「傀儡女~時の男最終章」を見る
リリパットアーミーII「傀儡女~時の男最終章」玉造小劇店 配給芝居vol.10
作・演出・出演 わかぎゑふ
出演 コング桑田/野田晋市/うえだひろし/谷川未佳
西岡香奈子/粟根まこと(劇団☆新感線)/八代進一(花組芝居)
みやなおこ/浅野彰一(あさの@しょういち堂)/船戸慎士(Studio Life)
小林大介(花組芝居)/森崎正弘(MousePiece-ree)/谷山知宏(花組芝居)
岡田朋也(kurukuru on parade)/平尾なつみ
観劇日 2012年10月17日(水曜日)午後7時開演(千秋楽)
劇場 スペースゼロ L列2番
料金 4500円
上演時間 2時間25分
ロビーではパンフレット(1000円)や匂い袋(500円)などが販売されていた。
また、この回もパンフレットへのサインは、みやなおことわかぎゑふのひらがな女性コンビだった。
ネタバレありの感想は以下に。
「時の男」の最終章である。
私はてっきり、前2作を両方とも見たつもりでいたのだけれど、帰ってきてから確認してみたら、どうも第1作しか見ていないらしい。
確かに、谷川未佳演じるキリタの立ち姿と彼がとても鼻が利く陰陽師だということ以外は何ひとつ覚えていなかったのだけれど、それにしても、芝居を見たかどうかも全く忘れていた自分がしみじみと情けない。
一度見たお芝居だからいいかとDVDも購入しなかったけれど、こうなったら購入しておくのが正解だったかも知れない。
時は、源頼朝の死後の鎌倉時代。何しろ、このお芝居の幕開けは、源頼家暗殺シーンである。
幕開けセンターで陣取っていたわかぎゑふ演じる牧の方が、あっさりと北条方に殺されて以後出番がなくなってしまうのが残念。この辺りから既に史実と虚構が入り混じり始めているように思う。北条一族としては、源頼家よりも弟の実朝を将軍職に付けたがっていたこと、北条政子は頼家を嫌っていた訳ではないこと、北条政子はそれほど「気丈な女」ではなかったことが示されるけれど、果たして「史実」はこのうちのどの部分なのか。
そしてて、この話をどう持って行くのか。
キリタが登場するまでの前半は、登場人物の関係や、どこまでが史実でどこからが虚構なのか考え始めてしまい、なかなか集中できなかった。
それを見越して、お寺で下働きをしている男達を登場させて「現在の政情」について問答させたりもしてくれるのだけれど、やはり、源平の時代というのは複雑なのだ。
思わず、平清盛(大河ドラマ)の視聴率が伸びないのも当然だよ、入り組んでいて判りにくすぎる、などと考えてしまった。似たような名前が多いとか、敵味方が判りにくいとか、要するに「馴染みがない」のだ。しかも、情けないことに、第1作のストーリーは全く忘れているし、第2作はどうも私は見ていなかったらしいのだ。
しかし、このお芝居は「時の男」の物語なのだから、谷川未佳演じるキリタが登場すれば俄然舞台は動き出す。
キリタが登場し、以仁王と出会い、上皇の寵姫のお供で鎌倉へ行くことになって、主要登場人物が鎌倉に揃う。
東京公演は2日間で、この回が千秋楽ということもあって、キリタが鎌倉初お目見えするシーンでは遊ぶ遊ぶ。そこに揃っている役者さんたちの匂いを嗅いでは、役者さんたちのプライベートを読み取って発表して行く。多分「いつもより余計に」発表していた筈である。
こういうお遊びの楽しみが千秋楽にはあって、それは楽しいのだけれど、一方で遊びなしの直球ストレートの芝居はどうだったんだろうとも思うのだ。2回見るのが正解だろうか。
キリタは、茜子姫のために、源頼朝一家に呪いをかけていたらしいのだけれど、頼朝の妻であり呪詛の大将でもある北条政子がそれを覚えていないことに不審を抱く。そもそも桐田は鎌倉には源氏撲滅のために来たらしいので、自らの安全保障上も理由を考えざるを得ないらしい。
ちなみに、前作・前々作で登場した(らしい)茜子姫は、わかぎゑふ演じる人形の姿で登場する。わかぎゑふら役者4人が黒衣になって舞台転換を行う姿が実は相当に格好良かった。
格好いいといえば、衣装がこれまた格好よくて、男性陣は和風でまとめているのだけれど、女性陣は何故か全員がドレス姿である。尼さんの筈のコング桑田だって、ピンクの花柄の修道服でクロスも下げていたような気がする。これで違和感なく同じ舞台に立ててしまうことが不思議である。
違和感なくと言えば、劇中で麻倉未稀のヒーローが大音量で流れ、鎌倉武士達がラグビーに興じるシーンがあったのだけれど、ここで「スクール☆ウォーズだ」とピンと来た人ってどれくらいいたんだろう。客層的に、ほぼ大丈夫だったような気もするのだけれど、結構何回か繰り返されたシーンだったので、ふとそんなことも考えてしまった。
それはともかく、キリタが訝しんでいるところに、悪役なんだかいい人なんだか今ひとつはっきりしなかった八代進一演じる北条義時が登場し、頼朝公の遺髪を用いてそのオーラ(とは言わなかったような気もする)を誰かに宿らせることができるかと相談する。
実は義時自身も陰陽師の修業をしており、三大将軍実朝は義時が式神を身代わりに使った姿であり、北条政子も夫と子供二人の横死に耐えかねて記憶を全て失い、いずれも義時が「動かして」いるのだという。
それにしても、こういうフィクサー的な役を演じているときの八代進一はしみじみと格好いい。格好いいけれど、これでは、源氏は既に滅亡したも同然で、義時が支えているのははりぼてではないかという思ってしまう。
そう思ったのは舞台のこちら側の私だけではないようで、源氏の弱体化を知った後鳥羽上皇が攻め入り、義時の政治に不満を持った武士達も造反し、源氏は(というか、正確には、すでに崩壊した源氏政権を支えていた北条義時と阿波局の北条政子の弟妹は)大ピンチに陥る。
一度はキリタの機転で頼朝の遺髪を以仁王に降りかけて乗り移らせて形勢を逆転させるが、逆に頼朝の力が強すぎて鎌倉全体が全滅しそうになる。どうにかならないのかとキリタにすがる政子とコング桑田演じる妙真(実は、昔キリタが慕っていた茜子姫)に、キリタは茜子を犠牲にすれば鎮めることができるがそんなことはできないと叫ぶ。
茜子に説得されたキリタが呪文を唱えると、時空が飛び、翌朝、全ての争いごとは「なかった」ことになっていた。仮初の平和の到来である。
キリタは義時に、それでも鎌倉は戦が起こりかけた場所であり、そういう意思が渦巻いていることを忘れるなと忠告する。義時は、問題があると判っていれば対処のしようがあると返す。2人とも、タイプは違うのだけれど、しかし、しつこいようだがしみじみと格好いい。
そして、あちこちに散りばめてあった伏線を、いつの間にか鮮やかに回収して平仄をピタッと合わせてまとめるわかぎゑふ作・演出の舞台は気持ちいい。史実だろうが虚構だろうが、そんなこととはすでにもう関係なく、とにかくスカッとした。
しかし、その義時があっさりとキリタに「次に生まれ変わるときには男で」と言ったときには、えー! そう落とす? と思ったけれど、一方でぐるっと回って戻って来たな、という妙な満足感もあったのだった。
ところで、この芝居の「傀儡女」は誰だろう。
北条政子、という答えは普通すぎるような気がするし、操っているのは誰かという問題は置くとして(そこが肝心なのだろうとは思うけれど)やはりキリタだろうか。
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