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「エッグ」
作・演出 野田秀樹
音楽 椎名林檎
出演 妻夫木聡/深津絵里/仲村トオル/秋山菜津子
大倉孝二/藤井隆/野田秀樹/橋爪功
観劇日 2012年10月19日(金曜日)午後7時開演
劇場 東京芸術劇場プレイハウス O列**番
料金 9500円
上演時間 2時間5分
「エッグ」2回目の観劇である。
迷った結果、パンフレット(1000円)を購入した。
ネタバレありの感想は以下に。
前に見てから1ヶ月もたっていないというのに、やたらと新鮮な気持ちで見ることができた。シーンごとに見覚えはあるし、台詞も結構覚えている、結末は判っているし、そこに至る経緯も知っている。
なのに、まるで初めて見るお芝居のような気がしたのはどうしてなんだろうと思う。
時々、「このシーンは少し演出が変わったかな?」と思うこともあったけれど、実際に演出が変わっていたのか、単に私が忘れていたのか、受け取るこちら側が変わったからなのか、不明である。
最初に見たときは、スポーツに熱狂することの危うさ、音楽に頼ることの危うさがテーマのお芝居だと思って見ていたのだけれど、どうやら違うらしいということはそのときに判った。
特にスポーツとナショナリズムという話は、ちょうどこのお芝居がロンドンオリンピック開催のすぐ後に上演されたこともあって、判りやすいと思うのだけれど、そういう判りやすいところには落としてくれないのが野田秀樹である。
それでは、このお芝居で描かれている怖さは何の怖さなのかといえば、情報操作の怖さということになるんじゃなかろうか。
本来は人体実験のための作業を「スポーツ」と偽る、売れない歌手を売るために結婚をでっち上げる、エリートを守るために彼の罪を全て「東北の農家の三男坊」に着せる。
事実とは違っていても、宣伝映画を流しまくり、大勢の人の前で宣言させて撤回できないように仕向け、罪を闇から闇へ葬ることで、全て誰かの都合のいいように書き換えられて行く。
そういった操作を可能とするための権力は、「世界中のものの9割はお父様と私のもの」と叫んだオーナーが満州での利権を手放した後で買ったものがスポーツと音楽であったということに収斂される。スポーツと音楽で世論を掌握することができる、そこに権力が生まれるという世界観だ。
そういう風に考えてくると、「エッグ」で描かれていたのは、スポーツでも音楽でもなく、ナショナリズムでもなく、「権力」というものだったのかも知れないとも思う。
スポーツや音楽は、その「権力」の隠れ蓑であると同時にスポンサーでもある、というのが、このお芝居の枠組みだったのかも知れない。噂と話をつけてくると背を向け、呟きを雇っているからどうとでも扱えると豪語する秋山菜津子演じるオーナーは、その中心にドカンと据えられた、いわば装置だ。
七三一部隊の話でもあるということは今回は見る前から知っていたのだけれど、この舞台を「権力」という言葉を中心に見てしまうと、その存在はすーっと後方に退いて行くように感じる。
その一方で、妻夫木聡演じるパッと出てきて一躍スターに躍り出たスポーツ選手の前向きな明るさと軽さがやけに弾けていたのと、深津絵里演じる歌手の甘ったるいそして気だるい感じもある歌声が印象に残る。それらは、踏みにじられる側の代表でもあるといえるんじゃないだろうか。
深津絵里の歌など今でも時々頭の中で回っているくらいだ。野田秀樹作詞・椎名林檎作曲のパワーもあるし、深津絵里の歌声と雰囲気もその曲のパワーに十分に拮抗していたと思う。迷った末に買わなかったのだけれど、やっぱりCDを買っておけばよかったとちょっと後悔している。
野田秀樹といえば言葉遊びだけれど、「エッグ」ではその比率はとても低いように感じた。マイクを代わる代わる回して歌っていたときくらいではないだろうか。
もしかすると、苺イチエが歌う歌詞の中に言葉遊びが散りばめられていたのかも知れないのだけれど、歌声を聴いてしまって気がつかなかったのだ。
そのせいもあるのか、何だかとてもストレートなお芝居という印象が残る。
真っ向勝負でストレート、伝えたいことを台詞に直接乗せるのではなく、でもストレートなお芝居というのは、実は相当に成立させ難いのではないかという風に思う。
多分、見るたびに違った表情を見せ、違ったことを感じさせ、考えさせる。
見る人によっても多分その姿を変える。
そんなお芝居だと思う。
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