分である。

 予告されていたものの、この辺りで着ぐるみの赤いきつねと緑のたぬきが辺りをうろつきだして、一気に雰囲気は元の緩い辺りに舞い戻る。
 人間には「コンコン」としか聞こえないらしいけれども人間の言葉をしゃべっているきつねとたぬきは、基本的に自殺しに来た人間たちに呆れているし、馬鹿にしている。
 「自分たちで森を壊しておいて急にエコエコうるさい!」という彼らの叫びは唐突だ。
 彼らの動きや台詞に笑いつつ、彼らをここで出現させたのは何故だろう、とちょっと首を傾げてしまった。

 さあどうやって最後を落とすんだ? と思っていたところ、きつねもたぬきもオチには協力せず、ここで落としたのは齋藤だった。
 テントに目張りして練炭自殺を図ろうとした3人を、ホッケを練炭で焼くことでテントから追い出し(あまりの煙さに飛び出したらしい)、自分は実は死んでいる、あそこの首つり死体が自分だと告白し、そういえば決定的な何かを言った訳でもないのに、残りの3人に「実は自分たちは本当に死のうとしていなかった」「死のうと本当に思っていたなら樹海に入るまでにもいくらでも機会があった筈だ」ということを認識させてしまう。

 ラストシーンは、何故か仲良くなった3人が陽の光を頼りに樹海を抜けるべく出発するというシーンである。

 自殺を前面に出して芝居を作って、説教くさくもせず、人間賛歌にもせず、徹底的に笑いに持って行くこともせず、その間を微妙なバランスで縫って成立させようとしているお芝居のように思える。
 赤いきつねと緑のたぬきは、多分、シリアスに傾きすぎた芝居を引き戻すためのキーのようなものだったんだろう。
 芸達者な役者さんを集めてピンポイントでしか突破できない微妙なところを狙ったお芝居だという風に感じた。

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コメント

 逆巻く風さま、コメントありがとうございます。

 ですが、すみません。
 やっぱり私は演劇ライフのサイトに行っても、閉鎖のニュースを見つけることができませんでした・・・。
 何故???

 いずれにしても、お馴染みのサイトがなくなってしまうとは、やっぱり寂しいことですね。

投稿: 姫林檎 | 2012.10.08 22:34

あーっと、そのサイトで正解です。11月いっぱいで実質閉鎖、来年の3月で全面閉鎖とのことです。

投稿: 逆巻く風 | 2012.10.07 22:38

えー、多分昔のURLでしょう。記されたサイトで左上のホームのアイコン、または朱色のhomeをクリックすれば今のに行けます。
って、行ったことなかったんでしょうか?まあ、演劇サイトもいろいろありますから・・・・

投稿: 逆巻く風 | 2012.10.07 22:31

 お久しぶりです&コメントありがとうございます。
 姫林檎です。

 そうですね。テーマとしてはベタですよね。
 あとは、その微妙なラインを「踏みとどまった」と思うか「別の行き方があったのでは」と思うかで、このお芝居の印象はがらりと変わるような気がします。

 お馴染みのサイト閉鎖は残念ですね。
 演劇ライフのサイトに行ってみましたが、特に閉鎖の案内とかはないんですね。もしかして「演劇ライフ」違いでしょうか。私が見たのはhttp://engekilife.com/なのですが。

投稿: 姫林檎 | 2012.10.07 20:22

お久しぶりです。

1回書いたんですが、確認をしたら戻れなくなってしまいました (TT)

内容を読むと結構ベタ臭い(笑)ですが良さそうな芝居のように感じます。

ところで全然関係ないですが、よく出入りしているサイト〝演劇ライフ”がもうじき終了します。情報も感想も豊富でよく利用していたサイトだけに閉鎖とは残念です。
あまり観劇機会もなく書けなかったんですが最終的には読者(?)30位以内に入りサイトに載せてもらいました。
協力するというよりはお世話になったという気持ちの方が強く感謝の気持ちでいっぱいです。スタッフの方も良かったと思います。

そんなこんなで最近ブログを始めまして、今度はそちらの方がメインになりそうです。プライベートが多いのでちょっとお教えできませんが (^^;

投稿: 逆巻く風 | 2012.10.07 09:41

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